第15話:夏祭り(後編)
7人は海を見ながら長い時間おしゃべりをしていた。
「―ってことがあったんです」
「ちょ、ターブ!私の過去の話はどうでもいいでしょ?」
「アルは昔から変わらないよね」
「何よ!ターブだって昔、だ―」
「ちょちょちょっと待ってよ!私のことなんてどうでもいいでしょ!」
アルエとターブはとても仲睦まじく昔の話をしていてその話を笑いながらジンたちは聞いていた。
「アルとターブってすごく仲がいいんだね」
ジンがアルエとターブにそう言うと2人共嬉しそうだった。
「あの、ずっと気になっていたんですが?」
「どうしたの?」
アルエは急にもじもじしながら話しかけてきた。
「皆さんってどんな関係なんですか?差支えなければ教えて下さい」
「家族だよ」
アルエの質問にジンは当たり前のように言った。
「家族ですか?」
「と言っても本当の家族ではないよ。でも、俺は本当の家族より家族らしいと思ってる」
「本当の家族より家族らしい、ですか?」
「うん。みんな出身は違うし、血も繋がってないけど、深い絆で結ばれてる」
「そうだったんですね。素敵な家族ですね」
「俺はこの世界の人間じゃないから」
「「はい?」」
そんな話をしていたところでジンは異世界人だということを話した。
「まあ信じてもらえないと思うし、信じなくてもいいんだけど、俺は地球という星の日本という国から何故かここへやって来たんだ。どうやってこの世界に来たのかはわからないんだ。おかしな話だよね」
「それは不思議ですね。ありえないお話ですが、ジンの言っていることは何故か嘘に聞こえません」
「私も嘘には聞こえなかった」
アルエとターブはジンの言うことを不思議だと思っただけで、あまり疑いはしなかった。
「私はイラキ国でジンに助けられました」
「私はウタヅカリー国で」
「僕たちはウオジュオー国で」
「ジンがいなければこんな楽しい思いを経験することはできませんでした」
ジンはそんな会話を聞いて照れたのか一度咳払いをして立ち上がった。
「あーちょっと屋台で何か買ってくる!」
「ジン。私も一緒に行きます」
ジンは早足で屋台へ向かっていった。ヒカリはその後を懸命に追いかける。
残った5人は2人の背中を見つめていた。
ケデアは微笑みながらつぶやいた。
「まったく。2人して」
「どういうことですか」
ケデアの言葉の意味が気になったアルエはケデアに質問した。
「ジンはみんなのことが大好きで、いつも私たちを楽しませてくれる。でも、ヒカリのことが特別好きみたい」
「そ、そうなんですか?」
「聞いたことはないけど、見てればわかるよ」
「ヒカリさん。すごく可愛いですもんね」
「それはもうお姫様には・・・あっ、なんでもない今のは忘れて」
「お姫様?」
「実はヒカリもジンのことが好きなの」
「え!?そうなんですか!それってつまり両想いじゃないですか」
「そう。ヒカリからは前に聞いたんだ」
「いいなぁ・・・」
ケデアはジンとヒカリの関係についてアルエとターブに話しているとアルエが2人の関係を羨むように思わず心の声が漏れ出てしまった。
「アル?」
アルエのその言葉を聞いたターブは疑わしい顔をしながらアルエの名前を口にした。
「っ!な、なんでもない!」
アルエは顔を赤らめ、焦りながら両手を左右に振って言った。
「ジン!待ってください!」
ジンは1人で屋台に向かっているところ、ヒカリは懸命にジンを追いかける。
「ヒカリ」
「何処へ行くんですか?」
「なんかないかなって」
「私も探します!何かを」
「ふっ」
ジンとヒカリはこうして2人で屋台を巡ることになった。
「ジン。あれはなんですか?」
「ジン。これはなんですか?」
と次々にヒカリから質問が飛んでくる。
たこ焼きを知らなかったり、かき氷を知らなかったり、屋台を通るたびに説明した。
そうしている間に空はいつの間にか暗くなり始めていた。
なぜ、楽しい時間は過ぎ去るのがあっという間なのか。
この時間がいつまでも続けばいいのにとジンは思っていた。
「もうそろそろ花火始まっちゃうから戻ろうか」
「はい」
ジンがヒカリにそう言うと2人は先ほどまでいた浜辺を目指して歩み出した。
浜辺を目指して歩き出してから間もなくヒカリが緊張気味に話し出した。
「ジン。あ、あの、ほんの少しだけ2人だけでお話しませんか?」
「う、うん。いいよ」
「ありがとうございます。ここでは話しづらいので、あちらでお話ししましょう」
ヒカリはそう言うと周りには明かりもなく、人気がいない場所へやって来た。
それからジンとヒカリは緊張を誤魔化すようになんでもない話を始めた。
「この時期になるともうすっかり暖かいですね」
「そうだね。暖かいどころか暑すぎるくらいだよ」
「ふふ、確かにおっしゃる通りです」
ヒカリは微笑むと少し間を開けて真剣に話を始めた。
「あまり2人だけでお話しできる機会がなかったので、こうしてお話で来て嬉しいです」
「確かに、最近はなかなか2人だけってことなかったね」
ジンがそう言うとヒカリは少しジンに近づき、横に並ぶと薄暗い空を見上げながら再び話し出した。
「ジンと出会ってからいろんなことがありましたね」
「本当に、いろいろあったね。お姫様には苦しい思いばかりかけさせちゃって・・・」
ジンもヒカリと同じように薄暗い空を見上げて、申し訳なさそうにそう言った。
