第47章 一件落着・・・?真子VS玲花!?
おひさしぶりです汗
一夜明けた日曜日。圭太達は他の『旧車物語』の仲間に昨日の出来事と美春が入院していることを伝えると、美春のいる病院に集合した。
患者であるはずの美春であったが意外と元気で、病院食に文句をつけていた。その姿に安心して、赤城姉妹の長女と次女がその場にはいない翔子の義兄に対してここでは書けないような言葉で罵倒したり、千尋が泣きながら美春に抱きついていたり、翔子がそんな美春が許しているのに何度も頭を下げていたり・・・
そんな中、旭と洋介の2人は病院には行かずに、洋介の実家である『羽黒自動車』の片隅で頭を悩ませていた。
「・・・こりゃあ大惨事だなぁ旭よ・・・」
「・・・・・・」
目の前にあるのは、鉄クズ同然になった美春のGT380だった。
「・・・壊れた場所より無事な場所探す方が早ぇな・・・はぁ」
自慢のGT750フロントフォークを始めとするフロント足周りはほぼ全損。リア周りは無事だが、チャンバーが左側1本、明後日の方向に折れ曲がっている。ハンドルも左側だけ旭の鬼ハン以上に真上を向き、ヘッドライトやウィンカー全損。ステップも天を仰ぎ、極め付けはクランクケースのひび割れである。他にも数えきれないほど無数の傷やタンクのへこみ。重症である。
「転けてた場所にブロックあったよな。あれで腰下ひっ叩いて割れたのかな?で、壁にがっちゃんフロント全損・・・ちゃんちゃん」
クランクケースを覗き込んでいた洋介が虚しそうに呟く。果たして元通りになるかなぁ、と考えていると横から黒いオーラが・・・
「おい、洋介よぉ・・・」
「な、なんでしょーか旭さん・・・」
「あのクソガキ・・・やっぱりクシャクシャにしてきていいか・・・?」
「・・・気持ちはわかる」
さてどうしたものか・・・2人は日が暮れるまで悩み続けたとか・・・
「ねぇしーちゃんってばぁ・・・」
場所は戻って病院。
他のみんなはお腹がすいたと言って病院の食堂に行ってしまった。病室には美春と千尋、そして翔子の3人だけが残った。
相変わらず謝り続けていた翔子は先ほどなんとか落ち着かせたが、今度は逆に暗い顔のままずっと下を向いてしまっていた。
やはり昨夜みんなに励まされたとはいえ、美春の現状を見てしまうとやはり明るくなんてとても振る舞えない。また自分を責めている翔子に、美春がついに立ち上が・・・と思いきや、ベッドから起き上がっただけにとどまった。
「しーちゃん、ちょっとこっち来て」
「は、はい・・・」
とぼとぼベッドに歩み寄る。重い足取りで美春の脇に立った瞬間、手を握られた。
「美春さん・・・?」
「・・・えいっ!!」
「え?うわぁ・・・!」
そのまま、グイっと腕を引っ張られると、美春の上に覆い被さるようにして倒れた。
「な、なんなんですか・・・!?」
「しーちゃん暗い・・・私が大丈夫って言ってるんだよぉ?それならいつまでも暗い顔してたらメっ!だよぉ」
左腕を庇いながら、しかしニコニコしながら美春が言った。
しかし翔子の表示は明るくなるどころか、その痛々しい腕や擦り傷を見てさらに暗くなってしまった。
「でも・・・私は義兄を許してしまいました・・・美春さんや圭太さん達を巻き込んで、ケガまでさせてしまったのに・・・」
「まーったくもー!しーちゃんつまんない!ちーちゃん、GO♪」
「りょーかぁい!」
「え・・・!?ちょ、・・・!」
話ながらずんずん暗くなっていく翔子に業を煮やした美春が千尋に声を掛けた。千尋は指をワキワキさせながら翔子に飛び掛かると、そのわき腹に指を差し込んだ。
「え、ちょ、・・・!や、やめ・・・あひゃははははははは・・・!!」
笑わない翔子に美春が行った作戦は、くすぐりだった。千尋の指が的確に翔子を攻め、くすぐったさに翔子が身を捩らせる。
