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はじめまして、聖女に振られた旦那様  作者: 一分咲


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2/11

2.五年後、公爵家で楽しく過ごしています

 あれから五年の月日が過ぎ、私は21歳になりました!


 あの日は大変だった。嘲笑してくる招待客をやり過ごし、ただの食事会と化した宴の真ん中に一人で座った私は、一生分の作り笑いを使い果たした気がする。


 結婚式をすっぽかした旦那様は、食事会も何もかも中止にしろと仰せのようだったけれど、私はそれを是としなかった。


 だってそうでしょう。結婚式をすっぽかされ、宴までキャンセルしたら、とことん負けみたいで悔しい。だから私は一人で渦中に身を置き、隣国から嫁いだ末席王女としての使命を全うした。


 結果、怪我の功名、外聞の悪さに死にそうになっていた公爵家の方々から信頼を得ることができたのだった。


 こうして嫁いだ私は、結婚の中止を宣告されたにも関わらず、なんといまだに公爵家に居座っており、しかも意外なほど上手くやっています。


「リスティア姉様。姉様がこの家に嫁いでもうすぐ五年になります。それなのに、ヴィクトル兄様は姉様に一度も会おうとしていません。そろそろ兄様を殺してもいいのではないでしょうか」


 天使のようにかわいらしい外見をした、十歳になったばかりの義理の弟からの物騒すぎる提案に、私は膝をつき微笑んでみせる。


「大丈夫です、ルキウス。私はそんなこと全く気にしていませんし、何より結婚を断られたのにここへ居座っているのは私の方なのですから」


「姉様、少しはお気になさってください⁉︎ それに、姉様と兄様の結婚は政略です。兄様の一存では拒否できないものだし、それにグランティス公爵家の人間である僕が言うのもおかしなことですが、五年間もこんな扱いを受けて怒らない方が変ですよ⁉︎」


「うーん、そうですね……」


 結婚式の日はもちろん、彼は五年間一度も家に帰っていない。ずっと神殿で聖女様の護衛として尽くしているという話だ。そして、その任務に関わってはこんな噂が囁かれているのだ。


 ――帝国の英雄、ヴィクトル・グランティスは帝国の『聖女』と恋人関係にある、と。


 だから、私は同情の目で見られることが多い。一般的に見れば、確かにそうなのかもしれない。けれど。私は隣国ブリュンティアの末席王女だ。


 説明が面倒でそれっぽく言っているけれど、平たくいうと、年老いた国王が王子王女がすでにたくさんいるにもかかわらず、若くてかわいい妾に産ませた子だ。


 当然、王族の中での立ち位置はすこぶる悪い。王女というのが申し訳ないぐらいに。だから、ヴィクトル様にこの結婚を拒否する権利はないというのは前提として、結婚を断られたにもかかわらず私は国へ帰らなかった。


 だってここにいた方が楽しいし自由だし。正直、結婚式後の宴をキャンセルしなかったのは、帰る場所がなかったのとおいしいご飯を食べたかったのが8割ぐらいあるし。個人的すぎる事情を呑み込んで、私は義理の弟に微笑みかける。


「ルキウス、そんな小さなことは気にしないのよ? ヴィクトル様がお戻りにならなければ、あなたがこの家の当主です。そんなことを考えていないでしっかり学ばなければ」

「はい、姉さま。姉様が教えてくださることは全て興味深いです」

「そうね。王族としての教育は一通り受けたし、ついでに聖女候補だったこともあるもの。私にわかることはなんでも教えてあげます」


 国での私はカスみたいな扱いだったけれど、政略結婚の道具としてきちんと教育は受けられた。一時は、高貴な血を引いているということで、聖女候補だったこともある。結局、聖女に選ばれることはなく嫁いできたけれどね。


「聖女候補? すごいですね、姉様」

「どの国にも召喚されなかったから、候補のままで終わったけれどね」


 そんな話をしていると、扉が開いて次々に使用人が入ってくる。


「奥様! 明日、コルネリア卿が面会を申し入れてきていますが」

「会うわ。別棟に準備をお願い」

「奥様、新しい事業計画書と予算案をお持ちしました。それと今月の収支報告書と商工会からの契約書も届いています。」

「ありがとう。今日中に目を通しておくわ」

「奥様、マルコリーニ伯爵夫人から贈り物が届いています。お茶会の招待状も」

「まあうれしい。すぐに返事を書くわね!」


 こんな感じでひっぱりだこの私を見ながら、ルキウスは家庭教師の先生に出された課題の本を読んでいる。引退済みの両親が遠く離れた別邸で暮らしていることもあり、私は彼の親代わりのようなものなのだ。


 使用人たちへの応対を終えた私は、ルキウスの形の良い頭をそっと撫でた。


「ヴィクトル様には一生会うことがなくても、私は毎日あなたとこうしているだけで楽しいわ」

「姉様」


 将来はヴィクトル様も真っ青なイケメン(本人のお顔を見たこともないけれど)に育ちそうなルキウスと微笑み合い、幸せを実感していたところで、部屋の扉が勢いよく開く。


「リスティア様、失礼いたします!」


 顔を出したのは、顔をこわばらせた家令だった。


「どうなさったのです?」


 彼がこんなに慌てているのは、あの結婚式以来かもしれない。そんなことを思いながら問いを返せば、彼は真っ青な顔であわあわと続けるのだった。


「だ、旦那様……ヴィクトル様が五年ぶりに屋敷に戻られました!!!」

「……え?」


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