1.旦那様不在の結婚式
ブリュンティア王国の末席王女、リスティア、16歳。
私のメンタルはわりと強い方だと思う。多少不利な状況でもあまり悲観することはないし、都合が悪いことは全部聞かなかったことにできるぐらいの図太さは持ち合わせている。
けれど。そんな私でも、いま、少しだけ気持ちが折れそうになっている。
「えーと。さて、花婿はどこだろうね……」
花婿不在の結婚式、気まずそうな神父様の前。純白のウエディングドレスを身につけた私は、神父様と同じように気まずそうな顔をして、肩をすくめてみた。
「さて、どこでしょうか……?」
ここは帝国の由緒正しき歴史ある聖堂。今日は隣国から嫁いで来た末席の王女な私と帝国の聖騎士グランティス公爵様の結婚式。美しい天井画に見下ろされてバージンロードを歩き始めた時から、何か様子がおかしいなって思ってた。
祭壇の前に神父様しかいなくない? って。
本来なら夫となる人が待っているはずの場所には、あまりにも非情な事態が起きていることを把握して死にそうな顔をした神父様がひとり。結婚式をすっぽかされた張本人のはずの私だけれど、この場を取り仕切らなければいけない彼に思わず同情してしまった。生きて。
当然、招待客も同じ疑問を共有していたようで、聖堂の高い天井を彩るステンドグラスには、あまり聞いたことのない類のざわめきが響きはじめる。
「見ろ、花婿がいないじゃないか。いくら相手が隣国で名前も聞いたことのない末席の王女とはいえ、結婚式をすっぽかすなんて前代未聞だ」
「いや、でも正直あの花嫁は意外と悪くないんじゃないか……さっきそこを通ったとき、目の覚めるような美人だったような」
「女たらしの英雄ヴィクトル・グランティスの結婚相手はあれくらいじゃないとなあ」
「彼はこの国でも有数の遊び人だからな……眉目秀麗、頭脳明晰、それでいて大金持ち、加えてこの帝国でも数人しかいない聖騎士で敵なしだ。できることなら俺だって彼と遊んでみたいぜ」
誰も聞きたくなかった野太い声のうっかりした本音が耳に入ってしまったところで。聖堂の入り口が開き、真っ青な顔をしたグランティス公爵家の家令が駆け込んできた。
「も、申し訳ございません! 今日の結婚式は中止とさせていただきたく……!」
「どうしてでしょうか?」
思わず口からこぼれ出た私の純粋な問いに、彼も取り繕うのを忘れてしまったのだろう。あまりにも無慈悲な事実が聖堂に響くのだった。
「聖騎士ヴィクトル様は、聖女様に親愛と忠誠を誓うことになり――その、リスティア様と結婚式は挙げられないと仰っています! つまりその……こっ、この結婚はなかったことに!」
そんなことある?
家令の震える声での絶叫に近い報告は、すぐに大きなどよめきに変わったのだった。
今日中に完結します!一気に読んでくださいませ!