「あひゃははははははは・・・!!ま、待って!ダメ、くすぐった・・・いひゃはははははは!!」
「ちーちゃんもういーよ♪」
「はーい」
美春が途中で千尋に命令して止めさせると、自分の上で息も絶え絶えにぐったりする翔子。
「よかったぁ♪しーちゃん、実はもう笑えなくなっちゃったのかと思ったよぉ♪」
「ぜぇ、はぁ、はぁ・・・み、美春さん・・・?」
「しーちゃんが暗い顔して、得する人なんかいないんだから♪これからはずーっとその笑顔でいるんだよ♪」
ポンポンと、片方の手で頭を撫でる。
「私はぜーんぜん平気♪終わり良ければすべてよし♪」
「で、でも・・・」
翔子は少ーしだけ気まずそうに俯いた。
「その・・・美春さん、サンパチが・・・」
翔子が言ったその瞬間、美春は真後ろ・・・枕に向かってぱたりと倒れた。その倒れ方といったらもう二度と立ち上がる事は無いのではと思えてしまうくらいの倒れ方だった。
「み、美春さん・・・!?」
「おねーちゃん!大丈夫だよ!おにーちゃんがなおしてくれるよ!!・・・た、多分・・・」
「そ、そうです!綺麗に元通りになりますよ!!」
「ぐぼふっ・・・!!」
「うわあ!おねーちゃんが吐血した!!」
「は、早くナースコールを・・・!!」
1人死にかけているが、なんとも賑やかな雰囲気な病室であった・・・
「ん、さすが病院の食堂、あまり美味しくないな・・・」
丁度その頃、病院の食堂で赤城3姉妹の長女である赤城真子が、色の薄いチャーハンに文句を付けながら口に運んでいた。
「でもでも、ここで入院した人やお医者さん達はみんなここのご飯を食べて頑張って来たんだから、あんまりそういうことは・・・」
古そうな病院の建物を見て過去の出来事に想いを馳せながら妹の紗耶香がフォローする。
「いや、なんでそんな事に深く想いを馳せてるのよ・・・あ、圭太、七味頂戴」
「はいはい」
紗耶香にツッコミを入れながら蕎麦を啜っていた由美に、圭太が七味を渡した。
「でも良かったよなぁ・・・重症って聞いてたから相当ヤバイのかと思ってたからさぁ」
凛がホッとしたように誰ともなく呟いた。ちなみに食べているのは醤油ラーメンだ。
「そうだよね。普通の骨折なら、10日あれば完治するし」
「他に異常は無かったみたいだし、本当に良かったわよね」
圭太と由美が頷いた。
昨日旭から重症と聞いていた圭太達であったが、美春は腕の骨折とあばら骨を2本。その内1本はヒビが入っただけで、もう1本もどこか内臓に突き刺さることもなく、思った以上に重症では無かった。頭や他の箇所にも影響は無かった。まぁ軽症では無いが、今日の夕方には退院する予定にはなっている。
「でもサンパチは全損級のダメージなんでしょう?大丈夫かしら・・・」
その事で今現在吐血して半死に状態の美春など知るすべも無く、真子が呟いた。
「まぁ凄腕メカがいるし、大丈夫だろ・・・そんなことより、翔子ん家はどうするんだろうな・・・」
「それこそわからないよね・・・」
凛が心配そうに言うと、圭太も頷いた。
「翔子が復活しないと、アノ計画を実行してもつまらないしなぁ」
「アノ計画・・・?」
凛の言葉に由美が聞き返すと、凛は「圭太から聞いてないのか?」と言って箸を置いた。
「そう言えばまだ由美には話してなかったよ」
「なによ圭太・・・なんだか凄く楽しそうな匂いがするわよ・・・?」
「その話については、私からしておこう」
味の薄いチャーハンに飽きてきた真子がレンゲを置いた。
「実は、8月にみんなで海に行く事が決まったの」
「え・・・!?本当!?」
由美が本当に嬉しそうに笑顔でたずねると、真子は頷きながら口を開いた。
「千葉の方に、ウチの別荘があるの。そんな広く無いんだけど、海に近くて眺めが凄く良いの」