「いいえ、そんなことありません。何度も言わせて頂きますが私は本来、もうこの世にはいません。追われる身となってから1カ月以上、とても幸せな思いをしました。まるで夢を見ている様です。助けられたあの時から、貴方に一生ついて行くと決めていました。なので、勝手ですがこれからも貴方について行きます。これからも貴方のそばにいてもよろしいでしょうか?これからも貴方の隣を歩いてもよろしいでしょうか?」
「もちろん!ずっとそばにいてほしい。ヒカリがそばにいるだけでとても安心するんだ」
「そう言って頂けてとても嬉しいです。今は貴方を支えるどころか、支えられてしまっています。しかし、これからは必ず・・・貴方を・・・支えることを誓います」
「ありがとう。でも、俺はいつもヒカリにすごく支えられているんだよ」
「え?」
普段から支えられているということを知ったヒカリは空を見るのをやめ、すぐ隣にいるジンの顔を見つめた。
「これからはもっと支え合いながら先へ進もうね」
ジンもヒカリを見つめながら言った。
ジンとヒカリの視線が交差するなか、ヒカリは大きく返事をした。
「はい!」
それからしばらくしてジンとヒカリは再びみんなのいる浜辺を目指して歩いていた。
「あの、花火ってどんな感じなんですか?」
「そうだなー・・・花火と言うだけあってお花みたいだよ」
「それは楽しみです!」
ジンはヒカリの満面な笑みを見てはっとした。
花火よりも美しいものを見つけた。
目の前の少女はこんなにも美しかっただろうか。
浴衣を着ているからなのか、それとも生まれ持ったものなのか。
気付けばジンはヒカリのその姿を直視することが出来なかった。
ヒカリは真っ白い浴衣を靡かせてジンの一歩後ろを歩いていた。
ジンはヒカリのあまりの美しい姿に上手く話しかけることが出来ず、普段はない緊張感に包まれていた。
「ジン。花火ってどのくらいきれいなんですか?」
「え、あ、そ、そうだなー」
そんな話をしていた時だった。
バンッ!
ザー
花火が一つ打ちあがったのだ。
隣を振り向くとそこにヒカリはいなかった。
ジンは慌てて首を動かすと少し後ろに佇んでいた。
ヒカリは足を止めて空を、花火を見ていたのだ。
「わぁー」
ヒカリは可愛らしい笑顔で声を発した。
「ジン。花火ってとてもとてもきれいなんですね!」
「うん!」
そして、さらにもう一つの花火が打ちあがった。
バンッ!
ザー
「わぁー」
これが二度目の花火だがヒカリは一度目とあまり変わらない表情で楽しそうに花火を見ていた。
「本当にお花みたいですね」
「そうでしょ?」
「はい!」
ジンは今、とても幸せだと感じていた。
これから先も君と一緒にいられたらどんなに楽しいだろうか。
しかし、この世界では戦いが頻繁に行われ、いつ敵の攻撃があるかわからない。
今まで本当に平和な世界に住んでいたんだなぁ。
と、ジンはそんなことを思っているとヒカリは突然よろめいた。
「きゃっ!」
ヒカリの小さな悲鳴で我に返った。
道の真ん中で立ち止まっていた為、流れてくる人混みに押されてヒカリがよろめいたのだ。
体勢を崩したヒカリにジンはとっさに手を伸ばした
「おっと!」
「ご、ごめんなさい。花火に見惚れてしまっていました」
そういってヒカリはすぐさまジンの手を解こうと力を抜いたのだが、ジンはヒカリの手をしっかり握りしめていた為、離れることはなかった。
「ジン?」
「みんなが待ってる。急ごう!」
ジンはそう言うとヒカリの手を握ったまま走り出した。
「え!?」
手を繋いでいる為、ヒカリも強制的に走り出す。
2人は人混みをかき分け、人とぶつからないように通り抜けた。
ああ、祭りってこんなに楽しいものだったのか。
今まで1人だったからわからなかった。
来年もみんなとみられるといいな。
ジンとヒカリがようやく浜辺に到着するとみんなは笑顔で待ってくれていた。
「ジン!ヒカリ!もう花火上がってるよー」
「遅れちゃってごめん!」
「ごめんなさい」
二人はみんなの元へ駆けつけた。
「花火ってこんなにきれいなんですね」
ヒカリはそう言うとみんなの輪の中へ入っていった。
ジンの視線の先には浴衣を着た色とりどりの6人が団扇をもち、ヨーヨーを持ち、夜空を見上げていた。
「ホント、綺麗だ」
ジンは誰にも聞こえないように呟いてみた。
「ジンも早く!」
ケデアはジンにも声をかけた。
「ごめんごめん」
ああ、なんて幸せなんだ
こうしてこの世界の初めての花火は終了した。
「よかった。みんなと花火見れて本当によかった」
「はい。来年もみんなで花火、見ましょうね!絶対ですよ」
『うん!』
ここにいたみんなが大きな返事をした。
7人はお城へ帰ってきた。
浴衣を返却するためにだ。
「お祭りは楽しめましたか?」
そういって出迎えてくれたのは第一王女だった。
「はい!とても楽しかったです。今までで一番幸せなひと時でした」
「楽しめた様でよかったです。皆さま、本日はここにお泊り下さい」
『え!?』
「もう遅いですし、疲れているでしょうからゆっくりしていってください」
「よろしいのですか?」
「はい、もちろんです!」
「では、泊まらせて下さい」
「ええ。ではまずは着替えてきてください。その後は従者がいろいろと案内してくれますから」
「はい」
着替え終わりジンがやって来たのは長いテーブルがある部屋だった。
そこで美味しい料理を頂いた。
浴槽もとても広くこの世界に来て初めてお湯につかった。
久しぶりのお風呂で感動した。
寝室も1人一部屋用意され、落ち着くことが出来ず中々眠りにつくことが出来なかった。
こうしてまた“1日”が終わった。




