第8話 週末の親睦会“part2”
長いです。1日遅れてすみません
ハンバーガー店は、週末ということもあり、子連れや学生でいっぱいになっていた。
「あ〜あ、混んでるよ。どうしよっか」
「あ、テラス席なら空いてたよ。暑いだろうけど、行こうぜ」
そう言って、少し暑さを感じる日陰のテラスの席を取る。
「じゃあ、前半後半に分けて、並ぶか。荷物盗まれないようにみておいてね」
「了解」
と、前半後半にわかれ(僕は前半)、ハンバーガーを注文することになった。
俺はチーズバーガー、俺はダブルチキンバーガーなどと列に並んで喋っていると、後ろから、肩をポンと叩かた。振り返ると、中村さんがいた。
「こんにちは、中村さん」
「こんなところで会うなんて、やはりあなた神出鬼没ね」
こっちのセリフなんだけど……。
「あ〜!この子が蒼くんかぁ〜。よろしくねー!」
と中村さんの後ろから女子がひょっこり現れる。
「私たち、同じクラスの女子だけで遊んでるのよ。この子は岩城優依さんよ」
「さん付けやめてって言ってるのにー。蒼くんよろしくね」
「よろしく……」
軽く頭を下げると、岩城さんはにこっと笑って、僕の顔をじっと見てきた。
「へぇ〜、なんか思ってたより普通だね、蒼くん」
「岩城さん……?それ、どういう意味……?」
「いやいや、もっとこう……変な人かと思ってた!」
「失礼すぎるでしょ……」
その言葉に僕は思わず苦笑すると、後ろで中村さんが小さくため息をついた。
「岩城さん、あなたちょっと距離感おかしいわよ」
「え〜?だって同じクラスなんだからいいじゃん」
そんなやり取りをしているうちに、列が少しずつ進んでいく。後ろには女子グループ、前には僕ら男子組。なんだか変な並び方だ。
「そういえば蒼くん、LIME交換しない?」
「え!?別に良いけど」
「“別に”ってなにそれ〜!あ、もしかして、女子とLIME繋ぐの初めて?」
岩城さんが先ほどとはまた違う笑みを浮かべ、肩を軽く叩いてくる。ちょっとびっくりしたけど、嫌な感じはしなかった。昔とは程遠い世界線だなと感じていた、そのときだった。
「……ねえ」
すぐ後ろから、中村さんの声がした。さっきまでの淡々とした口調とは違って、少し低く、真剣な響き。
「宮本くん、今、前にいる店員……見て」
「え?」
中村さんに言われて、カウンターの方に目を向ける。すると、注文を受けている店員が見えるのだが、淡々と作業をこなしているだけだった。
別に、何もおかしいところなんて――
――いや。
(……あれ?)
違和感。同じ動き。同じタイミング。まるで、さっき見た光景をそのままもう一度再生しているみたいな――トレーを取る動き。レジを打つ手。客に向ける笑顔。全部、ぴったり同じだった。
「……今、同じこと……」
言いかけた瞬間、頭の奥にチリ、とした痛みが走る。
「っ……!」
頭の痛みに思わず額を押さえる。
「ちょ、蒼くん大丈夫!?」
岩城さんが慌てて覗き込んでくる。
「……やっぱりね」
中村さんの声が、すぐ後ろで小さく響いた。
「あなたはもう、対象なのね――」
「対象って――?」
問い返そうとした、そのとき。視界が、ふっと歪んだ。時が一瞬止まった気がした。店員はこちらを見つめ、――その目が、さっきと同じ“動き”でこちらを向く。僕は後ろから何者かに攻撃されたのかうつ伏せに倒れてしまった。
音が消える。そして――
黒い制服、日が登り始めた早朝の風景が一瞬広がった様な気がした。
そして、その一瞬が過ぎ去る。さっきまでうつ伏せになっていたはずなのに、僕は立っていた。不思議に思いながら、辺りを見渡すと、岩城さんが僕の様子を不思議がっているのと、中村さんも同じことをしている事がわかる。店員は……?あれ、なんで店員の事が出てきたんだ……?
「蒼、順番だぞ」
という男子グループの1人の言葉で我に帰る。
「あ、ほんとだ……」
気づけば、カウンターの目の前に立っていた。さっきまで何を考えていたのか、一瞬思い出そうとするが、頭の奥がもやもやして、うまく掴めない。
(……なんだっけ、今……)
違和感だけが、薄く残っている。
「ご注文どうぞー」
店員の声に促される。
「えっと……チーズバーガーと、ポテトで」
「かしこまりました」
――普通だ。
さっきまで感じていた“何か”は、もうどこにもない。店員も、ただの店員にしか見えなかった。
(……気のせい、か?)