「べ、べべべ別荘!?」
由美が北斗神拳を食らった敵のように悲鳴をあげた。別荘なんて、某探偵アニメか芸能ニュースでしか聞いたことの無い一般人にはどこか現実離れしたものだった。
「そう言えばすっかり忘れていたわ・・・真子さん達、お金持ちなのよね」
赤城建設令嬢3姉妹が、急に光り輝いて見えてきた。
一方真子は少しすねたように口を尖らせた。
「家の事はどうでもいいでしょ・・・そう言われるのは嫌なのよ」
「あ・・・ゴメンなさい」
真子や凛達が家柄の事を言われるのを嫌っているのを忘れていた。由美が頭を下げると、真子は笑った。
「まぁそれはさておき・・・目の前は海、後ろには山・・・夏を満期するには充分な環境でしょう?」
「海には魚の群れとかウニとか貝とか・・・山にはカブトムシとかクワガタとかたくさんいるんだぜ!?」
「ウニ・・・カブトムシ・・・!!」
真子と凛の話を聞いて、コクコクと頭を振りながら叫ぶ由美。その表情はまさに夏休み前の子供だった。
その時、ワクワク感マックスな由美のケータイ電話のバイブレータが高々と鳴り響いた。
「玲花から電話・・・あ、病院って電話使ってよかったっけ?」
「んー、食堂ならいいんじゃないかな。病室はダメだけど」
圭太の意見を聞いて、まぁいいやと言った感じで通話ボタンを押した。
「もしもし?」
『おー由美!元気してるー?』
スピーカーの向こうから1人暴走族、『月光天女』の総長兼構成員スカウトの榛名玲花の能天気な声が響く。
『今あたいさぁ〜、用事があって相模まで来たんだけど用事が終わっちゃってね。暇してたら一緒に遊ばないかい?』
「あー、ちょっと今忙しい・・・ワケじゃないけど、ちょっと遊ぶのは難しいわね・・・」
『んぁ・・・?もしかして今チームで行動中かい?』
「行動っていうか・・・お見舞いね」
『お見舞い?だれか転んだ?』
「実はね・・・」
由美は細かい事を端折って、美春がクルマに跳ねとばされて入院していることを伝えた。ちなみにGT380の被害も大きかった事を説明すると、今まで黙って聞いていた玲花が叫んだ。
『そ・・・それで!?美春姐様は・・・!?』
「ねぇ様って・・・まぁたいしたこと無いわよ」
『な、なに病院!?』
病院名を告げると、玲花はよっしゃ!と言ってから一方的に電話を切った。
「今の電話玲花ちゃん?」
通話を終えた由美に圭太がたずねると、由美は首を縦に振ってケータイをしまった。
「誰だそれ?友達?」
凛がさほど興味無さそうに言った。
「そうよ、私の友達。彼女もバイクに乗っているのよ。それも旧いヤツに」
「おぉ、それは興味あるぜ!」
急に興味に身を乗り出す。バイク乗りが少ない昨今、しかも旧車乗りならばそれも当然の反応だ。
「なんか今から来るみたいだから、後で会えると思うわよ」
「それは楽しみです!」
紗耶香が期待に胸を膨らませて言って、双子の凛とハイタッチした。
その後食事を終えた5人はおそらく二度と足を運ぶことは無いであろう食堂をあとにして、病室に戻った。病室の扉を開けて、最初に目に飛び込んできたのは、ぐったりとベッドに横たわる美春と、しょんぼりした2人の姿だった。
「あ、美春ちゃんが死んでるわね」
「本当だ。なーむー・・・」
「いやいや死んでないですよ!?」
由美と凛の心無い言葉に翔子が突っ込む。まぁ、美春本人はすでにいろんな意味で屍のようだが。
「おねーちゃんにサンパチの話をしたら、ひっくり返って吐血しちゃっただけだよぉ」
「吐血しただけって・・・」
千尋の中学3年生の平均より幼い声でのダーティな説明を聞いて、真子がため息をついた。
「この調子ならしばらく起き上がってこないわね」
「どーすんだよこれから」
