第88話 切り替えが早い。
……アレク叔父さん、避暑から帰ってきてるのかな。
大体いつも1週間くらいしか休みを取ってなかったと思うけど……。行って、いなかったら二度手間になるしなぁ。
「アレクシス様でしたら、もうお帰りになっていますよ」
「え?そうなの?」
「はい。私が王都へ帰ってくる時に、たまたまアレクシス様とお会いしました」
「そうなんだ」
……それなら午後から行ってみようかな。
午前中はゆっくり過ごし、昼食を終えてからリリエン商会へ向かった。
「フィン様、いらっしゃいませ。本日はどのようなご要件でしょう」
「魔導具のことでアレク叔父さんに会いに来たんだけど」
「それでは、商会長室へ」
店員に連れられ、商会長室へ向かう。
「アレクシス様。フィン様がお見えです」
「入ってくれ」
「新しい魔導具が出来たから持ってきたよ。はい、これが仕様書と魔導具」
「三つもあるのか?! えぇーっと……これが往復式の髭剃り型魔導具だな。なるほど……この保護板……?があるから、安全に使えると……。それでこっちが回転式だな。この丸い刃は一つではだめなのかい?」
「どうなんだろう?前世の髭剃りを思い出しながら、それをイメージして魔導具化したから」
「そうか。この細かさを一つに三つも付けるとなると……」
「やっぱり小物職人?」
「そうだな。人員の確保が先決になりそうだ」
俺ももうあんな細かいのは作りたくないし、得意な人に任せる方が、安全でもあるからな。
「それで、これが鼻毛を整える魔導具か。……なるほど。髭剃り型魔導具と構造は似ているんだね。とりあえず、この三つを試してみてもいいかい?」
「うん」
そういうとアレク叔父さんは、トイレへ向かった。
……。
窓から光が入って、ポカポカだな。清涼で部屋の温度もちょうど良くて……眠い。
……そういえば、なんで松葉杖をついてたんだろう?
……。
「フィン、この三ついいな!全く痛くなかったし、手入れが簡単なのもいい。外して、部分だけ交換も出来るんだったな。そうなると、定期的な売上にもなる」
「……。それなら良かった」
「……あの短い時間の間に寝ていたのかい?」
「……いや、ゆっくりしてただけ」
「そうかい?」
「うん」
「それで、この魔導具だけど――」
―――
「商品名をどうするか、だな」
「いつも通り、候補を出してもらって、そこから決めるよ」
「そうか。そうだなぁ……髭剃り型魔導具は……往復式と回転式で商品名も分けた方が良さそうだな。往復式だと……剃髭、剃整、整髭なんてどうだろう?
回転式は……旋髭、輪刃、円刃。
鼻毛を整える魔導具だと……鼻整、整鼻、鼻刃かな。どうだろう?」
「んー……じゃあ、音が似てたから整髭と旋髭と鼻整で」
「いいな!商品名が揃ってると、セットで売る際にも見栄えがいい」
適当に選んだけど、いい感じの商品名になったなら良かった。
「この三つは早くても……冬の社交あたりに販売開始を目指す感じだな。ウィルも気に入ってたみたいだから、王家に献上する際は、ウィルの分もお願い」
「分かった。……ん?殿下も試したのかい?」
「……一週間くらい、うちでゆっくりしてたんだよ。ガレスとマティアスも。その時に試したというか……。分かってる。王子に試させるな、でしょう?」
「……。そうだな。何事もなくてよかったよ」
あ。
避暑も終わったし、ウィルじゃなくてウィルフリード殿下って呼ぶべきだな。
「今日の要件はこれだけかな?」
「あ、ちょっと相談というか……食堂のような、酒場のような……店を出そうかなって考えてるんだよね」
「おぉ!いいじゃないか!それは前世の料理をってことだろう?」
「そう。ガレスとウィルフリード殿下が、店を出して欲しいって言ってて。俺も、ふらっと寄れるような店があればいいなって思ったんだよね」
「なるほど。そうなると、貴族街に近いところだな」
「ガレスが屋敷の近くに作ってくれって言ってた」
「レイグレン伯爵家か……あの辺は飲食ができる店は少なかったはずだから、客の奪い合いは起きなさそうだ。立地的にもいいな……。商会も割と近いし――」
……商人って切り替えが早いな。
第88話を読んでいただき、ありがとうございます!
久しぶりの商談回でした。
次回も楽しんでいただけると嬉しいです!




