第22話:戦場への凱旋――「古参」として挑む本山最大行事!!
名古屋での「律」を凝縮した時間を終え、私に下されたのは本山・永平寺への復帰命令でした。行き先は、かつて私を震え上がらせた「あの戦場」。しかし、一年の歳月を経て戻った私の目に見えたのは、全く別の景色でした。
名古屋での穏やかな日々は二か月ほどで幕を閉じ、修行の卒業という意味の「乞暇」を目前に控えた五月、一本の電話が届きました。
「堅明さん。来週から、本山に転役です」
行き先は、本山最大行事の一つであり、全国からOBたちが集結する「授戒会」を控えた大庫院(厨房)。
押し寄せる数千人の参拝者、膨大な食事の準備。一年前なら聞いただけで血の気が引くような知らせでしたが、山へ戻った私の心境は、驚くほど冷静でした。
現場に入ると、そこには一年前と変わらぬ「戦場」が広がっています。
しかし、私自身が決定的に変わっていました。
すでに一年下の後輩たちが入り、私は現場を仕切る「古参和尚」という立場。かつての右も左も分からず、荒波に呑まれていた小庫院時代の自分とは、見えている景色が全く違ったのです。あの「怒号と煙」にしか見えなかった厨房が、今は「誰がどこで何をしているか」が手に取るように分かる、一つの大きな呼吸のように感じられました。
次々と押し寄せる難題も、膨大な量の調理も、これまでの経験を総動員すれば「即戦力」としてスムーズに捌いていける。
あれほど気を遣って疲弊したはずのOBたちとも、今では笑顔で談笑を交えながら、過酷なはずの公務をどこか楽しんでいる自分がいました。「修行僧」として怯えていたあの日とは違い、一人の「和尚」として認められている実感が、そこにはありました。
「同じ苦労であっても、それを乗り越えた先には『余裕』という景色が待っている」
死に物狂いで積み上げた経験は、いつか必ず、自分を支える「揺るぎない自信」へと変わる。
それを肌で感じた、卒業間近の春でした。
合掌
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
かつては恐ろしかった先輩や、途方もない仕事量。それが今の自分には「当たり前にこなせること」に変わっている。その変化に気づいた瞬間、初めて自分自身の成長を許せた気がします。
今、何かの「戦場」で必死に耐えているあなたへ。その積み重ねは、絶対に無駄にはなりません。いつか必ず、あなただけの「余裕という景色」が見える日が来ます。
同時連載中の小説『蒼龍くん物語』の中で、数々の死線を越えた蒼龍くんが、強敵や困難を圧倒していく場面があります。その成長の裏打ちには、私が大庫院の喧騒の中で感じた「もう、あの頃の頼りない自分ではない」という静かな、しかし絶対的な確信が込められています。
▼【癒やし】蒼龍くん物語 〜小さな龍と学ぶ、心を調えるための「禅の智慧」〜
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次回は、いよいよ15か月に及んだ修行の物語の完結回。
修行生活に別れを告げる「乞暇」の日。秋田へと続く「涙の新しい一歩」についてお話しします。




