第48話 身だしなみも快適に。
さて、カールアイロン型魔導具の仕様書を書き直すか。
朝から作業部屋に籠って、昨日完成した試作品を手元に置きながら、仕様書の修正を進めていく。
……三種類もあると、仕様書を書くのはめんどくさいな。
太さ以外の構造は共通しているから、基本仕様を一つにまとめて、サイズごとの差分だけ書き足せばいいか。
……よし。
仕様書をまとめ終えたら、リリエン商会に持っていくか。
仕様書を一通りまとめ終えた頃には、昼食の時間になっていた。
昼食も済ませ、俺はリリエン商会に向かった。
……忙しそうだな。
リリエン商会に着き、中へ入る。
店内は人でいっぱいだった。
……忙しそうだな。
「あ、フィン。魔導具のことについてかい? だったら、商会長室で待っててくれ」
「分かった」
アレク叔父さんが対応するほど忙しいなら、別の日にすれば良かったかもな。
急ぎの用でもないし。
しばらく待っていると、ようやくアレク叔さんが商会長室に入ってきた。
「すまない。だいぶ待たせたな」
「大丈夫。それにしてもすごい人の数だったね」
「あぁ。社交シーズンに入って、清涼機や扇涼を求める客が一気に増えていてね」
……なるほど。
「それで、今日はどうしたんだ?また新しい魔導具かい?」
「あ、うん。これなんだけど」
カールアイロン型魔導具をテーブルに置いて、アレク叔父さんに仕様書を手渡した。
「……艶髪の応用か。……なるほど」
「ティアナに試してもらったら、すごく喜んでた。髪を巻くだけで華やかになるし、艶髪みたいにツヤも出るって」
俺がトイプードルになったことは黙っておこう。
「この魔導具もサイズ別で作ったのか……人や用途によって使い分けられるな。……火傷か」
「あ――……火傷に関しては、注意しながら使ってもらうしかないね。安全対策も考えたけど、これ以上は難しくて」
「そうか。売る時は、しっかり注意するように伝えた方が良さそうだな」
「艶髪は夏の終わり頃から売るって言ってたけど、この魔導具もそれくらいになりそう?」
「そうだな。艶髪とセット売りにしても良さそうだ」
「ティアナが、友人二人に販売前に使ってもらってもいいかって言ってて。一応、アレク叔さんの許可をもらおうかと思って来たんだ。二人の分は俺が作るつもり」
「なるほど。友人二人と言うと、セレスティア様とアリシア様かい?ティアナとあのお二人が使えば話題になるだろうな。令嬢たちの間にも広まりやすい」
「そう思って、二人分を作ろうと思ったんだけど」
「それなら問題ない。ただ、販売前のものだ。使い方には十分注意するよう伝えておいてくれ」
「分かった」
年頃の令嬢に火傷なんてさせられないからな。
「……艶髪とセット売りをするなら、商品名も関連付けた方がいいかもしれない」
「またアレク叔父さんが候補を出してくれると助かる」
「そうだなぁ……華髪、麗髪、舞髪辺りが巻き髪の華やかさを表現出来ると思うが、どうだろう」
「舞髪かな。……いや、艶髪と響きが似過ぎてるか」
「そうだな。確かに少し紛らわしいかもしれないな」
「じゃあ、華髪で」
「いいと思う。巻いた髪が花開くような名前だな」
「うん」
そう答えながら、俺はふとアレク叔父さんの顎に目を向けた。
髭剃りをしたばかりなのだろう。顎には小さな切り傷があり、赤く滲んでいる。
「......叔父さん、その傷」
「ああ、今朝剃ってもらった時に少し切ったみたいだな」
そう言われて、改めて考える。
この世界では高位貴族は、髭を侍従に整えてもらうことが多い。それも切れ味の良い剃刀で。
俺自身は元々髭が薄いから、そんなに整える必要がなくて、今まで気にしていなかったけど……
前世で使ってた電気シェーバーを、魔導具で作るか……?
「ん?どうかしたか?」
「あ、いや」
……電気シェーバーなら、髭を剃るたびに侍従の手を借りる必要もなくなる。
だが……高位貴族なら、それでも侍従に任せるかもしれない。
それなら、貴族向けというより、自分で髭を剃る必要がある人向けか。
……エミール兄さんなら欲しがるかもな。
騎士団の寮で生活しているから、多分、自分で整えてるはずだ。
……意外と需要があるかもしれない。
「……フィン?」
「あ、いや。ちょっと次の魔導具について考えてた」
「もう次かい?」
「まだ作ると決めたわけじゃないけどね」
「ははっ。フィンらしいな。次の魔導具も楽しみにしているよ」
第48話を読んでいただき、ありがとうございます。
身だしなみを快適にする魔導具が、また一つ増えそうです。
次回も楽しんでいただけると嬉しいです。




