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旧車物語  作者: 3気筒
51/71

第51章 海底トンネルを抜けたら中間地点!!

 夏休みも8月に入った。

 旧車物語の夏休み特別ツーリングを翌日に控えた夜。三笠由美は1人自室にて明日の身支度を終えて、その最終チェックを行っていた。

「三泊四日の長旅だけど・・・ゼファーちゃんだと多くは運べないものねぇ・・・」

 洋介から借りたサイドに装着するパニアケースに入れる荷物と、リュックサックに入れる荷物を確認しながらつぶやく。由美だけでなく圭太や翔子にも言える事なのだが、今回は未だに慣れない高速道路で普段と違い積載するものが多い。しかしバイクなので最低限のものしか持ってゆけず、いざとなると現地調達になる。

「洗濯機があるから着替えは二着分と寝間着だけ・・・ビーチボールは畳んでリュックに・・・歯ブラシは・・・現地で使い捨て・・・日焼け止め、ゴーグル、水着よし・・・問題ないわ」

 全てがきちんと揃っていることを確認して、由美はそれらをまたリュックとパニアに詰め込んだ。そして時計を見ると、時刻は夜10時半過ぎ。普段ならまだまだ起きているが、連日のバイトで今日まで連勤。明日の朝に備えて今日は早く寝ることに。

「さて・・・電気を消して、っと・・・」

 豆球だけの灯りに切り替えると、由美はベッドに潜り込んだ。

「おやすみ〜・・・」

 1人しかいないのにそんなことを言って数分後・・・早速いい感じに寝息を立てて眠りに落ちた。









 翌朝

 場所は変わって圭太の自室。早朝5時にセットしていた目覚まし時計が鳴り響く。薄い掛け布団から這い出ると腕を伸ばしてカチリと目覚ましを止める。

「ん〜・・・」

 まだなんとなく意識がはっきりしない中、無意識に普段と変わりなく圭太は自室を出ると、階段を下って洗面所に向かった。

 顔を洗い歯を磨き、寝癖を整えてから、汗をかいたTシャツを着替えてようやく頭が冴えてきた。

「今日は・・・いよいよかぁ」

 階段を上り自室に戻る途中、何かの異臭を感じとって臭う方向を見ると、姉の茶子の部屋の扉が開いているのに気付いた。

「・・・」

 なんとなく、興味本位で茶子の部屋に歩いていく。勝手に部屋をのぞき見するのは少し悩んだが、普段はいつも勝手に部屋に入ってきてマンガや雑誌を持っていくので、仕返しに侵入を試みた。

 そしてそーっと部屋の中をのぞき・・・速攻で扉を閉めた。

「なにやってんだろうこの人・・・」

 部屋が汚かったのは想像とおりだが、なんか次元が違った。異臭のおかげでいやというほど目が覚めたので臭いものに蓋をすると、圭太は身支度を始めだした。

 Tシャツを着て細身のジーパンを履き、上から旭に貰った黒のスイングトップを羽織った。

 そして背中にリュックを背負い、ケータイや財布、そしてFXのキーを掴むと部屋を出た。

 家を出て時計を確認すると、時刻は5時40分を回った頃だ。あと5分で由美との集合時間である。

 車庫からFXを引っ張り出す。今回の旅行用に買ったサイドバッグの中の荷物を確認して、忘れ物が無いか確認する。しっかり荷造り出来ていることを確認して、圭太は向かいの家の玄関前で待っていると、45分丁度に由美が家から出てきた。

「おはよう由美」

「おはよう!あーもう今から楽しみすぎてドキドキするわね!」

 手に持ったパニアケース2つを、リアサイドにカチリと固定しながら笑顔で言う。

「楽しみなのは同じだけど、安全第一でね」

 念のために圭太が釘を刺すと、ケースを付け終えてゼファーを引っ張り出しながら由美が言った。

「わかってるわよ。今日はさすがに真子さんも飛ばせないだろうし、大丈夫よ」

 そうして路上に2台のカワサキが並んだ。2人は一緒にエンジンを掛ける。




 クォカァっ・・・!!ボアアアアアア・・・!!!



 キョカカカカカッ・・・ファァアアアアアア・・・!



