第19話 魔導師の働き方。
「師団長室の冷却魔導具は、時間指定の機能を付けなくてもいいよね?」
正直、時間指定の機能を付ける作業を、もう一度やるのは当分遠慮したい。
「時間指定の機能が欲しい場合は、リリエン商会で販売されるようになったら、自分で購入して欲しい」
それまでに仕様書を書き上げて、アレク叔父さんに渡しておこう。
「もちろんだ。それまでは私が時間指定の機能を使って、師団長に宣伝しておこう」
……宣伝という名の自慢では?
まぁ、実際に便利な機能だから間違ってはいないんだけど。
それに、師団長室で実際に使われれば、冷却魔導具そのものの需要も増えるかもしれない。
なら、フィリップ兄さんの自慢も、宣伝としては悪くないか。
さて、作業に戻ろう。
リリエン商会に行った時、薄型鉄板を追加で購入しておいて良かった。こんなにも冷却魔導具を作るとことになるとは思っていなかったから、すぐにまた薄型鉄板を買いに行く必要がありそうだ。
あ、次に行く時は必要な物が多そうだし、メモでもしておくか。
薄型鉄板……十枚。 魔力絶縁板……三枚。 術式描写ペンの交換用ペン先(細)……五個。 魔核は……小型十個、中型五個くらいか。
今のところ、こんなものだろう。
よし、気を取り直して師団長室用の冷却魔導具をつくるか――
冷却の術式自体は、すでに何度も作っている。 ただし、今回は師団長室に設置するものだ。見た目や安定性にも気を配りながら、慎重に作業を進める。
――どれくらい時間が経過したか、師団長室用の冷却魔導具も完成した。
動作確認も問題ない。
ふと、窓の外を見ると、日が昇り始めていた。
「……結局、朝まで作業してしまった」
最近は、規則正しい生活をしていたのに……。
……フィリップ兄さんが帰ってきたせいだな。
今から寝るより、このまま起きていて、朝食を取ってから睡眠を取った方がいいかもな。
魔力を使い続けていたから、思った以上に疲れている。
「フィン、この本体に組み込む術式なんだが、細かすぎて回路と接触しそうになるんだが……」
「あぁ、そこは.....。実際に組み込む時に、少し配置を変えたんだ。仕様書を書き直すの忘れてた」
「なるほど。道理で合わないわけだ」
フィリップ兄さんは納得したように頷いた。
一度作ったものでも、改良すると仕様書の修正が必要になるな.....。パソコンとか、プリンターがあれば修正も印刷も楽なのに.....。
まぁ、構造も分からないし、今すぐ作るのは無理か。でも、いつか挑戦してみたい。
..... あと、3Dプリンターも。あれがあれば、本体の製作もかなり楽になると思うんだよなぁ.......。
でも、そうなると、本体を作る職人の仕事にも影響が出るかもしれない。
……まだまだ先の話だが。
フィリップ兄さんの補助をしながら、アレク叔父さんに渡す仕様書を丁寧に書き直していると――
「よし、やっと完成だ。時間指定の機能を組み込むのは、根気のいる作業だったな。目がだいぶ疲れた」
「うん。でも、まだ改良の余地はあるかな。今度はもっと簡単にできそうな気がしてるんだよね」
「そうなのか」
「それに、時間指定の機能を組み込んだ冷却魔導具を量産するってなったら、職人が倒れるんじゃないかな。フィリップ兄さんですら、一つ作っただけで疲れるくらいなんだから」
「確かに。魔力を細かく制御し続けた分、普段より消耗したな」
「だから、もっと簡単に作れるようにしたいんだよね。 あ、朝食までもう少し時間があるけど、お茶でも飲んで待ってる?俺は仕様書を仕上げてから、時間までお茶でも飲もうかなって思ってるんだけど」
「そうだな。消耗した分を回復したいし、朝食を取ってから寝ることにしよう。それまでは、お茶を飲みながら待たせてもらうよ」
俺は作業部屋に置いてある給湯器でお湯を沸かしている間に、仕様書を仕上げた。
フィリップ兄さんの分と自分の分のお茶を淹れ、サイドテーブルに置く。
「ありがとう。久しぶりにフィンが淹れてくれたお茶を飲むな。すっきりしていて飲みやすいから、私は好きだ」
「この茶葉、すっきりしてるから、魔力を使う作業の合間でも、飲みやすいんだよね」
「私もこれからは、この茶葉を魔導師団に常備するようにしよう」
……それだと、他の人たちもブラック企業並に働くことになるんじゃ……?まぁ、そうなったとしても副師団長が止めてくれるみたいだけど。
「それにしても、冷却魔導具を作ってくれて本体に感謝だ!ここ最近は暑くてどうしようもなかったから、魔法で涼しくしていたのだが、それでは、いくら魔力があっても仕事に支障をきたし兼ねなかったからな」
やっぱり魔法でどうにかしてたんだ。
フィリップ兄さんでさえ、魔力で涼しさを長時間維持するには負担が大きいのか。
「これからは、もっと集中して仕事に励める!」
……休みを取れと言われるほどだったのに、さらに仕事中毒になるつもりか?
そんなことを話していると――
コンコン――
「フィン様。朝食のお時間です」
「あぁ、分かった。じゃあフィリップ兄さん、食堂に行こうか」
「そうだね」
「フィリップ様もおいででしたか。おはようございます」
「おはよう、ノア。昨日から作業に没頭していて、終わったのがつい先ほどだったんだ」
「そうでしたか。お二人共、ちゃんと睡眠を取ってくださいね」
「分かってるよ。俺は朝食のあと寝るつもりだから。多分昼食には起きられないかな」
「私も食後は睡眠をとる予定だよ。昼食は……起きてから、だね」
「かしこまりました。そのように料理長に伝えておきます。では、皆様お待ちしておりますので、食堂へ参りましょう」
第19話を読んでいただきありがとうございます。
今回は時間指定の機能付き冷却魔導具が完成しました。
便利な機能ですが、作る側にも課題が……。
次回もよろしくお願いします。