美春の肩をゆさゆさと揺する姐に凛がたずねる。
「お見舞いに来たのだからしばらく起きるのを待つしか無い」
「つーか退院寸前の患者をまた再起不能にしてどーすんだよ」
「「ご、ごめんなさい・・・」」
その言葉に、翔子と千尋が頭を下げた。不可抗力とはいえトドメを刺したのは自分達なので何も言えなかった。
「まぁ不可抗力だし、仕方ないわよ。でもGT380は本当に治るのかしら?」
2人を慰めながら呟くと、真子も心配しはじめた。
「ウチのオヤジコレクションに部品無かったっけ?」
「どうだったか・・・探してみないとわからないわ」
「RGのエンジンがあるならあるんじゃないかなぁ?」
千尋が真子の袖を引っ張りながらこちらを見上げて言った。いちいち仕草が可愛らしいなぁ、と2人とも内心少し思った。
「確かにRGのがマイナーだけどなぁ〜。もし無かったらウチの初期型のGT380から部品取っちまおうぜ!?どうせオヤジ全然乗らないしな!」
「ダメだよ凛お姉ちゃん、ちゃんとお父さんに話をしないと・・・泥棒になっちゃうよ」
調子付く双子の姉に紗耶香が捻を押した。自分達の所有物では無いのだから、勝手に部品を取ったら間違いなく怒られるだろうことを、早く学んでほしいと心の内でため息をついた。
「そういえば、真子さんのお父さんの倉庫にあったサンパチって確か初期型なんでしたっけ?」
圭太が少し前にRGのエンジンを運ぶのを手伝った時の事を思い出した。グリーンに白のラインが思い浮かぶ。
「えぇ、それも国内物の正真正銘初期型のね」
「国内物・・・?」
聞き慣れぬ言葉にクエスチョンマークが頭に浮かんだ。
「国内物っていうのはその名の通り、日本国内で販売されたバイクのこと。意外に思うかも知れないけど、私達くらいの年代のバイクだともうほとんど当時日本を走っていたものが無いの」
70〜80年代・・・日本のバイクは国内外問わず飛ぶように売れた。しかしいくら売れたからと言っても新しい物好きで高度経済成長期にあった日本では現存台数が少ない。加えて湿気もあるので状態もあまり良くないのだ。それに比べて世界中で・・・特にアメリカで大ウケした日本のバイクは広い国土や湿気の少ない環境、物を長く大事に扱うおかげで今でも多くの日本のバイクが眠っている。
しかしいくら状態がよくても、メーターはマイル表示。車種によってはカラーバリエーションや仕様などが日本と大きく異なるものもある。
なので、国内に現存しているその年代のバイクは状態の良し悪しに関わらず恐ろしく高額な値段が付くことが多い。新車販売時の3倍以上に値段が跳ね上がることもザラである。
ちなみに普通免許で乗れるクラスならCBX400Fが有名で逆輸入でも100万以上、国内物なら200万は下らないという相場は、まさに『CBXバブル』と呼ぶに相応しい状態になっている。
「私達のマッハは向こうから里帰りしてきたいわゆる『逆輸入車』だから、メーターが140マイルで刻んであるのよ」
ざっと説明し終わると由美と圭太は以前試乗した時、メーターが140までしか無かったことに納得した。
「翔子さんと圭太さんのは国内物ですね」
「んー、あんまり意識してないけどね」
紗耶香の羨ましそうな視線に対して普通すぎる反応て返す圭太。
「話がそれたけど、ともかく私もいろいろ探してみる。今回ばっかりは美春を見なおしたわ」
ギャグなのか本当になのか顔に死相すら浮かべながらうなされる美春を見下ろす真子。今までただの天然バカだと思っていたが話を聞いて見なおしたど同時に、横浜で初めて出会った時のあの走りは偶然で無いことも改めて認識した。
そんなのどかな雰囲気の病室の、丁度窓の外の真下からとんでもない爆音が響き渡ってきた。
ブバァァァァア!!ブバブバブバァァァァヴ!!!!