「さて、まずは国道に出てみんなと待ち合わせ。圭太、先頭ヨロシクね」

「わかった、よろしく。じゃあ出よう」

 クラッチを切ってギヤをローに蹴り込むと、2人はゆっくりと走りだした。


 今回はまず国道を上り、高速道路の入り口付近にある大きなスタンドでみんなと集合する手筈だ。そのまま首都高に乗ってアクアラインを抜け、海ほたるPAで休憩を取ってから千葉に向かう手筈である。

 これまで国道の道は何度も走って来たので、早朝というこもあり、一般車の通行が少なくスムーズに目的地に近づいてゆく。途中、順番を入れ替えたりしながら楽しく走っていると、予定より少しだけ早く、とうとう目印のスタンドの看板がみえてきた。

 先頭の圭太がウィンカーを左に出して後続の由美と一般車に合図を出して、後方を確認しながらスタンドに入ると、スタンドの端のスペースに見慣れたバイクが3台、すでに先に到着していた。

「おはようございます」

「やぁ圭太君、待っていたわ」

「ちょっと真子さん、私のことは待って無かったのかしら?」

 先に居たのはやはり赤城家三姉妹であった。圭太と真子が挨拶をすると、やはり由美が絡む。そんな3人を見て、凛と紗耶香も声を掛けた。

「ったく朝からうるせーなぁ・・・おっす2人とも」

「おはようございます圭太さん、由美さん」

「おはよう凛、紗耶香ちゃん」

 由美が2人に笑顔で言うと、真子も少し緩んだ顔を元の真面目でクールな表情に直して話を始めた。

「今日はアクアラインを通っていくんだけど、2人ともアクアラインはまだ未経験?」

「はい、僕は見たことも無いです」

「同じく私も」

 真子の質問に2人が答えると、真子は少し難しい顔で2人に言った。

「アクアラインは海底トンネル。かなり長い直線が続いて、バイク乗りとしては楽しいのだけれど・・・」「けれどなによ?今日は安全運転なんだから飛ばさないわよ?」

 そこで区切る真子に由美が言うと、真子は続けた。

「えぇ、恐らく私1人で走っていてもあの道は飛ばせないわね」

「へ?」

 真子の表情を見て由美がマヌケた顔でマヌケた声を上げた。

「入り口はまだ大丈夫。トンネル内も雨の日でなければ問題無いのだけど・・・トンネルを抜けると、周りは海に囲まれてて、海風が強烈なの」

「海風?」

 おうむ返しに圭太が問うと、横から凛が口を挟んだ。

「そうそう・・・あの海風ってのがスゲー厄介なんだぜ?」

「無風で暗いトンネルから一気に明るい海上に出るといきなり風が真横から吹き込んできて、クルマならともかくバイクは風に流されやすいのよ・・・あの道はしばらく海風との戦いよ?」

 凛の説明のあとに真子が大真面目に言った。それを聞いていた圭太はなるほどと納得していたが、由美はどこか想像がつかず、首を横に傾げていた。

「今の所大丈夫みたいだけど、風が強すぎるとしばらく通行止めになるくらいだから、今日は気を付けて行きましょう」

 それを聞いて、由美はようやく本当に凄い風が吹くのだなぁ、と思った。そしてなにより、あの飛ばし屋の真子が安全運転をかかげるというのも、納得材料になった。

「キモに命じとくわ・・・今日はゆっくり、安全運転ね」

 すると横から、固くなった空気を解そうと今度は紗耶香が声を掛けた。

「確かに風が強いと厄介なんですけど、風がいつも強いわけでは無いですし・・・穏やかな日は海の上を走っているみたいで凄い気持ちいいんですよ?」

「風が穏やかなのを祈るしかないね・・・」

 圭太が本当に祈るように言った。

 それから少し雑談していると、ふと圭太は何かに気付いた。

「そういえば・・・美春さんのサンパチ・・・治ったんですかね?」

「そういえば・・・」

 真子や由美達もはっとなった。あの事件以来、しばらく時間が経つがあの大破したGT380が修理出来たのか、かなり気になるところだ。

「多分無理じゃねーか?画像見たらくしゃくしゃだったじゃん。多分旭のケツに乗ってくんじゃね?」

 凛が言うと、皆もそれを想像して納得した。千尋は洋介の後ろに乗せてもらえていれば大丈夫なのだ。

 そんなことを話していると、噂をすればなんとやら・・・。バリバリと甲高い2ストサウンドと、4ストマルチの爆音が響いてきたと思って振り返って見ると、スタンドに旭と洋介が入ってきた。

