異世界から勇者を召喚したら、その直後に魔王が攫っていきました。1
前回の続きです。
ブルス海での戦いの後、
「どうか、わたしの代わりに魔族を治めて頂けませんか……?」
第32代魔王プラナから禅譲の打診があった。
これに対してミーアは、
「断る」
決して首を縦に振ることはなかった。
「なぜですか。わたしなどより、ミーア様のほうがずっと強いのに」
「強さの問題ではない」
真正面からプラナを見据えて、告げる。
「もし私が魔王になれば、世継ぎを生まねばならん」
「ミーア様の子でしたら、きっと立派に魔族を率いてくださるでしょう。今から楽しみです」
「ならば勇者ヨシトをここに連れてこい」
「……は?」
「なんだ、当時の記録は残っておらんのか? 私とあの男は恋仲だぞ。将来を誓い合っていた」
しれっと歴史を捏造しているが、ここでそれを指摘する者はいない。
「ミーア様……いえ、なんでもありません」
いちおう隣には骸骨宰相のポーンがいたものの、ミーアのひと睨みで口をつぐんだ。
「もしも古代遺跡の崩落がなければ、我々は夫婦になり、ヨシトが魔王の座に就いていただろう」
「そうだったのですね……」
純真な瞳で頷くプラナ。
完全に、ミーアの話を信じ切っていた。
「私はあやつ以外の精を受けるつもりはない。……まあ、女であれば側室に置いてやってもいいがな」
目を細め、手を伸ばす。
その指でそっとプラナの細い喉を撫で上げた。
ミーアにとっては軽い冗談だった、が、
「は、はい……ミーア様でしたら、わたし……」
やたらと熱っぽい視線が、帰ってきた。
「な……」
驚き、助け船を求めるようにポーンを見ると。
「~♪」
骨だけの身体にも関わらず、器用に口笛を吹いていた。
ちなみにこの男、家の本棚には年若い魔族の少女どうしが見つめ合ったり指を絡め合ったりする小説ばかりを揃えている。以前にそのコレクションを見た部下が「オレ、この子たちの間に挟まりたいッス」などと口走ったが、翌朝、その魔族は辺境警備に左遷されたという。
「~~~♪」
「ぐぬぬ」
歯噛みするミーア。
彼女の苦労はこの日から始まった。
己を「たまたま召喚された過去の亡霊」と偽り、あくまで魔族の王としてプラナを立てる。
300年のうちに用兵学や政治学のノウハウはすっかり失われてしまったらしく、ミーアは昼も夜もなく働くこととなった。
幸いだったのは、先の敗戦で人族がすっかり震え上がってしまったことか。
休戦条約が結ばれ、一時的とはいえ平和が訪れたのだ。
そうして半年が過ぎたころ――
「勇者召喚、だと?」
「はい。どうやらハイリア皇国が儀式の準備を進めているようです」
「ん……はぁ、っ…………」
「プラナ、しっかりしろ。真面目な話の時間だ」
「わかり、ましたぁ……」
「とうといですな」
ここは王の私室である。
ミーアは安楽椅子に腰かけ、左手をだらんと垂らしてる。
その指を、絨毯に跪いたプラナが舐め嘗ぶっている。
頬は上気し、息も荒い。
……そんな2人を眺めつつ、ポーンは報告を続ける。
「召喚は明日早朝に行われるとのことです。いかがなさいますか、ミーア様。まずは下級の飛行魔物を差し向けて威力偵察を――」
「ポーン、年老いて脳が鈍ったようだな」
椅子から立ち上がるミーア。
「おまえは勇者という存在の恐ろしさを忘れたのか? 成長性の怪物だぞ、あれは」
「そ、それはヨシト殿だけの話では……」
ポーンは300年前のみならず、それ以前にも行われた勇者召喚の記録を集めていた。
有史以来、およそ13回。
その中ではヨシトだけが完全な規格外と言える。
なぜなら、他の勇者たちは殺せばちゃんと死ぬ。
全身を粉微塵に砕こうとも蘇るバケモノではないのだ。
「ともあれ、対策は十全に行うべきだ。私はしばらく出るぞ、ポーン」
「一体、どちらへ?」
「決まっている。今から飛行魔法で向かえば、召喚直後に間に合うだろう。新しい勇者とやらを見極めてくる。ついでにハイリア皇国を滅ぼすのも悪くない。あの国にはヨシトが随分と世話になったからな」
ただし、悪い意味で。
さてそんなわけでミーアはハイリア皇国の中枢、ヴォリア宮殿を襲撃したのだが、
「……ヨ、ヨ、ヨ、ヨシト!?」
「あ、ミーアだ」
「勇者って、ええと、えっと、ええええええええええええええええええええっ!?」
大、大、大混乱である。
なぜ芳人がここにいるのか。
突然のことに思考がグルグルと迷走をはじめ、
「ゆ、勇者よ! せ、世界の半分とお前をもらっていくぞ!」
「ま、待て。まだこっちも神格との接続が――」
「いいからこっちに来い! あとそこの姫っぽい女と、男っぽい鎧を着てる女! 私のヨシトに色目を使うな!」
芳人の腕を掴むと、全力でその場から逃げ出した。
山を越え草原を越え海を越え、魔王城に舞い戻る。
「ミーア様、これはいったい……」
「すまん、つい……」
全速力で飛んできたせいだろう、ミーアはかなり疲労困憊していた。
そのままぐでーとベッドに倒れ込む。
「ポーンさん、お久しぶりです」
「これはどうもご丁寧に……。まさか芳人様にお会いできるとは思っておりませんでした」
ほとんど拉致のようにして連れてこられた芳人は、ひとまず、その場にいたポーンに一礼する。
かつて魔王城に滞在していたころ、百合の花 (婉曲表現) のすばらしさについて語り合った仲である。
「あれが、勇者ヨシト……お姉様の夫…………」
そして (ここが自分の部屋であるにもかかわらず) 物陰からプラナが嫉妬交じりの視線を向けていた。
ヨシトがこの世界に召喚された経緯は次回。
Q.姫っぽい女ってだれ?
A.前回、スデメダ王が用意した色仕掛け要因
Q.男っぽい鎧を着た女ってだれ?
A.自称勇者ヨシトの子孫、ヨスス。男装の麗人。