その後エンジンが止まり、その爆音は消えた。下を見れば駆け足で病院入り口に向かう人影が見えた。
「なんだなんだ?すっげぇうるせぇ音がしたぜ!?」
「思い切り『族』の音じゃないか」
凛が耳を塞ぎながら驚き、真子が冷静になにかを判断したようだ。まぁ2人のエンジン音も負けず劣らず爆音だが・・・
そんな2人の反応に由美はなんとなくニヤリとイジの悪い笑みを浮かべてみた。
「な、なんだよ?」
「いや、なんとなくよ」
「紛らわしいマネすんなー!」
意味の無い行動に凛が突っ込んだ。
「玲花やっと来たみたいね」
由美がつい最近知り合ったばかりの人物・・・横浜のレディース「月光天女」三代目総長兼スカウトの榛名玲花が病院に到着したようだ。しばらくすると、廊下の奥の方からドタバタと非常に迷惑な足音が聞こえてきたその瞬間、病室の扉がバタン!と力強く開かれた。
「美春姐様・・・!?」
開口一発、現れたのはかなり動揺しまくりのヤンキー少女、榛名玲花。
玲花の美春に対する敬称に一同がぽかーんとしていると、玲花はフラフラとベッドに歩み寄った。
「ね、姐様・・・」
いろんな意味で見るからに重傷そうな美春を見下ろして、ガックリとうなだれた。
「ま・・・間に合わなかったか・・・!あ、あたいが何も出来なかったばっかりに・・・!!」
「いやいや、美春ちゃん生きてるわよ。勝手に殺さないでちょうだい?」
「ふぇ・・・?」
膝を折って美春の手を握り締めていた玲花に、由美が突っ込んだ。
「ていうか、さっきから『姐様』てなんなの?」
呆れ顔でたずねる由美。その問に対して玲花は何をバカなコトを、と言った顔で返した。
「んぁ、美春姐様は美春姐様だろ?あたいは初めて会ったあの日、美春姐様に一生忠誠を誓ったのさ」
「あぁ・・・そう・・・」
そういえば前回、美春が(無理をして)食事を奢ってくれた時に、そんなコトを言っていた気がする。義理人情が人一倍とは言え、やりすぎな気もするが。
「そんなコトより玲花。周りに一応みんながいるんだから、挨拶くらいしなさいよ」
とりあえず状況に付いていけずにぽかーんとしている赤城3姉妹に目を向ける。
「なぁ由美・・・コイツは?」
凛がとりあえずたずねると、由美が説明するより早く玲花が口を開いた。
「ども、『横浜月光天女』三代目総長・・・つってもあたいしかいないんだけど・・・榛名玲花っす!ヨロシク!あ、ちなみに単車は日章カラー角タンのバブⅡね。コールもローリングもケツ持ちも信号止めも全部こなすスーパー総長!!うーん、あたいったら最強!」
びしっ!と言ってやった・・・!榛名玲花は1人心の中で感慨に浸っていた。
「はぁ〜、ゾッキーやってんのか。ホークⅡとかまた似合う単車に乗ってるし・・・あ、オレは赤城凛。凛って気軽に呼んでくれよな」
「わ、私は赤城紗耶香です。よろしくお願いします」
双子の姉妹はそれぞれ自己紹介をした。特に凛の方は玲花に好意的でニコニコ笑っていた。
「凛に紗耶香ね。ヨロシク!で、そちらの長身のお方は?」
みんなの輪から離れて隅に立っていた真子に視線を向ける。
「赤城真子。よろしくね」
「あ、ちなみにオレ達の姉貴な」
凛が補足してくれた。
「ちなみに凛お姉ちゃんと私は双子で、真子姉さんは2つ上の姉さんです」
「やっぱり双子だよな、だって2人似てるもん」
紗耶香の説明に玲花もうなずいた。
「あ、ちなみに私達姉妹は真子姉さんと凛お姉ちゃんが400、私が250のマッハに乗ってます」
「ま、マッハぁ!?」
紗耶香の言葉に玲花が驚きの声を上げた。
「マッハと言えば超硬派なカワサキの名車・・・あ、あたいのバブより全然速そう・・・」
「そりゃああんなに長いシートが付いていればね・・・」
驚愕している玲花の肩を、由美が玲花のホークⅡの3段シートを思い出しながら叩いた。少なくとも速そうなバイクには見えない。
「ていうかあたいわかった!ここにいるみんな凄い単車に乗ってるのね!」