 しかし旭のサンパチにはアーミーバッグとコロナのタンクバッグのみで洋介のヨンフォアに至っては大きなバッグがリアシートに括り付けられているだけであった。

 想像と違ったことと、美春と千尋がいないことに皆が驚いていると、今度は聞きなれない音が聞こえてきた。

 圭太達が注目していると、見慣れぬ赤いバイクが1台、2人乗りでスタンドに入ってきた。


「カァァァァアン!!カァァンカァァン!!」



 そして当たり前のように旭や洋介達の隣にバイクを停めると、1人がヘルメットを脱いだ。

「やっほー!みんな久しぶりぃ!!」

「千尋ちゃん!?じゃあそっちは・・・」

 圭太が言うまでも無く、運転していたライダーがヘルメットを脱ぐ。

「じゃんじゃじゃ〜ん♪みんなの優しき心のオアシス♪美春おねぇさんでしたぁ♪」

「自分で優しいとか・・・恥ずかしいから止めろよなぁ」

 やっぱり美春であった。横でさりげなく旭が呆れていた。

 しかし皆の感心はそこでは無く、美春の跨がるバイクにあった。

「美春ちゃん!そのバイクどうしたのよ!?」

 由美がたずねると、何故か千尋が誇らしげに胸を張った。

「えっへん!私のRGだよ!」

「え!?あの前に壊れた!?」

 由美が聞き返すと、旭が千尋をこづいた。

「たっ!」

「治したの誰だと思ってやがる全く・・・」

「だってぇ・・・」

「まぁまぁ旭よ、いいじゃねーのたまにはさぁ」

 今まで黙って見ていた洋介が助太刀する。

「前は黄色かったですよね?塗り直したんですね」

 初めて見た時の、カナリヤイエローにロケットカウルがど派手だった頃しか知らない圭太が細部を見ながらつぶやいた。

 カラーはキャンディレッド風で、ハンドルはノーマルが無かったので他車種用を流用。ロケットカウルはもちろん取り外されており、RG250Eの直線的なラインを余すことなく表現している。

