4、サンドラ現る
「あ、あなたはどなたですか?」
「エミリアをご存知なんですか?」
令嬢たちは警戒の色を強めて私に尋ねた。
「目立ちたくないので座らせて頂くわね」
私は断ってからエミリアの席に座った。
令嬢たちはキョロキョロと落ち着かない。
何かにひどく怯えているようだった。
「私はレイラといいます。エミリアとは少し前までよく会っていたの」
会っていたという言葉でみんなの顔が一斉に明るくなった。
「ほ、本当に?」
「じゃあエミリアは生きているのね?」
「死んだんじゃなかったのね」
「元気にしているの?」
最後は涙ぐみながら尋ねられた。
「ええ。元気よ。平民の洋装店で働いてたわ」
「洋装店? 働いているの?」
「ああ、お気の毒に。働いたりするようなご身分ではないはずなのに」
「でも服屋さんなんてエミリアらしいわ」
「レース編みもドレスのセンスも一番だったものね」
エミリアのことをよく知っている友人たちのようだ。
「みんなはエミリアのお父様の事件のことを知っているの?」
しかし、私が核心に触れると急に黙り込んだ。
「ねえ、何か知ってるなら教えて。どんな小さなことでもいいから」
「……」
「私はエミリアの事件を探るためにここに来たの。私はエミリアを助けたいの」
私が言うと、みんな怯えた顔でうつむいた。
「ねえ、みんなエミリアのことが好きなんでしょ? だったら協力してよ」
「む、無理よ」
「そんなことしたら私達までエミリアと同じ目に遭うわ」
「私達ではなにも出来ないの」
「両親からエミリアのことは口にするなと強く言われているの」
よほど強い圧力がかかっているらしい。
それはもしかして。
「サンドラなの?」
「!!!」
サンドラの名前を出した途端、全員がびくりと肩を揺らし震え始めた。
「お願い他のテーブルに行って」
「私たちから離れて」
「もうサンドラ様が来られるわ」
「私達はなにも関係ないの」
「……」
みんな怯えきっている。
今はこれ以上は無理かもしれない。
仕方なく席を立ったところで一人の令嬢が「ひっ!」と小さな叫び声を上げた。
「サンドラ様よ」
「サンドラ様だわ」
あちこちで囁く声が聞こえた。
どうやら有名人のようだ。
四人の令嬢たちは目を合わさないように青ざめた顔でうつむいている。
私は四人のテーブルから離れて隣のテーブルにそっと着席した。
サンドラに背中を向けて顔が見えないように座る。
「今日もお美しいこと」
「あの最新のドレスをごらんくださいな」
「サンドラ様の黒髪によく映えるワインレッドですわね」
私は肩越しにこっそり窺い見た。
ワインレッドのドレス。
おおきなフリルが斜めに入って襟を高く立てた斬新なドレスだ。
ロリポップで会った時のフリル過多で乙女チックなドレスとは違う。
あちらは普段着でこちらは勝負服らしい。
髪もカツラはつけてないが、とんがり帽子のようなおだんごをつくって薄手のヴェールを垂らしている。
(あれが最新のファッション……)
パリコレのランウェイを歩くモデルのようなものなのだろう。
モードの最先端だが、普段はとても着れない。
そんな服どこに着てくんだ、という奇抜さが必要らしい。
中央の円卓に座る人はあれぐらいの攻めるファッションをしなければならない。
逆に言うと、あれほど攻めたファッションでなければ目立たない。
その他大勢に紛れてしまえる。
サンドラはまっすぐ中央の円卓に進み出て自分の指定位置の椅子の横に立った。
やっぱりサンドラはクリスティナ様の円卓の一人なんだ。
中央の円卓の専属らしい執事が進み出て、サンドラの椅子を後ろに引いた。
「……」
しかしすぐに座らずに無言で辺りを見回している。
「どうなさったのかしら?」
「どなたかお探しなのかしら?」
まさか……。
私を探したりしてないわよね?
私はあわてて顔が見えないようにうつむいた。
ここに私がいるなんて知るわけないものね。
私はサンドラが前世の直子にそっくりだから覚えてるけど、むこうはロリポップで会った貧民の子供なんて覚えてるはずないし。
ましてやその貧民がこの乙女会にいるなんて知るはずもない。
堂々としていればバレないわ。
やがてサンドラは諦めたように着席したようだった。
次話タイトルは「クリスティナ様、登場」です




