第33話「適性(ジョブ)」
4人は目的の教会に到着した。教会の前には多くの若者たちが集まり、にぎやかな声で溢れている。
「んぁ? なんだぁ? 何かやってんのか?」
ライガが周囲を見回しながら言った。
「おや、丁度良かった。もうそんな時期ですか」
ノクスは足を止め、入り口を眺める。するとグリオールが、口元に笑みを浮かべて提案した。
「絶好の機会じゃない。中の様子、見学させてもらいましょうよ」
教会の広間には参列者がぎっしりと座り、壇上には数名の若者たちが集まっていた。ノクスたちも席を見つけ、静かに腰を下ろす。
やがて、神父と思しき老人が姿を現す。場内が静まり、声が響き渡った。
「皆さん、お待たせ致しました。では、只今より拝受の議を執り行います。よい適性を授かるよう祈りましょう!」
「……んぁ? 適性? なんだそれ」
ライガがノクスの方を向く。
「見ていれば分かりますよ」
ノクスは小さく答え、壇上を注視した。
若者の一人が神父の前に膝をつく。神父は水晶を掲げた。
「なぁ、おい。あのジイさんが掲げてるのって……」
「ええ。我々の魂力です。そして、あの水晶は魂力の変換装置のようですね」
言葉を交わす間に、神父が若者に水晶を近づける。
すると、淡い光が若者に降り注いだ。
神父はその光の量を見て、書物と見比べた後、大声で若者に告げる。
「貴方の適性は……≪闘士≫です!」
「いよっしゃぁあああ!! 戦闘向きじゃん! ラッキー!」
若者が跳ね上がり、周囲からどよめきが起こる。ライガが眉を上げた。
「なんだぁ? ≪闘士≫?」
「適性の一種ですよ。天界と違って地上界にはモンスターが溢れていますから、討伐を生業にする者も多いようです」
その後も、神父の言葉に合わせて次々と若者が適性を告げられていく。だが、壇上の一人が突然声を荒げた。
「くっそぉお! 何だよ≪道化師≫って! 何の役にも立たねー!」
「ははっ、残念だったな。お前、この前盗み働いたから冥王に呪われたんじゃね?」
「これも全部“冥王の呪い”のせいだ!」
その言葉に、ライガがちらりとノクスを見る。
「……冥王の呪い?」
「その話は教会を出てからにしましょう。儀式も終わったようですし、場所を移します」
◆◇◆◇
広場の木陰のベンチに腰を下ろし、ノクスは口を開く。
「ここならゆっくり話せますね。先ほど聞き慣れない言葉がいくつかありましたよね?」
ライガが身を乗り出す。
「おうっ! あれ、何なんだ?」
「中継地点の街でライガに服を買ったのを覚えていますか? あの時に支払った魂力は、業者を通じて各地上世界に送られます。テラアースでは教会の変換装置に集められているようですね」
「で、それを適性って形にして人間に注いでるってわけよ」
グリオールが横から口を挟む。
「元々はアタシたち天人しか使えなかった術を、人間達が真似て、誰でも扱える形に改良したものらしいわよぉ」
「ええ。特に攻撃が得意な適性などは、モンスターがいる地上界では需要が高いのでしょう。火や氷を扱う≪魔術師≫とかね」
「でも、魂力って貰い物だろ? んなもん、すぐ尽きるんじゃねぇのか?」
「いい質問ですね。適性は魂の潜在能力を引き出すきっかけに過ぎません。方向性を与えるだけで、その能力を伸ばせるかは本人次第です」
ノクスがそう言うと、ライガは眉をひそめ、短く唸ったように見えた。
「ふ~ん……で、“冥王の呪い”ってのは?」
「あれは天界の裏にあるとされる“冥界ヘルフレイル”の主、冥王のことを指すのでしょう」
その時、横にいたレオンがわずかに肩を震わせたように見えた。
ノクスには意味が掴めなかったが、グリオールはわずかに口元を歪め、何かを含んだ笑みを浮かべている。
「ねぇ、ライガちゃん。地上界の人間が死ぬと、その魂は一旦浄化装置に集められてお洗濯されて、また地上界に転生する。ここまでは前に説明したわよね?」
ノクスの説明に続いて、グリオールが声をかける。
「じゃあ、天人が死んだら、その魂はどこに行くのかしらぁ?」
「どこって……。浄化装置だろ?」
「いいえ、天人が死ぬとその魂は“冥界ヘルフレイル”へ行くとされています。そして“冥王”により、再びアルフレイルへ送り返され、生を受けるとの話です」
「との話ですって、何だよ。ノクスは行ったことねーのかよ」
「行ける訳ないでしょうが! 死ぬ以外に生きたまま冥界に行けるのは、冥王に認められた者か、勇者の適性を持つ地上人だけです」
「んぁ? 勇者ぁ??」
その言葉にさらに驚きの表情を浮かべるライガに、グリオールは冷たい視線を送りながら言った。
「ええ。通常の地上世界の人間が行けるのは、せいぜい中継地点まで。本来アルフレイルにすら行けないの。でも勇者の適性を持つ者はあらゆる世界に行けるとの話よぉ? 次元の壁を越えて他の地上界に行けたりね。もちろん冥界も例外じゃないわぁ」
「と言っても、勇者は10億人に一人の確率でしか発現しない最上級にレアな適性らしいですね」
ノクスが最後に付け加える。
「なんだよそれ! じゃあ誰も勇者になれねーじゃん!」
ライガは呆れ顔で呟く。
「ねぇ、その10億人に一人……どうやら出ちゃったみたいよ~?」
グリオールがにやりと笑う。
「え……!? 出たんですか? それ僕も初耳なんですが」
ノクスは驚きの表情を見せる。
「ほら、そこの石碑に勇者が何たらって書いてあるわ。……これって記念碑じゃない?」
グリオールが広場の片隅に立つ石碑を指さした。
「へぇ……? 記念碑まであるとは、つまりその勇者は“テラアース”の人間なんですね。一体、どんな人物なんでしょう?」
ノクスとライガは興味津々で石碑の方に目を向ける。
「ん? おい、なんか名前掘ってあるぞ? これ何て読むんだ?」
ライガが石碑に書かれた名前を見つけ、指を指して尋ねる。
「……どれどれ、ええっと」
ノクスがその名前をじっくりと読み上げた。
瞬間。顔色が変わり、目を見開く。
「こ、こ……こんなバカなことが……!」
ノクスは驚きと困惑の入り混じった表情を浮かべ、言葉を震わせる。
「おいっ、何だよ! 早く教えろ!」
ライガが焦りながら尋ねる。
「ゆ、勇者……“勇者ライガ”!!???」
ノクスがついに言葉を発した。その言葉が広場に響き渡ると、周囲の空気が一瞬にして凍りついた。
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