受け継ぐもの
智は怪から一旦離れ、死神の書を取り出した。
「俺の裁きは冥府と同じ効力を持つ、その判決はどんな能力であっても取り消す事は出来ない。」
だが、そんな事を言われても怪は強気な態度を取っていた。
「子供の分際で、そんな事を言うとはな、その前に殺してくれる!」
怪は襲いかかったが、智は動こうとはしない。
「死神の名の元に裁きを下す…『冥府の裁き』!」
すると、空から紫色の稲妻が放たれ、怪を貫いた。
そして、気づいた次の瞬間には怪は跡形もなく消えていた。
「智…、そんな力があったのかよ?!」
智は目の色を戻し、一同の方を向いた。
「俺の能力である『冥裁』がまさかこんなところで役立つとはな…。」
「智君!」
玲奈が智の方に向かって駆けて行く。
「凄かったよ!智君が居てくれて本当に良かった…」
玲奈が微笑んだのを見て、智は赤面した。
「そんな…、そんなに凄い事してないのに…」
智は玲奈が無事だった事に安堵したのか、疲れ果ててそのまま倒れてしまった。
「大丈夫?!」
「霊力を使い過ぎただけだ。俺は霊力が少ないのに、強大な術を使うから、霊術を使うとすぐに霊力切れを起こすんだ。特にさっきの技は強力だから、連続では使えない…。」
智は玲奈にしがみつき、胸を寄せた。
「玲奈、いい匂いがする…。もう我慢、出来ない…」
智はそう呟きながら、玲奈の首筋に噛み付き、血を啜った。
「痛っ…、智君、どうしたの?」
玲奈は智に理由を聞こうとしたが、智はそのまま眠り、動かなくなってしまった。
すると、梨乃が帰ってきた。梨乃は倒れ込んでる智を抱え上げ、卓の車に乗せた。
「智君は大丈夫かい?」
「ええ、力を使い過ぎたみたいでして」
玲奈達は、梨乃に続いて卓の車に乗っていった。
そして、玲奈達は卓の車で青波台に戻って来た。智はその間、ずっと眠っていた。
もうすぐ青波台に着こうとした時、智は目を覚まして、玲奈にこう言った。
「さっきはごめん、どうしても我慢出来なくてな…。」
「それはいいんだけど…、どうしてこんな事をしたの?」
智は三人に向かって口を開いて見せた。そこには、吸血鬼のように小さくて鋭い牙が生えている。
「死神が時々、死神以外の特徴を持って産まれるのを、“奇形”って言うんだ。死神は不安定な存在だから時々そういうのが産まれるんだ。
“奇形”の中には元々の霊力が少ないから、他人の霊力を奪う力がある者も居る。俺の場合は、血を取り込む事で霊力を奪えるんだ。」
「そうだったんだ…」
“奇形”は、死神の中でも数十人に一人の割合で産まれるのだそうだ。死神の中でも異質な者として扱われる。
智はそれを必死に隠す為に、血を吸うのを止め、霊力切れを起こさないように霊術を使わないようにしていたが、今まで補給を怠った影響で、梨乃との戦いや先程の戦いで消耗し、理性を抑えられなくなったそうだ。
「別に許してくれなくていいからな、ただ、分かってほしくて…。ただ、玲奈は今まで吸ったどの血よりも、美味しかった…」
「そうだったんだね…、分かった、許すよ。」
玲奈は、そう言って智の頭を撫でた。
「玲奈、優しいんだな…」
「また何かあったら私を頼っていいよ。その代わり、優しく噛んでね。」
玲奈はそう優しく言うと、智は頬を赤くした。感情を抑えられないのか、口元からは牙が覗いている。
そして、玲奈達はそれぞれの家に降ろされて、帰って行った。智が家に帰ると、母親の晶子に呼ばれる。
「智、お願いがあるの」
晶子は戸棚から小さな箱を取り出した。その中には、小瓶が詰まっている。その小瓶には、色が着いた透明な液体が入っていた。
「霊水晶を加工して造った瓶よ。その中には、霊力を液体にして溜め込み、半永久的に取り出せるの。」
「凄い…、でも、どうしてこんなのを造ったの?」
晶子は、瓶が入った箱を紙袋に入れて、智に渡した。
「これがあれば、霊力を簡単に取り出せるの。今度向こうで売るんだけど、その前に色々試さなきゃいけない事があってね。でも、明日急用ができてね…。悪いけど智、これを冥界にある“糸屋”に持っていってくれない?」
晶子は手を合わせて智にそうお願いした。死神である智は、冥界には何度も行った事があるが、一人で行くのは初めてだった。
「俺が一人で、冥界に…?」
智は紙袋を受け取り、戸惑いながら晶子を見つめた。




