3、捜査開始
「そういえば妙な噂を聞きましてよ」
とにかく何でもいいから情報を集めようと、おしゃべりに興じる令嬢たちの噂話に聞き耳を立てていた。
「亡きスチュアート公爵様の家に養子を迎えたそうですわ」
「まあ! 公爵様の家に? あそこは廃爵が決まってたんじゃなくて?」
「ずいぶん物好きな貴族がいらっしゃったのね」
「没落貴族の子供かご両親を亡くされた方かしら?」
ドッキーン。
それって私の話よね?
一番聞きたくない噂を聞いてしまった。
「それがね、まさかと思うのだけど貧民の子供だっていうのよ」
「え? まさか! いくら廃爵が決まってるからって貧民はないでしょ?」
「もしかして凄い絵の才能があるとか?」
「さあ……詳しい話は知らないけど、ロイ様のご推薦らしいのよ」
「ええっ? ロイ様の?」
やっぱりどう考えても私の話よね?
「じゃあその貧民の子供はロイ様に会ったってこと?」
「うそー! 私だってまだ近くでお会いしたことないのに」
「遠目で見ただけだけど、ほんとに素敵な方よね」
ロイ様はやっぱり令嬢の間でも人気なんだ。
まあイケメンの上に後継者だもんね。
「ねえ、まさかその子供って女性ではないんでしょ?」
「ロイ様が気に入ったから貴族に推薦されたとか?」
「えーやだやだ。全然婚約者をお決めにならないと思ったら貧民の子供に心奪われてらしたとかないわよね」
いや、それはない。
そういう心配はしなくていいと思うけど。
「それがね。噂ではどうやらこの乙女会に招待されているらしいのよ」
「えっ! じゃあやっぱり女性なの?」
ギックーン!!
「うそ! どこどこ?」
「誰かしら?」
あなたたちの真後ろで聞き耳を立ててますなんて言ったらひっくり返るだろうな。
「元貧民だからすぐに分かるはずよ」
「即席で貴族ぶったって育ちの悪さは隠せないわよね」
「どの子かしら?」
令嬢たちがキョロキョロと辺りを見回している。
どっひーん!!
目が合ってしまったわ。
こうなったら。
「ご機嫌よう、みなさま。良いお天気に恵まれましたこと。おほほ」
自分から話しかけるしかない。
私は動揺を隠して顎を上げ、にっこりと微笑みかけた。
「あ、ええ。ご機嫌よう」
「本当に良いお天気ですわね」
微笑んだまま、しずしずと令嬢たちの目の前を通り過ぎた。
ふーっ。バレなかったわ。危なかった。
「今のはどちらの令嬢かしら?」
「見かけない方ね」
「それにしてもお美しい方だわ」
「ドレスは普通だけど……あの髪型ステキね」
「ドレスに生花を飾るなんて初めて見たわ」
「私も今度やってみようかしら」
よっしゃ!
なんてったって私美少女だもの。
この美貌があれば百難あっても誤魔化せるわ。
流行だって作ってしまうわよ。
小さくガッツポーズを作ってから、大人しく一番隅のテーブルにつくことにした。
一番端の五人掛けの円卓にはすでに四人が座っていた。
私と同年代ぐらいの身なりのいい令嬢が暗い顔で座っている。
なんだか違和感を感じたのは、彼女たちがとてもいいドレスを着ていたからだ。
見るからに高そうでセンスのいいドレスだ。
髪型も丁寧に上品に結われている。
本来なら前列の十人掛けのテーブルに座ってそうなご令嬢たちだ。
少し見慣れてくるとすぐ分かる。
前列と後列では明らかに貴族の位が違う。
ドレスの素材、宝飾、髪型、気品。
すべてが豊富な資金力で極められた令嬢と、そうでない者。
(なぜこの身分の高そうな令嬢がこんな隅に座ってるんだろう)
私は空いてる席の横に立ち声をかけた。
「ここに座ってもよろしいかしら?」
令嬢たちはハッと顔を上げてから、すぐに戸惑ったようにお互いに目配せし合った。
「あ、あの……ここには座らない方が……」
「他のテーブルにいくらでも空いてるお席がございます」
どうやらここに座らせたくないようだ。
「どなたかここに座られますの?」
「あ、いえ。今は誰も……」
今は?
その言葉でピンときた。
「以前はエミリアが座ってたのね?」
私の言葉に四人の令嬢は驚いた顔をして、すぐに蒼白になった。
次話タイトルは「サンドラ現る」です




