↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
116/145

第93話 それぞれの終着点

お待たせしました、ごめんなさい。

やっと復帰です。

 日本神話における火之迦具土神(ひのかぐつちのかみ)と伊邪那美命(いざなみのみこと)。

 あるいは、ギリシャ神話におけるゼウスとクロノス。


 物語に示される通り、「親を殺すこと」あるいは「子に殺されること」は神に付きまとう業のようなものである。

 ならばこそ、この結果はある種の必然と言えよう。


 玲於奈の刃は、深く深く、伊城木月の心臓を抉っていた。


「まだ、ですわ。わたくしは、この程度で……」

「どれだけ大物ぶっていようと、土壇場ではこの程度です」


 玲於奈は、刀を引き抜いた。

 その勢いのまま、クルリと回転しつつ――横一閃。

 左下から右上へ。

 斬撃が疾(はし)り抜(ぬ)けた。

 2つに分かたれた月の身体が、地面にドサリと倒れる。


「ちょっとしたことで躓(つまず)いて、ちょっとしたことで立ち直る。時にはやらかして、とんでもないしっぺ返しを食らう。

 ……今更ですが、私たちはどうしようもなく親子なのでしょう。生んでくれたことには感謝しておきますよ、お母様。おかげで芳くんに出会えましたから」


 剣を鞘に納める。

 玲於奈の表情は、まるで憑き物が落ちたかのようだった。


「まあ、それはそれとして姉さんはぶちのめさないといけませんが。人の恋路にケチをつけてくれたので、なんかこう、芳くんの協力のもとハードなR-18展開を……って、あれ?」


 そばにいた芳人に話しかけたつもりが、いつのまにやら彼の姿は消えていた。

 果たしてどこで何をしているのかといえば、


「――前略、《時空崩解(再生怪人は悲しいね)》」


 一撃のもとにヘルベルトを葬っていた。

 断末魔をあげる隙すら与えず、素粒子以下の状態まで分解する。

 

「ありがとう、ヨシト。また助けられたわね」


 ヘルベルトの蔦に嬲られ、フィリスはかなりの傷を負っていた。

 ドレスは破け、ふとすると転(まろ)び出(で)そうになる胸を片手で隠し、押さえている。

 芳人は目のやり場に困りつつ、


「……すまない、遅くなった」


 フィリスの身体に手をかざした。

 時間が逆巻きに流れ、一瞬にしてすべての傷が『なかったこと』になる。


「遅くなんかないわ。十分間に合ってる。だって私、まだ生きてるもの」

「いや、そういうことじゃなくて、その……」


 口籠ってしまう。

 伝えるべきかどうか迷ったのだ。


 013が戦いの中で命を落としたこと。

 彼が導いてくれたおかげで自分はこの時間軸に戻ってこれたが――『013の死』と『伊城木芳人の帰還』は切り離せない因果であり、復活は絶望的であること。


 あとでまた落ち着いてから説明すべきだろうか。

 芳人が弱気に呑まれそうになった、その時。


「あの子、逝ったのね」


 すべてを察したような瞳で、フィリスが口を開いた。


「なんとなくそんな気がしたのよ。ヨシトそっくりの魔力波長が近くに来たと思ったら、パァッ、って弾けて消えたから。……こんなことなら、一度くらいデートしてあげればよかったかしら」

「すまない。俺がもっと早くに駆けつけていれば……」


 無念の表情を浮かべ、芳人は俯く――俯きかける。

 パン!

 その頬が、左右から挟み込まれた。

 

 ぐにぐに。

 むにむに。


 フィリスの両手が、芳人の顔を揉みしだく。


「ぬぁ(な)、ぬぁに(何)ほ(を)すすんだ(するんだ)」

「はい、暗い顔はやめ! やめやめ! 何でもかんでも背負ってたら、そのうち人類の原罪とか言いだして、ゴルゴタの丘で処刑されるわよ!?」

「世界三大宗教の人と比べないでくれ、畏れ多すぎるだろ……」

「神様のくせにゴチャゴチャ言わない! 分かった?」

「あ、ああ……」

「ちゃんと返事する!」

「はい!」

「よし」


 うんうん、と満足げに首肯するフィリス。


「ほんと、あんまり自分のせいにしちゃダメよ。この中じゃ私が一番年上だし、何かあったらお姉さんにすぐ相談してちょうだい」


 お姉さんと呼ぶには年がちょっと……と思ったが、あえて芳人は何も言わない。

 普段の彼ならうっかり口走っていただろうが、神としての力を手にしたことで、ちょっとは自制めいたものを身に着けたのだ。

 

「わかった。……それから、服はあとで直す。ちょっと待っててくれ」

「えっ?」


 フィリスが問い返す間もなく、芳人は別のところに行ってしまう。

 さて。


 ヘルベルトはやたらと母性に飢えていたが、その影響だろうか、フィリスの服を破くにあたっても、母性的な部分をやたらと露出させるような形になっていた。

 フィリス自身、さっきまでは片腕で布の切れ端を掴んでどうにか隠していたが、芳人のほっぺたを掴んだ際、胸のあたりはフリーになってしまい――ぽろん、と。

 無自覚な感じで露わになっていた。


「~~~~ッ!」


 慌てて両腕を持ってくるものの、胸はその中へと押し込められたことで谷間がより顕著となる。非常に煽情的な姿だった。

 しかしながら芳人はそれに目もくれず、神薙真姫奈のもとへ向かった。



 ――このときまで彼女は時間停止に呑まれていたが、それを解除する。



「よし、と……?」

 

