第20話 平穏な生活は難しい。
食堂の扉を開けると、父さんと母さん、それにティアナが食事を始めていた。
「あら、フィリップにフィン。もう朝食には来ないと思っていたわ。どうせ二人で朝まで魔導具を作っていたのでしょう?」
なぜ母親という生き物は、息子の行動を理解しているのだろう。前世でも解けなかった謎だ。
「お兄様たち、また徹夜したの?二人が揃うといつもそうね」
ティアナにまで呆れられてしまった。
「冷却魔導具と扇子型魔導具を早く作りたかったんだよ」
フィリップ兄さんがそう言うと、父さんが――
「あれは本当に素晴らしいからな!騎士たちが早く販売してくれと言っていたぞ」
「アレク叔父さんの事だから、ある程度数が揃えば、すぐにでも販売され始めるんじゃないかな?」
「そうなれば、騎士たちも喜ぶだろう」
「近々、また素材を買いにリリエン商会へ行くから、その時にいつ頃販売を始めるのか聞いてくるよ」
「頼んだぞ。騎士団でも期待している者が多いからな」
……みんな涼を求めてるんだなぁ。
快適な生活を送るためには、快適な室温も大事だよね……。
……そんなことを考えながらスープを一口飲む。
あ、このスープ美味しい。
「久しぶりに侯爵家で食事を取っているけど、やっぱり美味しいな。魔導師団の食事は少し味気なく感じるんだよね……。みんな、食事より研究を優先する人が多いから」
「フィリップ兄さんも、その一人だと思ってた」
俺の一言にみんな笑ったが、フィリップ兄さんは苦笑いだった。
「そう思うなら、もう少し家にも帰ってきなさい」
「……善処するよ」
「フィンと同じこと言って……」
母さんから、チラリと視線を向けられ、フィリップ兄さんのせいで俺まで巻き込まれた。
「でも一週間後くらいに、本当に帰ってくる予定だよ」
「それはお義母様がいらっしゃるからでしょう。私が言わなければ、帰ってくる気もなかったでしょうに。……でしょう?」
「いや、そんなことは……」
「フィリップ兄様。目が泳いでいるわよ」
……やっぱり、うちの女性陣は強い。
「というか、ばぁちゃんが来るの一週間後なんだ?」
「えぇ。夏の社交シーズンに合わせて来られるからね。フィン、貴方も一度は夜会に出席しなさい」
「え、嫌なんだけど。あんな人が多いとこ、行きたくない。それに絶対暑いじゃん!」
「それこそ、アレクシスが嬉々として準備しそうだがな」
「え、嫌なんだけど。あんな人が多いとこ、行きたくない。それに絶対暑いじゃん!」
「それこそ、アレクシスが嬉々として準備しそうだがな」
父さんが苦笑しながら言った。
「父さんはいいよね。夜会の時はどうせ、騎士団で警備の仕事するんでしょ」
「まぁな。だが、侯爵家当主として王家主催の夜会には、顔を出さなければならないから、一度は参加する予定だ。フィンと同じでな」
「えぇ〜……。俺、その日は熱が出る予定だから」
母さんが呆れたようにため息をついた。
「何を馬鹿なことを言っているの?」
「フィリップ兄さんも参加しないでしょう?」
「王家主催の夜会だからな。魔導師団も警備につくことになる」
……ここにも裏切り者が!
「フィン兄様、一度くらい夜会に出席しないと、ウィルフリード殿下にまた言われるわよ。そろそろ直接招待状が届くんじゃない?」
「去年までは付き合いで、しょうがなく参加してたけど、学園を卒業したから、自由だと思っていたのに……。」
「そんな訳ないでしょ。エルーシア王女殿下も久しぶりに会いたいって言ってたわよ」
あぁ……エルーシア殿下はティアナの一つ下だったな。高等部と中等部で学年は違うけど、学園の食堂では一緒になることもあるか……。
「俺が救われるには、壁の花になるしかないのか……」
「また変なことを言って。夜会で壁際に立っているだけなんて、余計に目立つわよ。それに自覚が無いようだけれど、フィン兄様もみんなの憧れなのよ」
「いやぁ……エミール兄さんとフィリップ兄さんは分かるけど、俺はただの魔導具師だぞ。それに何のしがらみもない三男だそ。まぁ、侯爵家ってことなら、分からなくもないが……」
「何を言っているの? 三男であっても侯爵家のご子息でしょう。それに、フィン兄様はもう十分有名なのよ。昔から魔導具を作っていたこともあるけど、今日、学園に扇子型魔導具を持って行ったら、フィン兄様が話題の中心になるのは間違いないわ」
「えぇ……」
「だから!扇子型魔導具を広めるためにも今回の王家主催の夜会には、絶対に出席しないといけないのよ!きっとエルーシア殿下だって扇子型魔導具を欲しいと思ってくださるわ!」
「……そこはアレク叔父さんが王家に献上するでしょ。それに広めるなら、母さんとティアナが夜会に扇子型魔導具を持って行くだけで、十分広まると思うけど」
「とにかく、出席は決定事項だから! はぁ……フィン兄様と話していると疲れるわ……」
えーーー。
「フィン、そういうことだから諦めなさい。これ以上駄々をこねるようなら、貴方もお義母様に礼儀作法を教えていただくことになるわよ」
「いや、それは間に合ってる! しょうがないから一度だけ出席するよ……」
はぁ……。学園を卒業して数ヶ月で、俺の平穏な生活が終わりを迎えようとしている。
とりあえず、夜会にはなるべく目立たない服で行くべきだな!
そんな俺の考えとは関係なく、朝食は穏やかに終わった。
……とりあえず寝よう。
第20話を読んでいただきありがとうございます。
今回は、フィンの平穏な生活に少し変化が訪れる回でした。
次回もよろしくお願いします。




