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ブス女ですけど転生して美少女になりましたの。ほほほ。  作者: 夢見るライオン
第一章 レイラ、マッチ売りの美少女になる

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14、令嬢、サンドラ

「あの、お嬢様、このマッチケースも買って下さいませんか?」


 私は大きなキャンディーの紙袋を抱えた母娘に声をかけた。

 一粒20ルッコラのキャンディーをこんなに買うだけの財力があるなら、この100ルッコラのマッチケースなんて安いものだ。


「マッチケース? わたくしマッチなんて危ないもの、触ったこともないわ」


 私と同じ年ぐらいの女の子が困ったように隣の母親を見た。


「まあ、貧民の子が話しかけないでちょうだい。図々しい」

 母親はあわてて私から遠ざけるように少女を抱き寄せて馬車に乗ってしまった。


 うう。差別がひどい。

 こんなあからさまな身分差別は、前世の日本にはなかった。

 覚悟していたつもりでも、バイキンのように言われるのがショックだ。


 でも気を取り直して店から出て来た他の母娘に声をかける。


「お嬢様、マッチケースはいかがですか? 綺麗なケースに入ってるんです」


 私は籠からマッチケースを三つ取り出して、広げるように見せた。


「あら、可愛い! これマッチのケースなの? こんなの初めて見たわ」


 そばにいた他の少女も、私の手元を覗き込んで叫んだ。


「まあ、ホント。ステキな絵柄ね。異国のものかしら?」


 異国といえば異国だ。よし、もらった。


「はい。異国の作家が描いた珍しい小物です。めったに手に入らないものです」


 少女たちは目を輝かせてそれぞれの親を見た。


「ねえ、お母様。このケースめったにないものなんですって」

「これも買って欲しいの、お母様」


 よし、いける!

 私は手ごたえを感じてたたみかけた。


「たったの100ルッコラです。本来ならば500ルッコラしてもおかしくないほどの作品なんです。今買わなければ売り切れてしまいますよ」


 悪徳訪問販売員になった気分だ。

 でもこうでもしなければ私はヨハンに殴られてジュラルミンケースを奪われてしまうのだ。

 背に腹は代えられない。

 それに嘘はついてない。

 今この世界に現存するのはここにあるのがすべてという、異国どころか異世界の私が描いた限定品だ。


「まあ、たくさんキャンディーを買ってあげたばかりなのに」

「でも確かに珍しい品ね。仕方がないわね」

「100ルッコラならこの貧しい子供に恵んであげたと思って出してあげるわ」


 うう。恵んであげるって……。乞食こじき扱いなんだ。

 ブスの私でも、そこまではっきり見下されたことはない。

 でもこの際そんなことにショックを受けていてもしょうがない。


 母親がバッグをあけて紙幣を取り出すのを見て「やったああ!」と心の中で小躍りした。

 初めて売れた。貴族になら100ルッコラでも充分売れる物だと分かった。


「ありがとうございます!」


 私は喜んで紙幣を受け取ろうと手を差し出した。

 しかしその時……。


「お待ちなさいな!」


 背後から高飛車な少女の声が響いた。

 驚いて振り返った私は、その顔を見てさらに驚いた。


「な、直子……?」


 それはウエーブのきいた長い黒髪に黒い瞳の、妹の直子にそっくりな美少女だった。

 貴族の少女たちの中でも一番フリル大盛りのドレスを着ている。

 そして後ろにいるお付きの執事らしき人が後ろから日傘をかかげている。


「な、なんで直子がこんなところに……」


「は? 何を言ってるのかしら、この下賤の子供は」

 直子はフリルたっぷりの腕を組んで、私の前に立ちはだかった。


「サンドラ様だわ」

「サンドラ様がこんな平民のお店にいらっしゃるなんて」


 他の少女たちがコソコソ話す声が聞こえてきた。

 どうやらこの少女は直子ではなくサンドラという名前らしい。

 そしてこの金持ちの貴族たちでさえ様をつけるほど身分の高い令嬢らしい。


「この貧民の子供が異国の作家の作品など手に入れられるわけがないでしょう? みなさまよく考えてごらんなさいな。インチキですわ。騙されてはいけませんわよ」


「な!」


 サンドラに言われて紙幣を差し出しかけていた母娘たちが顔を見合わせた。


「そういえばそうね。外来品など貧民の手に入るはずもないわね」

「じゃあこの子は嘘をついたの?」

「なんて卑しいのかしら。これだから貧民の子は……」


 せっかく買いそうになってた母娘は、軽蔑するように私を見つめた。


「う、うそじゃ……ない……」

 けど……ちょっと盛り過ぎたかもしれない。

 調子に乗って余計なことを言わなければよかった。自業自得だ。


「貴族に嘘をつくなんて無礼な! 行きましょう」

「100ルッコラぐらい恵んであげようかと思ったけど、悪い子には無理ね」

「行きましょう、みなさま」


「そ、そんな……」

 せっかく売れそうだったのに……。


 呆然とする私は、後ろから突き飛ばされて前につんのめって転んだ。そして籠の中のマッチケースがガシャガシャと音をたてて地面に散らばった。


「邪魔よ。ここは貧民の来るところではないの。さっさと視界から消えてちょうだい」


 直子……もといサンドラは、高飛車に言い捨てると、散らばったマッチケースの一つを踏みつけて『ロリポップ』に入っていった。


 う……おのれ直子いやサンドラめ!

 前世ばかりかこの世界でも私をおとしめるつもりなの?


 しかも美貌はそのままに高い身分まで手に入れて……。

 その上サンドラなんてこじゃれた名前まで。

 あんたなんてジミーとかヘイボーンとかに名付けられたらよかったのに。

 どこまでいっても、あんたは私を上から見下すのね。


 く、悔しい……。

 溢れそうな涙を歯を食いしばって堪えながら散らばったマッチケースを拾った。


 直子、いやサンドラが踏みつけたマッチケースは変形して絵の具がはげて売り物にならない状態になっていた。絶対わざと足の裏でぐりぐりしていったんだ。


 ひどい……。いったい私に何の恨みがあるっていうのよ。


 私はいつだってあんたに何もかなわなくて、両手を上げて降参してるのに。

 なんだって、こんなところまできて私を傷つけるの?


「大丈夫?」


 その時、拾い集めている私の視線に綺麗な布靴が映った。




次話タイトルは「令嬢、ナンシー」です

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