赤城3姉妹のマッハを始め圭太の愛車FXは中型バイク金字塔だし、美春のGT380も70年代のスズキを支えた。まだ乗れる歳では無いが千尋のRGも後のレーサーレプリカへの布石だし、翔子のCB350Fourも中型初のマルチ。由美のゼファーもネイキッドブーム再来の立役者。そしてなにより・・・
「あたい好みの族車ベースが沢山ある!!!!」
思わずガッツポーズを取る。玲花の脳内で、皆の愛車が一斉に族車に成り代わって行く。リーゼント風防、絞りハン、ロケット、エビテール、3段・・・良く言えば古き良き活発だった日本の若者文化の・・・悪く言えば下品でちゃんと走らない違法改造車が脳内を走り回る。
「凄い・・・!あたい今凄い所にいる!!ここは昭和何年!?」
「目を覚ましなさい?今は平成よ?」
1人暴走する玲花に、由美がツッコミを入れた。
「あの、玲花さん・・・一応病院ですから、少し静かにした方が・・・」
今まで美春のそばに居た翔子がおずおずと声を掛けた。さすが医者の娘にして常識人である。
「あ、悪い悪い・・・」
「ダメだよレイにゃん、静かにしなきゃあ」
「レイにゃんって言わないで下さいよ妹様・・・」
「いもうとさま?」
妹様と呼ばれて、千尋が首を傾げた。それに答えるために、玲花は赤城3姉妹に聞かれないように千尋の耳元で囁いた。
「はいな、あたいを広ぉい心で許してくれた姐様の妹分にしてあの伝説の霧島さんの妹様ですから」
「妹様・・・なんか偉くなったみたい!」
千尋が無邪気に笑った。玲花はニコリと笑うと、視線を再び翔子と由美に戻した。
「そういや、なんで姐様は転んだのさ?姐様、単車転がすの上手かったよな?」
その質問をされた時、場の空気が変わった。由美はチラリと美春を見た後、翔子に視線を向けた。
「あ・・・気にしないでください。それにその話は私から説明しますから」
「ん?どったの?」
「実は・・・」
「・・・一昨日あたいと会った次の日に、そんなことが・・・ねぇ」
翔子の話を聞き終え、玲花は美春に視線を落としながら呟いた。再び視線を翔子に戻すと、翔子の肩に手を置いた。
「でも姐様の気持ち、分かる気がするよあたいは」
「え?」
「自分のダチとか仲間が危険な目にあってたら、自分を盾にしてでも助ける気持ちがさ」
フッ、と笑って翔子の目を見ながら言った。
「良い仲間がこんだけいるんだから、羨ましいね」
「いやぁ、照れるわねぇ・・・!」
「由美に言ったわけじゃ・・・」
横でえへへと笑う由美に圭太が突っ込みを入れる。
「あ・・・そういえばもう少ししたらおねーちゃんの退院時間だよ?」
なんとなく時計を見ていた千尋が言った。
「最終検査みたいなのと後片付けがあるんだっけ?それなら僕達は先に下で待ってる?」
病院の退院前に、軽く検査のような物がある。といっても腕が動かせるかとか吐き気が無いかなどの病室でる簡単な検査の後、これからの通院の話などをするだけですぐに終わるのだが、気を利かせて圭太が言った。
「ていうか、美春はいつまで寝てるんだ?」
全く動かない美春の腹をポンポンと叩きながら凛が言った。
確かに美春は全く動かない。まるでただの屍の様だ。
「そうだねぇ、そろそろ起こさないとねー・・・ほらおねーちゃん、起ーきーて!」
千尋が両手でバンバンと布団の上から美春のお腹を叩く。相手はケガ人だと言うのに、かわいそうなものだ。
すると叩いた成果が出たようで、ようやく美春が目を覚ました。
「うー・・・」
「あ、起きた起きた!」
「んぁ・・・ちーちゃん、おはよぉ・・・」
どこか寝呆けた感じで美春が挨拶した。ギブスの巻かれていない手で目を擦ると、一際大きなあくびの後。
「あと5分・・・いや、15分・・・」
「寝るつもりな上にさらに10分伸ばした!?」
そんな長い間気絶していたわけでは無いにもかかわらず二度寝を決め込む美春に千尋が愕然とした。
「ダメね・・・全く、これだからろくでなしーずは・・・」
「姉貴、この場合は『ず』じゃなくてただの『ろくでなし』じゃあ・・・」
