第23話 作る者と売る者。
……眩しい。
「……今何時だ」
魔導時計を見ると十四時を少し回ったところだった。
朝食を食べてから寝たとはいえ、さすがに寝過ぎたか……。仮眠を取るくらいにして、夜は寝れるようにしたかったんだが。
「あ……」
寝過ぎを防ぐなら、それこそアラーム機能付きの魔導具を作ればいいじゃないか。
貴族には従者やメイドがいるから、起こしてもらえるが、アラーム機能付きの魔導具があれば――
……いや、今はそれよりも。
完成したタイマー機能が、設定通りに起動しているか確認しないと。
身なりを整え、作業部屋の扉を開けた。
十二時に起動するように設定していたから、作業部屋は涼しく保たれているな。
……問題はなさそうだ。
次は一時間後に停止するように設定して、問題がなければアレク叔父さんに仕様書を渡そう。
その間に、軽く何か食べてくるか。
食事を済ませ、お茶を飲んでいると、食堂の扉が開いた。
「フィリップ兄さんも今起きたの?」
「あぁ。冷却魔導具のおかげで、暑さを気にせず久しぶりにゆっくり寝られたよ」
「それは良かったね」
「扇子型魔導具も気に入っているよ。暑い中でも、随分と優雅な気分で過ごせるからね」
そう言いながら、運ばれて来た軽食を優雅に摘んでいる。
「フィンは今日も魔導具をつくるのかい?」
「ん――……今日はリリエン商会に素材を買いに行こうかな。仕様書も書いたから、ついでにアレク叔父さんに渡しに行くよ」
「そうか。私は冷却魔導具をもう一台作りたいから、作業部屋を借りるよ」
「うん。分かった」
「仕事中も使いたいし、寮でも使いたいから、二台あれば持ち歩く必要もないからね。歩くときは扇子型魔導具があるし」
「卓上に置ける大きさだとしても、冷却魔導具を持ち歩くには効率が悪すぎるしね」
そんな話をしているうちに一時間が経ち、作業部屋へ向かった。
置いていた冷却魔導具を確認すると、設定どおり停止していた。
「よし、これで完成だな!」
仕様書も書き直す必要はなさそうだし、やっとひと段落か。
とりあえず、リリエン商会に素材を買いに行こうかな。アレク叔父さんに仕様書も渡したいし。
鞄に仕様書と、購入予定の素材を書いたメモを入れ、馬車でリリエン商会に向かった。
馬車を降り、リリエン商会に入った。
「こんにちは」
「いらっしゃっませ。フィン様」
すると、店の奥から聞き慣れた声がした。
「フィン兄様!」
声のした方を見ると、ティアナを中心に学園の制服姿の令嬢たちが集まっていた。
「え?……ティアナ? どうしてここにいるんだ?」
事情を聞けば、学園で扇子型魔導具が話題になり、みんなで予約に来たらしい。
「……え?」
思わず間の抜けた声が漏れる。
「だから言ったでしょ。話題の中心になるって」
「俺が寝ている間に、こんなことに……」
十人以上はいるじゃないか。
ティアナの友人であるリーヴェルト公爵令嬢やエヴァリス侯爵令嬢にも挨拶を交わしたあと、新しく出来たカフェへ誘われたが、アレク叔父さんとの打ち合わせがあることにして、丁重に断った。
「フィン。先に商会長室で待っていてくれ。私も終わり次第、そちらへ向かう」
アレク叔父さんが機転を聞かせて、話を合わせてくれた。
「分かった」
店員に案内され、商会長室へ向かった。
「お待たせ」
出してもらっていたお茶を飲み終えた頃、アレク叔父さんが商会長室へ入ってきた。
「ティアナのおかげで、もうたくさん予約が入ったよ。やはり学園での宣伝は効果絶大だね。予約分が完成して、みんなに使ってもらえるようになれば、さらに広がっていくだろう」
「昨日の夜、ティアナに渡したばかりなのに……」
「扇子型魔導具は男性にも需要はあるけど、特に女性向けの商品として伸びると思っていたんだ。ドレスに合わせて柄を選べるから、夏の社交シーズン用に複数購入する人も出てくるだろうね」
女性の購買意欲はすごいんだな……。
前世でもデザイン性は大切だったが、貴族社会ではより大きな意味を持つのかもしれない。
……まぁ、俺にはそんなセンスはないが。
「ところで、何か用事があったのだろう?また新作かい?」
「あ、そうだった。冷却魔導具を少し改良して、時間指定機能を付けたんだ」
「時間指定機能?」
「うん。起動したい時間、停止したい時間を設定しておけば、自動で動作する機能だよ。例えば、夜に寝室で寝ている間は、執務室の冷却魔導具は停止させるだろう? でも朝、執務室へ行く頃には暑くなっている」
「夜は締め切っているからね。朝、執務室に行くと熱気がこもってて嫌になるよ」
「だから、執務室へ向かう三十分前に起動するよう設定しておけば、到着した時には快適な状態になっているってこと」
「なるほど。確かにそれはいいな」
「とりあえず、これが仕様書」
アレク叔父さんは仕様書に目を通す。
「……魔力絶縁板か。冷却魔導具と、時間指定で起動・停止できる冷却魔導具は、少し価格に差をつけて販売することになるだろう」
「その辺は、いつも通りアレク叔父さんに任せるよ」
「分かった」
「それよりも、もう冷却魔導具を作って、この商会長室だけじゃなく、店でも使っているんだね」
「あぁ。この涼しさを実際に体験してもらうのが、一番手っ取り早く確実な宣伝方法だからね」
確かに。前世でも、実際に使ってみないと良さが分からない商品は多かった。これは体験してもらうことが一番効果的な魔導具かもしれないな。
「そうだ!フィンに相談したいことがあったんだよ。今日来てくれてよかった」
「相談?俺に?」
「前回来てくれた時に聞き忘れていたんだ。冷却魔導具と扇子型魔導具の商品名をね」
「え、商品名?なんでもいいけど」
「一応、制作者にも関わってもらわないとね。名前を付けるのも商品の一部だから」
結局、センスのない俺は、いつもアレク叔父さんに候補を出してもらって、そこから選んだり考えたりするくらいなんだけど……それでも一応、制作者が関わったことになるらしい。
「今回も私の方で、いくつか候補を考えておいたよ」
第23話を読んでくださって、ありがとうございます。
今回はフィン視点のお話でした。
作る者と売る者。
それぞれの役割で、魔導具が少しずつ形になっていきます。
次回もよろしくお願いいたします。