「おぉよ、美春のサンパチは間に合んねーかんな。エンジンはそこの姉妹から貰ったのを載っけて、外装は新しく塗ったんだよ」

 真子達の方を見ながら旭が言うと、ヘルメットを脱ぐ。すると・・・

「あ!」

 圭太と由美、そして赤城3姉妹が声を上げた。旭の象徴とも言えるあのリーゼントのパーマが取れていて、普通のリーゼントになっていた。

「旭さんどうしたんですか!?」

 由美が言うと、旭は「イメチェンって奴だ」と笑った。

「髪の毛下ろすと高校生みたいなんだよねぇ♪かぁいいんだなぁこれがぁ♪」

「ちょっと見てみたいかも・・・」

「うんうん・・・」

 美春が旭にくっつきながらニコニコすると、由美と凛がうなずいた。それを聞いて、少しイラっときたのか旭がポツリ。

「もうサンパチ治してやんねー」

「・・・・・・」

 固まる美春であった。一方。

「真子さん、凛ちゃんに紗耶香ちゃん!RGのエンジン、本当にありがとうございました!」

「お役に立てたのならよかったわ・・・大切にしてあげてね?」

「うん!」

 千尋がRGのエンジンの件で頭を下げると真子がほほ笑みながら言った。千尋はえへへ、と笑いながら終始RGを見つめていた。そんな中、凛がポツリと。

「てことは・・・サンパチはまだぐしゃぐしゃ・・・?」

 その一言がトドメになり・・・

「あぁ・・・サンパチちゃん・・・・・・私のかわいいサンパチちゃんががががが・・・・・・」

 美春は隅の方でいじけてはじめた。

「このバカ凛っ!」

「いってぇ・・・」

 由美が凛の頭にげんこつを落とす。

「まぁまぁ美春ちゃん・・・所で翔子ちゃんはよ?」

 美春を適当に慰めつつ洋介がたずねると、またもやジャストタイミングで入り口から聞き覚えのあるエンジン音が聞こえてきた。

「おはようございまーす!!」

 元気の良い挨拶をしてそのまま皆のバイクの列に並ぶのは、もちろんCB350Fourと、それを操る衣笠翔子である。

「元気だねぇ翔子ちゃん!」

「洋介さんおはようございます!あ!旭さん髪型変わりましたね!!・・・あ!!そのバイク!」

 洋介や旭達に挨拶をしたあとに、翔子は千尋のRGを見つけた。

「よかったですね千尋さん!RG治ったんですね!」

「うん!」

 満面の笑みで千尋がうなずくと、翔子もうれしそうに笑った。

「なんかいつもと違うじゃねーか?」

「うん。なんか翔子さん元気だね」

 どこかいつも以上にハイな翔子を見ていて、なんとなく疑問に思った凛と紗耶香が本人にたずねると、翔子は「えへへ」と笑った。

「今まではずっと、必要以上に気を使っていたというかなんというか・・・上手く輪に入れていなかったんですけど、これからは明るい私に生まれ変わったのです!」

 自信満々で言い張る翔子。その笑みは確かに今までより当社比60パーセント増し増しである。

「よかったわ翔子ちゃん!なんか私も嬉しくなっちゃうわね!」

 由美もニコニコしながら翔子を抱き締めて頭をぐりぐりすると、翔子がくすぐったそうに笑う。

 そんな楽しそうな雰囲気の中、隅の方からなにか嫌な声が・・・

「しくしく4×9さんじゅうろく+2は・・・サンパチちゃん・・・」

「あ・・・」

「美春ちゃん・・・」

 由美達の視線の先にはなにかふざけたことを大真面目につぶやきながら本気で落ち込む美春の姿が・・・そして不幸は伝染するらしく、翔子の表情もだんだんと落ち込んでいき・・・

「私のせいで・・・私のせいで美春さんのサンパチが・・・」

 美春の隣で一緒に落ち込みはじめた。

「うわ・・・感染した」

「あーあ」

 旭と洋介が心底面倒くさそうにつぶやいた。

「あ、あの・・・!別に美春おねーちゃんのサンパチが壊れちゃったのは翔子ちゃんのせいじゃないよぅ・・・!?」

「それに、美春さんのサンパチだってすぐに治りますって・・・!」

 なんとか元気つけようと千尋と紗耶香が声を掛けると、しばらくして2人はようやくいつもの調子に戻った。



 それから給油したりしてから、ようやく出発の運びとなった。真子が皆の前でルートや注意事項などを説明。さらに会計係の圭太が全員分の高速料金を集めたりして、ようやく皆で一斉にエンジンを掛けた。

「うわっ・・・すごい音だなぁ・・・」

 様々な形式のエンジン・・・その数9台に火が入ると、相当な音圧になる。自分もその中の1台なのだが圭太は圧倒された。

「それじゃあ高速入り口までは僕が先頭で・・・今日はよろしくお願いします!」

 圭太が声を掛けると、皆返事代わりにアクセルを煽る。圭太はジェッペルを被りバイザーを下げると、ウィンカーを出して左折。皆も続き様にあとをついて行く。



 旧車物語初の長距離ツーリングの始まりである。



 高速道路入り口の料金所で全員分の料金を圭太が渡し、いよいよここから高速クルージングが始まった。

 普段はなかなか出せない領域まで回転を上げてゆき、法定速度まで達すると、FXはギヤを上げて回転数の上昇を押さえる。吹き付ける走行風がヘルメットを叩きつけているかのような爆音と、足元のエンジン音だけが鼓膜を支配する。

 圭太はちらりとミラーで背後を見ると、真後ろに白いカフェヘルをかぶったライダーが確認出来たと思った瞬間、横からブチ抜かれた。前に躍り出た瞬間に後ろに流れる白煙は旭のGT380だ。

 鬼ハンというかなり乗りにくいハンドルながら、まるで手足のようにサンパチを操る。

 さらにその旭を追うように洋介のCB400Fourが追撃を始めた。排気量が上がったために余裕が出来たようで、以前より直線の伸びが段違いに変わった。

 そしてさらにその後を、まるでロケットみたいな加速でぶっ飛んでいく白い影。抜きざまにまるでF1みたいな爆音を残して圭太を抜き去っていったのは真子の400SSマッハⅡである。ちなみに抜きざまに、圭太に向かって指だけピースしていた。