 彼女の負った傷は、フィリスイリスと比較にならない。

 何十匹という狼男に蹂躙され、あちこちを食い破られていた。

 出血も多く、放っておけばじきに絶命するだろう。


「これは、ゆめ、か……? ゆめ、だろうな。それは、それで、かまわん」


 焦点の合わぬ瞳のまま、真姫奈は掠れた声で言葉を続ける――




 


 よしと。

 ずっとあいたかった。

 幻覚だとしても、あえてよかった……です。


 すきです。

 だいすきです。


 もういちど、声をききたいとおもいました。

 もういちど、抱きしめてほしいとおもいました。

 

 はじめは、ただ、それだけだったのに。

 

 わたしは罪をおかしました。

 たくさんの人を踏みにじりました。

 それが間違いと分かっているのに、やめられませんでした。

 ふと冷静になることはあっても、「ここでやめたらすべてが無駄になる」とおもいつめて、いっそう罪をかさねました。


 れおなにも、ひどいことを言いました。

 しあせそうなあの子を、どうしようもなく、妬んでしまったんです。

 

 だから、だれか。

 わたしを止めてください。裁いてください。罰してください。

 

 もしあなたが本物の芳人なら、どうか、やさしくころしてください。

 最後に会った日みたいに愛してるとささやいて、抱きしめて、そのまま首をねじきってください。


 みがってとは思いますが、それがわたしの願いです。






 

 * *






 芳人は答える。


「ほんとうに、身勝手だな」


 と。

 

「今際(いまわ)の時に改心したようなセリフを吐いて、許してもらえるのはフィクションだけだ。少なくとも玲於奈には謝ってもらわないと困る。……だから、まだ、死ねると思うな」


 右手で、真姫奈の顔に触れる。

 身体が解けるように消えてゆき――白い燐光が芳人の身体へと吸い込まれた。

 真姫奈の魂魄である。


「やってきたことの償いも終わってないし、俺だって、言いたいことがある。勝手かもしれないが、こっちは神様なんだ。諦めてくれ」


 そう呟くと、次は、水華のほうに向きなおる。


「久しぶりですね、芳人様。金髪でロングになっていますが、もしや反抗期でしょうか。……冗談です」


 それは芳人の気持ちを和らげるためのジョークだったのだろう。

 まあ、明らかに滑っていたが。


「私は無事です。あとで娘と一緒に可愛がってくれれば結構なので、未亜さんに声をかけてあげてください」

「……ちょっと待った」

「どうしましたか」

「水華さん、子供、いたんですか」

「最近、静玖さんと義親子の誓いを結びました。近いうちにメイド姿で伺いますので、ぜひ」

「何がどう“ぜひ”なんだ……? というか水華さん、そんなキャラでした? もうちょっと冷静で、けれど妙に空回りな感じだったような……」

「芳人様、お忘れかもしれませんが私は猫又です」


 耳をピコピコと動かし、アピールする。


「猫の発情期はいつかご存知ですか」

「ええっと、春と夏で――」

「お分かりいただけましたか。昔、お世話させていただいたのは秋から冬にかけてのことでしたし、ギャップに戸惑うのは仕方ないことかと。

 ああ、でも安心してください。普通の猫に比べると、猫又は長寿なぶん性欲は薄めですから。特定の相手がいない場合、発情期だろうと枯れ木同然です」

「えっと、じゃあ、水華さんがいまヘンというか、発情期モードなのは――」

「そういう相手がいるからですね。ぶっちゃけると芳人様です」

「あ、はい……」


 目の前で堂々と言われてしまうと、さすがの芳人と言えど恐縮してしまう。

 そうかー、暖かい時期の水華さんはこんなに押しが強いのか……と納得する。


「さて、少しは気分も晴れたでしょうか」

「え?」

「これから未亜様と話をするのでしょう。他の女性のことを引きずったままというのは、さすがにマナー違反と思いますが」

「……顔に出てましたか、俺」

「はい、初恋の相手への未練が滲みまくっていました」

「それは、うん、よくないな。ありがとう、水華さん」

「従者として当然のことです。もし感謝していただけるなら、リクエストをひとつ聞いて頂きたいのですが」

「なんですか?」

「丁寧語はおやめください。もうすこしこう、主らしいというか、静玖さんや玲於奈さんと話すようにお願いします。

 それかいっそ、この豚め、と罵っていただいても。そのたびに、にゃーん、と鳴きましょう」

「豚なのに猫……?」

「中国では、熊猫と書いてパンダと読みます。まあ、関係ありませんが」

「ホントに関係ないな……」


 はぁ、と嘆息する芳人。

 とはいえ、おかげで妙な緊張も解けた。

  

 未亜のもとへ向かう。

 懐かしい姿をしていた。

 

 青い髪の少女。

 射貫くような視線は、魔王の後継者に相応しい威風を備えていた。


「ただいま、未亜」


 微笑んで、片手を挙げると、


「……おかえり、兄さん」


 未亜はその表情を和らげた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。