02 小さな社
俺が、初めて『初心者の森』に入ったのは10歳の時であった。
それから5年間『初心者の森』に通い、結構あっちこっち彷徨ってきたと思っていたが、こんな所に穴があることは今までは気づかなかった。
もっとも『初心者の森』は広く入り組んでいるため知らない場所があってもおかしく無い。
(少し入ってみるか)
場合によっては、少し強めの敵が中にいて、今日中にレベルを上げられるかもしれない。
俺はそう思い、下に下ろしていたバックパックをもう一度背負いなおした。
この『初心者の森』では、『帰還の水晶』というアイテムを使えば一瞬で学園の庭に戻れるので、15分くらい探索してから帰っても年越しには間に合うはずである。
(行け)
俺は、心の中で命令して、光球を一個先行させる。
まだ、俺の周りには、ライトの魔法で作った球体が五個浮いている。
穴の、入り口は狭かったが奥の方は広くなっている様だ。光を飛ばしたが敵や動物が反応して動く気配は今のところない。
先行させたライトは10メートルぐらい先で、浮いたままとまった。
目を凝らすと、奥に続く穴も見え、もう少し奥まで続いていそうである。
俺は、ゆっくりと穴の中へと足を進めた。
5分ぐらい歩いただろうか、洞窟は、100メートルくらいゆっくりと蛇行しながら下へと下って行った。
俺は、絶えず1個の光球を先行させ、20メートルくらい毎に光球を置いていく。
6個あった光球も、先行させている1個と手もとにある1個になってしまっている。
これ以上、深く潜ると危険そうである。
そう思った矢先、光球の明かりが広がり、広い空間に出た。
そして、その空間の奥には、小さな木造の建造物が見えた。
何というか、ぼろい小さな神社の様な建造物である。
『ぼろい』と言うと祟りがあるかもしれないので、趣のある神社と言った方が良いかもしれない。
現在の様な石造りのものではなく、昔ながらの木造のものである。
木造の社に鈴紐がぶら下がっており、賽銭箱も置いてある。
女神マニアの幼馴染に聞いた事がある昔の神社そのものだった。
これは、きっと女神さまが、明日の為に祈っておけ。と、言っているのに違いない。
そう思い、俺は、小さな社に慎重に近づく。
近づいてみてわかったが、古いがしっかりした木材で組まれた社であった。
ダンジョンの中には、元々ある森林などに後から結界を張って作られたものがある。
この『初心者の森』はそうやって作られたダンジョンであり、そこにあった構造物がそのまま残っているにかもしれない。
「あ!」
社に近づいた時、足元の板が壊れバランスを崩しそうになる。俺はあわてて目の前にあった紐を掴んだ。
ガランガラン!
その瞬間、鈴紐が鈴とともに柱から外れ勢いよく落下し地面へと落ちたのであった。
(………やばい………呪われる………このままではスキルが………)
俺は、勢いよく転がる鈴を慌てて追いかけ拾いあげる。
鈴は落下しただけで目立った破損はないようである。
柱と結び付けてあった紐が劣化して切れてしまった様である。
何とか紐で結べば元通りに戻せそうだった。
俺は、仕方なくリュックを綴じている革紐を外す。
他に結べそうな紐がなかったからだ。
このまま放置して、明日のスキルが悪くなってはたまったものじゃない。
俺は、鈴を紐で柱に結びなおした。
後は、一応、汗拭きタオルで柱や床を拭いて多少でも初めに来た時よりきれいにしようと心がける。踏み抜いた床板はどうにもならないが…
まあこれだけやれば、女神さまに感謝されることはあっても恨まれることはないはずである・・・たぶん。
そして、最後に、昔、幼馴染に教わったお参りの仕方を思い出しながら、もう一度はじめから、慎重に鈴紐を掴んで鈴を鳴らしてみた。
鈴の音はしっかりなったし、壊れていないようである。
今度はちゃんと銅貨をお賽銭として箱に投げ入れたし、ある程度完璧にできたはずであった。
もちろん願い事は、「良いスキルがもらえますように」である。
さて、少しイレギュラーなことがあったけど、俺は『帰還の水晶』を取り出し魔力をこめた。
すると水晶が光りはじめる。魔力をこめるのは最初だけで良いが。起動するのに約1分程かかるのが難点である。
しばらくたつと温かい光に包まれて、体が軽くなる。
次の瞬間、目の前には学園の広場が広がっていた。
「エルク!どこに行ってたの?」
学園の庭に戻った俺に、女の子が近づいてくる。
同じパーティーのモモカである。制服姿の彼女はダークブロンドのボブヘアを抑えながら、近づいてくる。
夜中だというのに庭にはまだ多くの人がいた。新年を迎えるので、お祭り感覚でみんな集まっているのである。
「一緒に年を越すって言って…」
と、モモカは可愛く頬を膨らます。
「いや、ちょっとレベル上げをしていたら、いつの間にか時間がたっててな…」
校庭の時計を見たら既に12時10分をさしていた。気付かないうちに新年を迎えてしまっていたようである。
「まったく………まあ、あけましておめでと」
モモカは呆れたような顔をしていたが、あらためて笑顔でそう言った。
彼女はクラスで1、2位を争う人気者である。顔も良く、胸も15歳にしては結構大きくCかDかといったところだろう。
そんな彼女に笑顔でそう言われ、俺は顔が熱くなる。
「ああ……おめでとう。本年もよろしく」
「こちらこそよろしくお願いします」
顔が熱くなっているのを気づかれないように、そっけなく言った俺に、彼女はそう頭を下げた。
そうこう挨拶しているうちに、うちのパーティーメンバーが集まってくる。
みんな夜中なのに元気すぎる。
「エルク。あけおめ!」
そう言ってきたのは、デビッドである。彼は、俺より少し背が低いが細身であり、すらっとした感じの男である。ステータスで言うと速さがSであり、その身軽さを活かした攻撃を得意としている。
他にも、少しぽっちゃりだが力自慢のベルト、ツインテールでいたずらっぽい笑顔を向けているミーナ、ポニーテールで一番後ろに控えているルミナスは夜遅くて眠そうな顔をしている。この5人が中学で最後のパーティーである。
俺は、あらためて校庭をぐるりと見渡す。他のパーティーや他のクラスの人等も何人かいる。
そろそろ解散して部屋に帰ろうという雰囲気である。
俺は戻ってきたばかりだが、さすがに時間が時間である。
自然とメンバーは、雑談をしながら明日に備えて宿舎の方に向かっていった。
明日、いや今日のスキル取得に備えてそれぞれ高まる気持ちを抑えようとしている様である………。