「さっき飛ばさないって言ってたのに・・・」

 などと呟きつつ圭太が呆れていると、横に由美の真っ赤なゼファーが並んだ。その表情をのぞいてみると、前3台の走りを見てウズウズしているらしい。見兼ねた圭太は由美と目が合った瞬間首を横に降った。こんな荷物を積載した状態で、高速道路をあの3台に付いていけるわけがないし、事故を起こされたらそれこそ最悪なのである。圭太の表情を見て、由美はしゅんとすると、そのままの状態を保った。利口である。

 道路は朝早くとは言え、夏休みシーズンなのでやはりだんだんと車が増えて行く。レインボーブリッジの手前に差し掛かると、合流してきた車や他のバイク達が徐々に増えはじめた。

「あー、面倒だぜ・・・」

 珍しく後方にいた凛が呟いた。先に行った姉の真子達と合流出来るのはどうやら海ホタルになりそうだ。

「前には鈍ちん圭太と由美とその他・・・大丈夫かなコイツら・・・」

 先行きが不安になってきた。紗耶香はともかく、圭太と由美と翔子は高速道路経験があまり無いし、美春は未知数だ。

 ちなみに凛がしんがりをつとめているのは、スタートから現地までの経験があるので誰かはぐれたりしないかとかを気にしたりするためである。普段豪快なくせに意外と面倒見がいいらしい。

 そんな凛の前を走るRG250Eのタンデムバーにしがみついている千尋は、今はまだ自分では乗れないバイクの高速クルーズに酔い痴れているようで、風の爆音に負けない大きな声で、美春の耳に向かって叫んだ。

「おねーちゃん!私のバイク走りやすいかな!?」

「うん♪なかなか楽しいよ!」

 美春も、振り向けないが笑顔で言った。型遅れもはなはだしい250ccの2ストでの高速クルーズ。ましてタンデムではエンジンは回らないし小さな車体に細いタイヤでは安定感に欠けるのは道理なのだが、美春には関係ないらしい。無理の無い回転数と適切なギヤを選択して、負担を掛けないように走る。これを意識せずに直感でやってのけるのだから恐ろしい。

 その斜め前を行く、同じ250ccのマッハⅠを操る紗耶香も、軽快な2スト音を発しながら進む。

 やがて集団は、レインボーブリッジに差し掛かった。朝陽に染まる内湾やコンテナ、工業地帯を見下ろしながら旭が柄にもなく感慨に耽っていると、真横から重たい4スト音がぶち抜いて行った。そしてその後を、白いレインボーラインのマッハⅡが追い掛ける。

「後ろに合流するか・・・」

 ミラーを見ると、後続のトラックの後ろにわずかに見える圭太や由美の姿に、旭はアクセルを緩めてスピードを落とした。

「なんでトラックの後ろで排ガスずっと浴びてんだ!?」

 横並びになって旭が叫ぶ。圭太は苦笑いしながら手をあげた。

 レインボーブリッジの景色を見ると、船や工場の景色、そして海の上を海鳥が飛んでいる。

「綺麗だなぁ」

 実際停まって見れば汚い海なのだが、景色だけは最高である。まだ三回しか通ったことの無いこの景色が、圭太は少し気に入っている。

 そんなこんなでレインボーブリッジを抜け、しばらく走ると分岐点が現れる。

 有明JCから羽田方面に進路を変えると、すぐさまトンネルに突入。慣れないオレンジ色の照明をくぐり抜け、しばらく走り続ける。この頃になると、先頭にいた真子と洋介の姿が遠くにだが、確認できた。

 そしてついに、アクアラインの三分の二を締める約10キロにも及ぶ海底トンネルがみえてきた。

「あれが海底トンネルか・・・」

 その外観はトンネルというかピラミッドを思わせるかのような段付きの構造で、海底の下をくぐるような下り坂では無く平行な道のりに見える。次々と中に消えていく前方を走る車に混じって、見覚えのある2台テールもトンネルに入って行く。洋介のヨンフォアと真子のマッハだ。

