その⑧
「誰かいる!」
わたしの部屋で外を見張っているディザードはふとそう呟き、わたしは慌てて身を起し、顔を拭く物を探す。
彼は視線をこちらに向けることもなくさり気なくポケットに入っていたハンカチをわたしに手渡し、窓の外を睨んだ。
「あ・・ありがとう・・・」
何も言ってないのに分かるとは、流石長年の経験の賜物!
わたしはそのハンカチで遠慮無しに鼻を噛む。
その様子を感じ取り、ディザードの口元が若干引きつって見えた。
「あいつは・・・」
彼の顔が曇り出す。
彼の様子が気になりわたしも窓の外を覗き込んだ。
すると先日の黒いマントの術者の嫌な男がこっちに向かって歩いて来たのだ。
「ちっ!間の悪い時に・・・・
ちょっと待っててくれ。キルドに言っとかないと。直ぐ戻る。」
彼はそう言うと、その場から搔き消える。
・・・・え~・・・行っちゃったよ・・・・
取りあえずわたしはディザードの代わりに監視することにした。
男は入口前で止まり何もせず突っ立っていた。
何か違和感を覚える。外は雨が降っているのに男は何もかぶっていないからだ。
・・・・術者の事はよく分からないけど・・・見た感じ服おろか頭もびしょ濡れ・・・
男は突然頭を手で抑え座り込み、そして次の瞬間・・・
ぱんっ!!!
音と共に体が弾け散り首が2・3メートル程飛んで行った。
「え゛っ!?」
わたしは慌てて、起き上がり今一瞬何が起きたのかを考えるのだが考えが追い付かないでいた。
しゅっ!
ディザードは部屋に戻って来る。
「あいつの事は言って来た。居留守を使えと言ってある。」
わたしはディザードを見た瞬間彼に駆け寄って彼の後ろに隠れ窓の外を見る様指で合図する。
彼は窓の外を見て恐怖した。
「突然・・・爆発して頭が・・・・」
彼の腕を力強く掴みながらわたしは声を震わせながらそう言った。
「宣戦布告って所か・・・
まぁ、僕としてあの男はいささか腹の立つ男だったから清々するけど・・・・人の死はどんな悪人だろうが何度見ても良い感じはしないな・・・」
彼の表情は怒りに満ち溢れていた。
「もう・・・奴はこの結界の中に入り込んで来ている。そして既に建物の中にいるかも知れない。」
わたしは彼の言葉に沈黙し続けていた。
人を簡単に殺すような奴がここに入って来てるかも知れないと言ってるからだ。
ハッキリ言うと・・・どうして良いか分からない・・・・
自分の力の無さを後悔する。
「わたしは良いから・・・・キルドの所に行って来て・・・・キルドの事狙ってるんでしょ?」
ディザードは首を横に振り・・・
「それは駄目だ!お前の身が危険にさらされることになる。」
彼は怖い顔をしてそう言い放つがこっちも負ける訳にはいかず・・・・
「余所者でいつ出て行くか分からないわたしの事より、親友助けるのがあなたの仕事でしょ!?わたしなんか放っといて行きなさい!!」
強い口調で言い返す。
彼は暫し考え込み・・・・
「駄目なんだ・・・・」
・・・?・・・・
明らかにいつもと違う彼の絞り出すような言葉に暫しの沈黙・・・・
「キルドは君の事が好きなんだよ!だから君を巻き込みたくないんだ。」
突然変な事を言われうろたえるわたし。
「好きって・・・え~と・・・・兄として・・・?」
首を横にブンブン振りまくる彼。
「男としてだよ。」
わたしは理解が追い付かず2・3歩後退る。
「何であんたが知ってるのよ??こんな時に冗談とかやめてよ!!」
パニックになりながらそう言い放つ。
「冗談じゃない!君がここの森の中に迷い込んだあの時あいつは凄く挙動不審で『これは恋という物でしょうか?』と僕に聞いてきたんだ。
僕も恋なんて物はあまり分からないしまぁ適当に『恋なんじゃない?』って言っといたけど・・・・その後の事だよ、君を結界の外に出せなくなったのは・・・今まで様々な人を結界の外に送り出してきたというのに君だけは出してあげられなかった。」
・・・う・・・んん?・・・・
「恋をして結界にまで影響を与える事は無いだろう?と何度も考えたけど・・・キルドの様子を観察する度にそれは疑いから確信に変わって行った。
あの様子じゃ自分が閉じ込めてるのなんて全然気付いてないんだろうな・・・・
つまり、キルドが君に恋をしている限りここから外には出れないってわけ・・・」
わたしは力が抜けてヘナヘナと床に倒れ込む。
「それでもここから出たいと思うなら、あいつを幻滅させろ!って事だよ。早めに言うべきだったのかも知れないけど・・・」
「本人から聞いてないし・・・わたし本人から聞かないと!!」
何とか立ち上がりわたしは入り口の方に走り出そうとするがディザードに腕を捕まれ静止する。
「駄目だ!今は駄目だ。おとなしくここにいてくれ!
あいつの頼みでもあるから・・・・」
彼は困った顔でわたしの目を見て訴えた。
・・・・今直ぐ飛んで行きたいけど、今は状況が状況、おとなしく彼とここにいるしか無い・・・か・・・
っていうか・・・どういう顔してわたしってばキルドに聞こうとしてたのよ!?『あなたわたしの事好きなの?』ってぇ!!!直接聞けるわけ無いじゃない!!!わたしって馬鹿じゃないの?止めてくれて助かったわ・・・・
心の格闘の末わたしは胸を撫で下ろした。




