2人の、行く末
「さあ、あの男を一発ぶんなぐってやりましょう、アヤノ様」
『うん。本気で行くよ』
「望むところです。――神格接続」
『権能供与要請:受託』
「発動:【創造】」
プラナの全身に、神威が満ちる。
放たれるのは、創世神としての綾乃の力――
「《起源再演・前期遊星衝突》」
空が、落ちてきた。
視界に収まらないほどの巨大な星が、迫る。
かつて地球と月はひとつの惑星だった。
だがその星は、巨大な天体が激突した結果、ふたつに分かれてしまう。
天文学において「ジャイアント・インパクト」と呼ばれるできごとだ。
それがいま、目の前で再現されていた。
「殴るってレベルじゃないだろ、これは……っ!」
本気で殺しにきている。
まずい。
こっちは本体とのリンクが途絶えてるし、権能はどれも使用不能。
スペックとしては、前世、勇者だった頃と同程度だ。
時間を止めることも、物質を微粒子以下に解くこともできやしない。
けどな。
魔法なんてのは、テンション次第でどうとでもなるんだよ。
「ミーア!」
名前を呼び、腰を掴んで抱き寄せる。
「ヨ、ヨシト?」
「子供は何人ほしい!?」
「えっ、あ……その…………2人、いや、さ、さ――」
「3人か?」
「さ、サッカーチームが、できるくらい……………」
オーケー。
だったらこんなところで死ぬわけにはいかない。
おまえのパパは星よりも強いんだ、と。
将来、子供にはそんな自慢をさせてもらおう。
「《歪曲術式》ィィィッ!」
思い描く。
俺が実現しようとする、奇跡のカタチを。
「《我が手に落ちよ、天の輝き》――《超極新星爆発》!」
遊星の大質量を、空間の歪曲によって小石レベルまで圧縮する。
それを掴み、時間を極限まで加速させた。
生み出されるのは、超新星爆発以上の破壊エネルギー。
放っておけば俺たちどころか、魔族領も人族領もすべて消滅するだろう。
だから、
「《同化術式》・《我は汝たれ、汝は我たれ》」
そのエネルギーを丸ごと、吸収した。
強制的に魔力へと変換。
身体が何度となく消滅しかけたが、《時間術式》による巻き戻しを繰り返し、どうにか制御に成功する。
「無茶苦茶ですね」
プラナが苦笑する。
「英雄譚とは往々にして誇張されるものですが……その上を行くとは思いませんでしたよ、ええ」
「勇者だからな」
勇気ひとつで何でもできる。
それが勇者の最低条件だろう、たぶん。
「俺をぶちのめしたいなら、星ひとつじゃ足りないぜ」
ちょっと格好をつけて、言ってみる。
するとプラナは口の端を吊り上げて、
「ならば、おかわりと参りましょう。いいですか、アヤノ様」
『こっちはバッチリだよ。――発動:【創造】』
「《起源再演・後期重爆撃》」
月には多くのクレーターが存在する。
それらは無数の隕石がぶつかった結果であり、太古の地球にも降り注いで環境を激変させた。
生命誕生にも関わった、という説もある。
先程の遊星に比べれば、サイズはやや小さい。
だが総数は一千を越えており、すべてが俺めがけて降り注ぐ。
まともに受ければ塵すら残らないだろう。
けれど、こっちにはエネルギーが有り余ってるんだ。
「《火炎術式》」
いつもの魔法だって、何千倍の出力で発動できる。
俺は宇宙を握りつぶすように、手を伸ばした。
「《我が炎は浄華灼滅の鉄槌である》」
紅蓮が、天壌を焼き尽くした。
空が夕焼けのように赤く染まる。
劫火の中ですべての隕石は灰と化し、否、灰すら残さず消滅する。
「よし」
一息ついて、ふたたびプラナに視線を戻す。
あれ?
さっきまでそこに立っていたはずの姿が、ない。
「ヨシト、上だ!」
ミーアの叫び。
俺は慌てて顔をあげるが、
――この日、プラナはいつになく短いスカートを穿いていた。
「青の、しましま……?」
クールで理知的な容貌からは掛け離れた、可愛らしい下着。
そのギャップに意識を奪われ――
ポカリ。
脳天に拳骨を喰らった。
痛い。
めっちゃ痛い。
思わずしゃがみこんでしまう。
「やりました」
誇らしげにVサインを決めるプラナ。
「わたしの、勝ち」
ああ、うん。
そうだな。
だが勘違いするなよ。
俺はプラナに負けしたんじゃない。
パンツに負けたんだ。
……負け惜しみですすみません。
* *
その後、芳人とミーアは魔王城を去った。
ふたりの行方は杳として知れない。
一説によると人族領に渡ってハイリア皇国の再建に手を貸したとも、冒険者として各地を旅したとも言われている。
ただ。
おそらく、2人は末永く幸せに暮らしたのだろう、
ゆえにこの物語は、ただ一言でもって締め括らねばなるまい。
めでたし、めでたし、と。
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