03 レアガチャ
「ほぇ?」
目の前の綺麗なお姉さんが変な声をあげる。
ここは、神殿の一室である。
俺たちは、朝、学園の園庭に集合し、その足で街の中央にある神殿へと向かった。
まずはみんなで参拝をして、そしてそれぞれ順番にいくつかある個室へと呼ばれていく。
現在は、俺の番であり、カウンターのパネルにタッチした俺に対して、神官のお姉さんは慌てたように、後ろに立っている男の神官の顔を見ている。
もしかして良いスキルが出たのだろうか?
俺は、初めての経験なのでお姉さんたちが何で慌てているのかわからない。
「…」
後ろに控える神官と何やら話し終えたお姉さんは、俺の方に微妙な表情を向けて座りなおした。
「まことに言いにくいんですが…エルク様は女神さまのレアガチャが与えられていないようです……」
「?」
俺は一瞬お姉さんが何を言っているのかわからず、彼女の瞳をじーっと見た。
「その………通常、女神さまは皆様にレアガチャを1回から3回お与えになります…それが、エルク様は0回になっておりまして…」
「…?」
「その…でも、通常のガチャは他の方と同じように10回あるようなので、気を落とさないでくださいね。通常のガチャでも、運が良ければAランクのスキルが出ますし…」
「…」
「ほら、では次はここの『10回連続でガチャをする』をタッチしてくださいね…」
お姉さんは、優しくそう言って、俺の手を握ってきた。
通常ならドキッとする展開だが…。
そして、お姉さんは動かないでいる俺の指をパネルの方に運んでいった。
俺の指がパネルに触れる。
その瞬間パネルが輝きスキルがパネルに浮かんだ。
弓C 料理C 探索C 水魔法C 異空間袋C 片手剣B 睡眠耐性C 短剣C 目利きC 交渉術C
そう浮かんでいる。
「あ!ほら、片手剣Bがでましたよ!」
お姉さんは嬉しそうに言う。
「そうしたら、この中から3つ。選んでくださいね」
「はぁ」
何がいけなかったのだろうか……やっぱ、昨日の『初心者の森』での出来事のせいだろうか……?いや、今まで俺は女神さまに対して信心深くしてきたはずである。寛大な女神さまはあれくらいのことでこんな仕打ちはしないはずである…。
「ふぅ…」
「あのー。次の方も待っていらっしゃいますので、一緒に隣の部屋に行きましょうねー」
お姉さんは、パネルを片手で持って、俺の横に来て再び俺の手を握った。
「立ってくださいねーこっちですよー」
俺は、彼女に導かれるまま隣の部屋へと移動した。きっと、ドッキリに違いない。もしくは夢である…。
「時々、いるんですよー。なかなかスキルが決められない方。この部屋は、そう言った人のための部屋ですから、ゆっくり選んでくださいね…あと私は相談員の資格も持っていますのでこのままお付き合いさせていただきますね」
お姉さんは、まるでかわいい弟にでも言い聞かせるように優しくそう言ってくれる…。
「まず、お勧めはBランクの片手剣スキルですね」
そう言って、再び俺の手を誘導してパネルを操作させる。
「あへぇ?」
再びお姉さんが変な声を上げる。
見ていると、Bランクの片手剣スキルを『取得する3つのスキル』という枠の中に持っていこうとすると、はじかれた様に元の位置に戻ってしまっているようである。
お姉さんは、何度か俺の指を使ってパネルを操作したが、片手剣のスキルは枠の中に入ることはなかった。
次にお姉さんは汗を流しながら実験とばかりにCランクの弓スキルを『取得する3つのスキル』枠の中に運んだ。今度は、弓のスキルが枠の中に入る。俺の手を握るお姉さんの手は汗で湿りはじめていた。
「なんか片手剣スキルは取れないみたいですね……」
そう言ってお姉さんは微妙な笑顔を向けてきた…。
結局、30分くらいであろうか…色々、俺の指を使って試して、片手剣Bと短剣Cが取得できないという事が分かった。
俺は、お姉さんと手をつなぎすぎて、こんな時だというのに変な感情が湧いてきてしまった…。
「うーん…それででですね。お勧めは、料理と目利きと異空間袋ですよ!そうすれば料理人としてやっていけます!」
