新たな力
清蓮は傷ついた身体を奮い起こして、霊達に向かって行った。
「『金華招舞』!」
清蓮は、霊に御札を投げて浄化した。霊は見事に消え去ったが、技の精度は明らかに落ちている。
それに、清蓮が浄化しても、亜空間が破れている限り、霊はそこから入って来る。
「『境界霊縛』!」
清蓮は新たな結界を張り、そこに霊を閉じ込めて浄化した。だが、その結界もすぐに破れてしまう。
「最早ここまでか…」
清蓮は、自らの力が弱くなっている事を身を持って感じていた。
一方その頃、冥徳寺に居た玲奈達の所に怪が襲って来た。真っ先に智は玲奈達の前に立ち、鎌を構える。
「玲奈、下がってろ」
怪は智の目の前に立って、こう話した。
「人一人居ない空の町だと思ったが、まさかここに人が居るとはな」
怪は玲奈達を狙おうとしたが、智の鎌に気づいた。
「俺は剣崎智、死神だ。死神に逆らえると思ってるのか?」
「剣崎、か…、俺が狙う“華玄”の弟、幽玄の子孫…、不足は無いな!」
悪霊は黒くて大きい腕を伸ばして智を襲おうとしたが、間一髪で避けられた。
「『烈風の鎌』!」
智は鎌を炎に纏わせ、怪の腕に向かって振るった。ところが、その怪はそれを避ける。
「『呪縛鎖』」
ところが、黒い鎖が鎌に纏わりついてしまった。智はそれを引き剥がそうとしたが、引き剥がせない。
怪はそのまま鎌ごと智を持ち上げ、地面に叩きつけた。
「俺は“華玄”の魂を狙うものさ、お前になんぞ負けてたまるか」
怪はそのまま食手のようなものを生やし、智の足を締め上げた。
智はしばらく苦しんでいたが、“華玄”という言葉に反応し、急に態度を変えた。
「“華玄”の魂を狙う、か……」
すると、足の食手が燃えだした。見ると、智の身体は燃えだしている。
智は髪の毛が燃えないようにフードを被り、そのまま立ち上がった。
「それは禁忌に値する。ましては“華玄”の魂なら尚更だ、輪廻の理に背き、罪を重ねる魂よ、死神の裁きの火を受け、あわよくば…、ここで果てろ!」
智の目は、霊力で紫色に輝いていた。
智が戦っていたのと同じ頃、梨乃は清蓮と共に霊を祓っていた。だが、清蓮は力尽きようとしている。それに気づいた梨乃は、こう言った。
「清蓮さん、ここは私に任せてください」
梨乃は破れた亜空間の真下に立って、数珠を手に持った。梨乃の目は、先程の清蓮と同じように青く輝いていた。
「ここで全てを終わらせる、『遺風障』!!」
梨乃は御札を手に持ち、高く飛び上がった。そして、振り下ろした衝撃で、爆風が吹き荒れる。
その力で霊達は一気に吹き飛んだ。清蓮も、その力に耐えきれず、倒れてしまう。
そして、亜空間がガラスのように割れ、清蓮は青白い光を放っていた。
「流石だな、梨乃。君の力…、そして兄の力を認めざるを得ないな…。梨乃、その力は後の時代に使わなければならない。…大丈夫、必ずやってくれるさ…。我の残された力を君にやろう、我の力を次の世に役立ててくれ…」
清蓮は青白い粒子になって、梨乃の中に入った。清蓮は、梨乃に自分の力を授けたという事だろうか。
そして、清蓮の意思は消滅し、梨乃は元の場所に戻った。
目の前には、要石がある。梨乃がそれに触れると、結界が張られ、霊の大群は消滅していった。
「智君達、大丈夫かな」
清蓮の事が終わった梨乃は、慌てて山を降り、智達の所に向かった。