第5話 快適な時間。
「分かった。みんなの分も作るよ。でも、部屋の広さによって必要な性能も変わるだろうし、小型化するか、温度設定を調整するかは、もう少しみんなの話を聞かせて欲しい」
「その前に食事をいただきましょう」
母さんの言葉に、部屋にいた全員が顔を見合わせた。
「そうだったな。すっかり夢中になっていた」
父が苦笑すると、兄たちも笑みを浮かべる。
「私も空腹なのを忘れていました」
兄の言葉に、俺も苦笑いしながら席についた。
さすがは侯爵家。
いつもご飯が美味い。
使われているのは最高級の食材ばかり。それに、料理長が趣味で育てている野菜が食卓に並ぶこともある。
料理長は元々農家の出身らしく、野菜作りの知識も豊富だ。
前世を思い出してから、侯爵家の食事がどれだけ恵まれているかを改めて実感した。
現代日本で生活していた俺にとって、食事は死活問題だからな。
……まぁ、
食事を抜いて怒られることも多いが――
それでも、侯爵家の料理長が作る食事は、俺にとって毎日の楽しみの一つだ。
「フィン様、冷める前にお召し上がりください」
ノアの声に、俺は慌てて食事に手を伸ばした。
「それにしても、フィンの魔導具にはいつも驚かされるな。騎士団の執務室に置いたら、部下から羨ましがられるだろうな」
「そうですね。きっと、みんな涼を求めて騎士団長室に集まる未来が見えます。私も寮の部屋に置くとなると、騎士たちの溜まり場になりそうです」
兄の言葉に、父さんも楽しそうに笑った。
父さんと兄さんは、まだ魔導具の話で盛り上がっている。
その横で、母さんとティアナは料理の話をはじめた。
侯爵家の食堂では、いつものように穏やかな時間が流れている。
「今日のスープも美味しいわね」
「料理長が朝採れの野菜を使ってるみたいですよ」
「それは美味しいはずね。最近、料理長の畑の野菜が食卓に並ぶことが増えた気がするわ」
「新しい品種も試しているそうです。フィン兄様が気に入る料理を作りたいって言っていました」
「あの子は食事を忘れるくらい夢中になることがあるものね……」
――そう言いながら、俺をチラチラ見るのはやめてほしい。
分かってる。何度もノアに注意されているから。
これ以上、何か言われる前に、俺は黙々と食事を進めた。
そして、食事を終えると、俺はみんなより先に部屋に戻った。
今日は朝から作業部屋にこもってたから、夜はゆっくり過ごそうと思っていた。
でも、試作品は食堂に置いて来てる。おかげで自分の部屋は暑いままだ。
……仕方ない。とりあえず自分の分だけ先に作ろうかな。
結局、作業部屋に戻って自分用に作った。
試作品一号より、本体を一回り小さくし、冷却機能を二割ほど抑えた。
さらに、温度調節が一目で分かるように、温度に反応する目盛りも追加した。
「……より、エアコンっぽくなったな」
スイッチを押すと淡く光、動き出した。
「うん、二割ほど抑えて正解だな。作業部屋でこの快適さなら、母さんやティアナの部屋に置くには丁度いい。……いや、二人なら三割くらい抑えてもいいかもしれない。明日、確認してもらおう」
涼しさを堪能していると、作業部屋の扉を叩く音が聞こえた。
「……入ってくれ」
俺が答えると、ノアが扉を開けて入ってきた。
「フィン様、湯浴みの用意ができております」
風呂上がりに魔導具を試せるのは丁度いいな。
「食堂でも感じましたが、作業部屋も涼しいですね。いずれ、屋敷全体に魔導具を置いていただけると嬉しいです」
「まぁ、確かにそうだよな。そうなると、大型の魔導具を作って各階に設置するのがいいか……魔核は大きいのを使えば、出力は問題ないが……いや、魔力消費を考えると中型を複数設置した方が効率がいいか――」
「フィン様、先に湯浴みへ」
「……あぁ。そうするよ」
魔導具を部屋に設置して、俺は風呂に向かった。
――――
「……涼しい」
風呂上がりに涼しい部屋で過ごす。
――これだ。
これが欲しかった……。
……実に素晴らしい。