 そしていよいよ圭太達も海底トンネルに突入した。中に入ってから目がトンネル内の灯りに慣れるのにしばらく時間がかかった。

 音が反響して、エンジン音が響き渡る。そんな中、4ストマルチの爆音が後ろから近づいてきて、真横にやってきた。由美のゼファーだ。その後ろには翔子のCBも距離を置いて追随している。

 いよいよ半ばまできた頃、上の掲示板の海底57mのを表示を見て驚いた。気付かぬ間にそこまでに達していたのかと思うと感動に近いなにかが込み上げてくる。そこから、一般車に気を付けながら適度に離れぬように走り続け、ようやく海ほたるPAの看板が見えてきた。先頭を行く真子と洋介にあわせてウィンカーを出して車線を変更。そのまま進めば、もう海ほたるPAである。係員の誘導に従い2輪車用の駐車スペースに9台ものバイクが傾れ込む。圭太はFXを停めるとサイドスタンドを立ててゆっくりとFXを左に傾ける。コツリと音を立ててようやくエンジンを切った。

「ようやく中継地点ね」

 数台挟んだ所にいた真子がヘルメットを脱ぐと、一息ついた。

「しかしよぉ、この長いトンネルと橋を抜けるだけでこの通行料は痛いよなぁ」

 旭がミラーを覗き込み髪の毛をセットしながらぼやくと、由美も大きく頷いた。

「私もそう思ったわ。海底トンネルって言うくらいだから、所々ガラス張りだったりするのかと期待してたら、ただただ長いトンネルなんだもの」

「排ガスで空気とかヤバイしな」

 凛も同様に頷く。

「まぁまぁ、ここから先はちゃんと景色の見れる綺麗な橋が続くらしいし・・・」

「僕は海の中を走っているって考えたら感動すらしたんだけど・・・」

 3人を宥める洋介と、1人感想をつぶやく圭太。なかなかピュアなハートの持ち主である。

「ま、そんなことより休憩しようぜ?上に行くと飯屋とか展望台とかなんかいろいろあるらしいし」

「さんせー♪」

 旭の意見に美春がノリノリで同意すると、一同は観光のために上の階に上りはじめた。

 海ほたるPAは1〜3階は駐車場で4、5階が観光地になっている。有名な飲食店の出店、土産屋、ゲームセンターまで様々な出店がある。

 さらに展望台では都会のビル郡から田舎の山々、さらに富士山までが展望出来る最高のスポットである。

 圭太達一行は展望台で一同解散。一時間後にはまたこの場所で集合することにした。

「あっくんもちーちゃんも、早く早く♪」

「腕引っ張んないでよぉ〜おねぇちゃあん・・・!」

「落ち着けバカ」

 美春は千尋と旭を引っ張って建物内へと引きずり込まれていった。旭の終始面倒くさそうな表情がなんとも言えない。

「さって、旭は拉致られちまったし・・・どしよかな」

 そんな三人を見ていた洋介がポツリとつぶやいた。すると後ろから翔子がトテトテとやってきた。

「洋介さん、よかったら一緒に回りませんか?」

「マジ!?だ、大歓迎だよ!!」

 こうして弛んだ笑顔を見せる洋介と、カメラをもってウズウズしている翔子の2人組も、人混みの中に消えていった。残るは・・・

「さぁ圭太、私達も行きましょう?」

「圭太君、あっちに素晴らしい景色を眺められる展望台があるんだ」

「え・・・ええっと・・・」

 由美と真子が、ニッコリと微笑みながら圭太に手を差し伸べる。しかし、手に取れるのは1人だけというのは言うまでもない。圭太にもその程度のことはわかるようになったらしい。しかしなぜこうなってしまうのかは、未だにわからずじまいだが・・・

「真子さんなんかより私と回ったほうが断っっっっ然!楽しいわよ?」

「ふん、私と圭太君で回ったほうが絶っっっっ対!楽しいことはまず間違いない。由美ちゃんは役不足」

「なによ!?」

「なにさ!?」

 バチバチと火花を飛び散らかす由美と真子。そんな2人を見れば、どちらと一緒に回っても絶対に楽しいはずは無いことを圭太は理解した。というか2人の見えぬ気迫に圭太は正直ガクブルしていた。