そう思い込もうとする。トレーを受け取り、テラス席へ戻ると、すでに何人かは座っていた。
「お、蒼遅いじゃん」
「結構並んでたからなー」
和也がポテトをつまみながら笑う。
「はいはーい、女子組も合流ね〜!」
女子グループも男子グループ前半組が並んでいる間に、隣の席をとった様で、男子と女子が混ざる形でテーブルを囲むことになった。
「いただきまーす!」
誰かの声に合わせて、みんなで食べ始める。ハンバーガーは普通に美味しくて、さっきまでの違和感なんて、どうでもよくなりそうになる。
けれど――
(……なんか、引っかかる)
頭の奥に、引っかかる“何か”。思い出そうとすると、またあのチリ、とした痛みが走りそうで、無意識に考えるのをやめてしまう。
「蒼くん、さっきほんとに大丈夫だった?」
岩城さんが心配そうに覗き込んでくる。
「ああ、ちょっと立ちくらみみたいなもんだと思う」
「無理しないでね?何かあったら私に相談してよね〜」
「うん……」
その横で――中村さんだけが、何も言わずにこちらを見ていた。鋭い目で、じっと。
まるで、“何かを確認する”みたいに。
(……やっぱり、この人……)
ただのクラスメイトじゃない。そんな気がした。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
昼食を終え、店を出る。
「よし、このあとどうする?」
「優斗のケーキ屋行くんだろ?」
「あ、そうだった!」
女子グループと別れ、みんなが次の目的地に向かって歩き出す。その流れに乗りながら、僕はふと、店の方を振り返った。
ガラス越しに、さっきのカウンターが見える。――誰も、こちらなんて見ていない。
(……やっぱり、気のせいか)
そう思った、そのとき。ガラスに映る“自分の姿”の後ろに――一瞬だけ、黒い影が重なった気がした。
「……っ」
反射的に振り返る。けれど、そこには誰もいない。
「どうした、蒼?」
和也が問いかけてくる。
「いや……なんでもない」
そう答えながらも、胸の奥のざわつきは消えなかった。
(……まただ)
理由はわからない。でも、確実に――“何かがおかしい”。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
電車に乗り、筑波万博記念公園駅まで行き、徒歩で少し歩くと、『KAMIYAMA Patisserie』という店に着く。
「うちの店へようこそ」
優斗がドアを開け、中へ入ることを促す。
「あら、みなさんいらっしゃい。どうぞ奥へ」
と、活発そうな女性が声をかけてくる。
「こっちは母さんで、厨房にいるのが父さんだよ」
と、優斗が紹介する。10人以上の男子が入る場所なんてあるのかと思ったが、店も、奥にある家も意外に大きくてびっくりした。
リビングに通されたが、30畳以上はあるんじゃないかと思うくらい広かった。
「優斗、友達とゲームかなんかするの?」
ケーキをみんなに分けながら優斗のお母さんが言った。
「まあ、戦闘ゲームでトーナメントでもやろうかなと」
そう言いながら、スイッチャー2というゲーム機と大乱闘バトルロイヤルというゲームソフトを出していた。
「バトロワかぁ!やる相手最近いなかったから嬉しいぜ」
「バトロワなら無双してやるぞ」
などと他の人が盛り上がってきた。
「じゃあ、くじ引きのトーナメントでやるか。18人だから3回に分けてやろう」
そう言って、順番が決まる。僕は2回戦目だ。
1回戦目が始まった中、僕はリビングにあった写真を眺めていた。優斗とその兄が写ったものがほとんどで転んで怪我した優斗の写真や、持久走大会入賞の写真などが飾ってあった中、一枚、家族写真ではないものがあった。そう断定できたのは、僕の両親が写っていたからだ。
「この写真って……?」
「ああ、この写真は親が同じ場所で仕事してたっていう人たちとの集合写真だってよ」
同じく2回戦目の優斗が答える。
「僕の親写ってるんだけど……」
「え、まじ!?母さん〜!蒼の親この写真にいるって〜!」
その声を聞いて、すぐさま優斗のお母さんが来る。
「あ〜、宮本さんと西さんとこのお子さんだったのね。私、2人にはお世話になったのよ。よろしく言っておいてちょうだいね」
「……お世話、って?」
思わず聞き返す。優斗のお母さんは一瞬だけ言葉を選ぶように視線を泳がせた。
「昔ね、ちょっとした研究みたいなことを一緒にしてたのよ。もうずいぶん前の話だけど」
「研究……?」
胸の奥がざわつく。なぜか、その言葉に引っかかりを覚えた。
「まあ、難しい話じゃないわ。人の記憶とか、そういうのに関わる仕事よ」
「記憶……」
その瞬間、頭の奥がチリ、と痛む。
(まただ……)
入学式のとき。旧校舎の前。そして、さっきのハンバーガー店。全部、繋がっている気がする。
「蒼、どうした?」
優斗が顔を覗き込んでくる。
「あ、いや……なんでもない」
ごまかすように笑うと、優斗のお母さんはふっと表情を緩めた。
「でもね、その仕事はもう終わってるの。だから――もう関わらない方がいいと思ってたんだけど、まさかこんな出会いがあるなんてね」
「終わってる……?」
その言い方が、妙に引っかかった。“終わった”というより――“終わらせられた”みたいな響きだった。
「おーい!次の試合始まるぞー!」
リビングの方から和也の声が響く。
「ほら蒼、俺らの番だって」
「あ、うん」
優斗に急かされて、コントローラーを手に取る。画面にはキャラクター選択画面が映っている。
だが、その一瞬――画面がノイズ混じりに揺れた。また同じ様な異変。
「……?」
誰も気づいていない。けれど、確かに見えた。一瞬だけ、選択画面の奥に――“黒い制服の人物”が立っていた。
(……またか)
心臓の鼓動が、少し速くなる。
「蒼、早くキャラ選べって!」
「あ、うん……」
慌てて適当にキャラを選ぶ。ゲームは始まり、周りは盛り上がる。
だけど――
(親の仕事……記憶……黒い制服……)
全部が、どこかで繋がっている気がしてならなかった。そして、その“何か”に――自分は、もう踏み込んでしまっている。――いや、もう“引き返せないところまで来ている