なんかスキルなんてどうでもよくなってきた俺に、熱心になりすぎて顔を真っ赤にしてお姉さんは言った。
勝手に今後の進路まで決められてしまったが、それもいいかなと俺は少し思い始める…いや、俺には約束があったのだ。
危うくお姉さんに流されそうになったが、なんとか気持ちを持ち直す。
「そ、そうですよね。もう少し戦闘向きの方が良いですよねー。せっかくすごい能力値なんだし………それでも、異空間袋は必須ですね………こうやってやると荷物を異空間に出し入れできるんですよ」
お姉さんはそう言って、右手で円を描くように動かす。そうやって出来た穴から、大きなトンカチを出してみせる。
「このスキルがでた人には私は必ずお勧めしています!下手なA、Bランクスキルなんかより絶対に役に立ちますよ!」
お姉さんは、そう言いながら、トンカチを異空間の穴に押し込む。
確かに便利そうである。
「あとは…弓と探索ですかね…そうすれば、なんていうか荷物持ち兼斥候みたいな立ち回りは出来るんじゃないでしょうか!………いや。もうこれしかないですよ」
お姉さんは、今度はガシっと俺の手を両手で掴んで、涙目で訴える。熱心になりすぎてか、その顔には、結構疲れが浮かんでいた。
確かに、今、出ているスキルを見渡してみると、それが良さそうである。
だが…俺は、お姉さんの手を振りほどき、自分の指でパネルを操作してみる…片手剣Bのスキルをスライドさせて『取得する3つのスキル』の枠に持っていく、やはり指を放すと元の位置に戻ってしまった。本当に、片手剣は取得できないようである。
うちのパーティーでは、デビッドの役回りと被るが、彼が何のスキルを得たのかもわからないし、そもそも、高等部もパーティーを組むかわからない…。
普通に考えれば、Cランクスキルしか無い人とは、できる事なら組みたくないだろう…。
それを考えると、他の人のスキルを確認して、他人と被らないスキルを取った方が、いいような気がする。
「一日、考えたらダメですか…?」
俺は、ダメもとでお姉さんに聞いてみた。
「!。この部屋まで結界が張ってありまして、この部屋を出るか、ガチャをして3時間たつとランダムでスキルが確定してしまう仕様になっております…」
俺に、質問されお姉さんは驚いた様なそれでいて嬉しそうな顔をした。
そう言えば、この部屋に入って俺が話をしたのは初めてだったかもしれない。
「あと…誠に言いにくいんですが、あと10分ほどで3時間になりますので急いだほうが良いかと思います…」
「!」
なんと、まだ1時間くらいしかたっていないと思っていたが、3時間近くたっていたようである。
朝から、参拝やら学園長の話を聞いたりして、結局、ガチャ?をしたのが2時くらいだったから、既に夕方近くという事である。
というか、考えている余裕など無いか。
「…じゃあ。弓と探索と異空間袋で行きます…」
俺は、諦めてその3つを『取得する3つのスキル』の枠に持っていった。
すると、お姉さんの顔がぱーっと明るくなった気がした。
「そ、それではそこの『確定』というところをタッチしてください」
俺は、『確定』のパネルをタッチする。
すると、『本当によろしいですか?』とパネルに表示される。
そう聞かれると、もう少し考えたくなる…。
「あとは、今出た『はい』ってところをタッチすれば完了です」
お姉さんは、そう促す。再び迷う前に押させる作戦であろうか…。まあ、時間も無いし、他に良い選択肢もあまり無い。俺は、『はい』のパネルをタッチする。
「ふー」
お姉さんは、ほっとっしたような顔で大きく息を吐いた。
しかし直ぐにハッとしたように姿勢ただす。
「おめでとうございます。エルク様。女神さまの加護を得たエルク様の今後の活躍を期待しております」
ニコリと笑い、お姉さんは定型的なスキル取得の祝いの言葉を言うのであった。
女神さまの加護があったのかは微妙なところであったが…。
みんなにどう説明すればいいのか考えると、気が重い…。




