2、いきなり戦場
やっぱり大きいなあ。
シンデレラ城を横に広げたようなアルフォード邸。
前に来た時は一番下の馬車停めで降ろされて長い階段を上ったけれど、今回は貴族用の馬車停めまで行くことが出来た。
従者の行き来する地階ではなく、堂々としたエントランスで出迎えられる。
黒服の執事が並んで到着した客人を順番にサロンへ案内している。
馬車から降り立つ婦人たちは様々だ。
私の前の白い馬車からは大きなカツラのご婦人が降りてきた。
最初馬車のドアから紫のドレスと足が溢れるように出てきて、最後にドア幅ぎりぎりのカツラ頭が出て来た。
(ザックの描いた絵も案外正しかったのね)
ドレスの三分の二ぐらいはあるカツラだ。
馬車の中ではどうやって座ってたのか見てみたい。
私の後ろの馬車からは田舎貴族らしい母娘が降りてきた。
私のドレスとさほど大差ないロリポップでよく見かけた腰高のドレス姿だ。
子供はパニエで膨らんだドレスだが、母親の方はお尻が枕を入れたように膨らんでいる。
あれって貴族というよりはお金持ちの平民がよく着ていたドレスだと思ったけど。
貴族でも流行してるのかしら。
でもまあ良かった。
これなら目立つことなく過ごせそうだわ。
「ではレイラ様、私は侍女の控え室でお待ちしております」
「ええ。ご苦労様シモンヌ」
シモンヌとはサロンの手前の控え室でお別れだ。
いよいよ戦場……いえ、乙女会のサロンだわ。
「どうぞお嬢様」
執事に案内されてサロンに入った。
そこは……。
別世界。
高い高い天井とクリスタルの石が垂れ下がるシャンデリア。
壁も天井も平らなところが見当たらないほどに飾り彫りが施され華やかに色付けられている。
大きな窓には幾重ものドレープの深いカーテンが大きなタッセルで束ねられ、緑の広がる庭園が見えていた。
アルフォード様の謁見の間とは違う豪華さだ。
あちらは金を多用した重厚な部屋だったが、このサロンは渋みのあるピンクや赤を使った女性らしいロココ調の軽快な雰囲気がある。
結婚式の披露宴のような円卓が置かれ、見事な刺繍織りのテーブルクロスがかけられている。
部屋の真ん中には一番大きな円卓があって、アンティークの肘掛け椅子が二十ほど周りに並べられていた。
(あれがきっとクリスティナ様の座る円卓ね)
真ん中に一際大きくて豪華な肘掛椅子がある。
その円卓だけは他よりもすべてが豪華だ。
真ん中に飾られた花も花瓶も。
すでに伏せて置かれているティーカップもお皿も。
そのテーブルから二重の半円を描くように他の円卓が配されている。
一重目の前列の円卓は十人ほどが座れるものが八卓。
外側の後列の円卓は小さくて五人ほどが座れるテーブルが三十卓ほどもあるだろうか。
お茶会と言ってもずいぶんな規模だ。
「おどきなさい!」
ふいに大きな声が響いて、令嬢たちがハッとそちらを見た。
「そこはわたくしのお席でしてよ。誰の許可を得て座ってるのかしら」
大きなカツラの婦人が孔雀の羽のような扇子を持って言い放っている。
「も、申し訳ございません、奥様。初めてご招待いただき、どこに座っていいか分からず」
ぺこぺこと頭を下げているのは、さっき私の後ろの馬車から降りてきた田舎貴族っぽい母娘だった。
まだ十歳ほどの娘が内側の円卓に座ったのを咎められたようだ。
席って決まってたの?
テーブルには特に名札が置かれてるわけでもなさそうだけど。
「ああ、もう。下賤の者の汚れがついたわ。誰か! ここを拭いてちょうだい」
バタバタとメイドがやってきて、椅子を拭いている。
母娘はぺこぺこと謝りながら、一番出入口に近いテーブルについた。
「何もご存知ないのね、あの方。前列の円卓は常連のご婦人たちの指定席みたいなものなのに」
「それにあのドレス。お尻を膨らますドレスなんて、貴族はもう誰も着てないのに」
「今は平民の間で流行ってるんでしょ?」
近くの若い令嬢たちがこそこそと話している。
やっぱりそうなんだ。
ロリポップでも馬車から降りてくるような貴族は着てなかった。
道路を歩くような平民の金持ちが着ていたと思う。
「ほらあの方でしょ? 老伯爵の後妻になられた方」
「ああ、平民から跡継ぎのいらっしゃらない伯爵の正妻になったという?」
「それであのドレス」
「今回初めてご招待されたということは、今日はあの方が生贄かしら」
「うふふ。私、あの方の近くに座ろうっと」
「クリスティナ様がどんな始末をつけられるのか間近に見たいものね」
な、なんか。
えらいところに来てしまったんじゃない?
平民どころか、私は元貧民なんですけど。
これはさっさと情報を集めて、なんだったらクリスティナ様が来る前に退散しなきゃ。
次話タイトルは「捜査開始」です