「なんとか隙を見て・・・今のうちに・・・」

 睨み合う2人を横目にソロソロと後退りを開始。幸いにも2人は圭太の行動に気付いていない。しかし、植え込みの影に隠れた瞬間、、横からいきなり肘うちを軽く入れられた。

「ったくモテモテだなこの色男」

「り、凛・・・!?」

 いきなりのことに驚く圭太の前に、意地の悪そうな表情を浮かべる凛と、困ったような笑みを浮かべる紗耶香の2人がいた。

「姉貴から逃げ延びようとは罪な奴だよなぁ圭太?」

「逃げ延びるって・・・だって明らかに殺意を感じるし・・・一緒に行動出来るならしたいけど、あの2人を止める自信も無いし・・・なんで仲良く出来ないのかなぁ」

 圭太は深くため息を吐くと、逃げ出した圭太に未だに気付かない2人を遠くから覗き込んだ。

「ったく、原因のお前が理解ってないってのはつくづくアレだよな」

「真子姉さんも由美ちゃんも少し可哀想かなぁ」

「え・・・?僕が悪いのかな・・・?」

「「うん」」

 2人が息もぴったりに頷くと、圭太はこめかみを押さえた。どうにも鈍感すぎる。

「まぁアレだ・・・これからしばらくはあの2人の抜きつ抜かれつのバトルが繰り広げられるわけだ・・・」

「その前に圭太さんが1抜けしちゃったみたいだけど・・・」

「あ」

 頷いていた凛がふと顔を上げると、すでに圭太の姿は人込みの中へと消え去っていた。

「モテすぎるのも辛いことなんだなぁ、ウンウン。まぁあんな不気味なオーラを放っている姉貴と由美を見りゃあ、まぁ逃げ出すのも仕方ねー気もするよな。だいたいあの2人はアイツのことになると本当に頭悪くなるからな。あンの鈍感野郎のなにがそんなに良いんだか・・・」

「そ、そんなことより・・・り、凛お姉ちゃん・・・」

 やれやれと言った感じで凛がずらずらと述べていると、なにやらガクブルしながら後ろを指さしている紗耶香。その指のさす方に視線を向けると・・・

「へ・・・?」

 そこには2体の鬼・・・真子と由美が立っていた。

「誰が頭悪いって?凛、そんなに痛い目にあいたいのか・・・?」

「真子さん、ここって東京湾よね?沈めるには絶好のシチュエーションよ?」

 なにやら恐ろしいことを呟く2人から自分に向かって伸びてくる腕を見て、すでに助からないと悟った凛は、もはや笑うしかなかった・・・







「ん・・・なんだろう」

 同時刻、違うフロアにたどり着いてた圭太が元来た道を振り返る。

「なんか今・・・すっごく罪悪感を感じたような・・・」

「1人でどうしたの?」

「っ!?って・・・千尋ちゃんか・・・」

 一瞬由美か真子かと思って胸を撫で下ろす。

「まぁなにが起きたのかはなーんとなくわかるけどねぇ〜」

 千尋はため息をつきながら言った。

「また由美ちゃんと真子さをに追いかけられてたんでしょ?」

「そうなんだよ・・・はぁ、なんでいつもあの2人は仲が悪いのかな・・・」

 疑問を投げつつあたりをキョロキョロ見回して2人が追ってきていないかを確認していると、千尋がジト目でその疑問に対する答えをつぶやいた。

「あの2人は仲良しだよ?悪いのは圭太くんだよ?」

「・・・・・・え・・・?」

「由美ちゃんも真子さんもかわいそうだなぁ・・・まぁ・・・圭太くんは鈍感だしわからないかなぁ・・・?ま、いいや。この旅行の間には答えがわかるだろーしね♪」

 それだけ言うと、千尋は圭太の肩を少しだけ背伸びしてポンっと叩いてから「じゃあおにーちゃんとおねーちゃんの所に戻るから、逃避行頑張ってね♪」と言って人混みの中に消えていった。その背中を1人見ていた圭太の頭の中で、千尋の言葉が谺のように反響していた。

 


ほんとうに 申し訳ありません汗


さて、いよいよ季節と作品内の季節が重なりました!!

この夏のワクワク気分に身を任せて、どんどん書いていきたいと思っています!!

これからもこんな作品ですが、宜しくお願いします!!

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