「何を言っているんだ凛、ろくでなしーずは3人揃ってはじめてろくでなしーずなんだ」
「・・・・・・」
「凛お姉ちゃん・・・こ、これで涙拭いて?ね・・・?」
「・・・うん」
紗耶香に渡されたハンカチで、涙を拭くしか出来なかった。哀れ凛。
「待ってても仕方ないわね・・・それじゃあ私達は先に駐輪場に向いましょう?」
由美の提案に、千尋と翔子以外のメンバーは病室の外に出た。真白い廊下を歩きながら話していると、目の前である人物と遭遇した。
「あ・・・翔子ちゃんのお父さんだ」
「ん?圭太君、それは本当なのか?」
真子が圭太の視線を追った先に、女性看護師となにやら軽いミーティングをしている人物を認めた。圭太の言葉に反応して、由美たちも視線を向けた。
「本当!翔子ちゃんのお父さんだわ!」
「どれどれ・・・おぉ、あれか!」
昨日の夜、短い間だけ顔を合わせた由美もその姿を確認した。凛達も視線を白衣の医者に向けた。
向こうも気付いたようで、看護師に手を合わせてすまないとジェスチャーして、こちらに歩いてきた。
「こんにちは。もう帰るのかい?」
「はい、もうすぐ美春さんも退院するみたいなので」
圭太が代表して説明した。すると、翔子の父は「そうか、それは良かった」と一瞬笑顔になったが、すぐに真面目な顔で言った。
「君達・・・少し時間はあるかな?」
「はぁ・・・大丈夫ですけど・・・」
「少し付き合ってくれないかい?なに、時間は取らせないよ。ジュースの奢り付きだよ?」
「本当!?・・・こ、こほん・・・え、えぇ、大丈夫です!」
「そんなにがっつかなくても・・・」
ジュース奢りごときでテンションが上がってしまい、取り繕うも恥ずかしさに顔がまだ赤い由美に圭太が呆れる。翔子の父は優しい笑みを浮かべた。
「それじゃあついてきてくれるかな?下に休憩室があるからそこで話をしよう」
「わかりました。じゃあ早速・・・」
「あ、な・・・なぁ?」
二つ返事で了解しかけた圭太を遮って玲花が手を挙げた。
「あの、あたいはどうすればいいかな?チームの関係者じゃないしさ・・・」
「何言ってるのよ?チームなんて関係無いわよ?友達なんだから一緒に来なさい!?」
「うんうん、翔子の友達なら是非来てほしいな」
由美と翔子の父の誘いもあり、とりあえず玲花も後に続いた。
一階に降りると、人でごった返すフロアの待合場の脇にある休憩室に案内されて、一同はそこに入った。
「ここはスタッフ専用の休憩室だからね、人は滅多に来ないし大丈夫だよ」
ニコニコ笑いながら翔子の父が言った。人数分の紙パックの飲み物を適当な種類選んで買った後、1人ずつ配っていった。
「いただきまーす!」
言うが早く由美はストローを紙パックに差し込むと勢い良く『飲むヨーグルト』を吸い始めた。
「そうだ、話ってなんの話なんですか?」
そんな由美には目もくれず、圭太がたずねた。すると翔子の父は紙パックをテーブルに置いて口を開いた。
「うん・・・昨日はウチの長男が君達を危ない目に合わせてしまって、申し訳ありませんでした」
そして頭を下げた。大の大人に頭を下げられて、一同は困惑した。
「か、顔をあげてくださいよ!僕達は別に気にして無いですから」
「しかし、私の長男が君達を公道で追い回して、真田さんをケガさせてしまったことは、親である私の責任でもある・・・それについては、僕が謝らなきゃいけない」
「まぁ確かにそうだが・・・」
普段はクールな真子も慣れないシチュエーションに戸惑いながらも頷いた。
「今回、真田さんの治療費と入院代、あとバイクの修理代は僕が弁償するのは当然の話なんだけど・・・それ以上に君達にお願いがあるんだ」
「な、なんですか・・・?」
紗耶香がたずねると、翔子の父はテーブルにバンっ!て手を置いて、頭を下げた。
「これからもずっと・・・娘と仲良くしていて欲しいん・・・!お願いします!」
「ち、ちょっとちょっと!」
由美が漸くストローから口を離すと、翔子の父に言った。
「そんなこと言われなくても私達はずーっと翔子ちゃんとは友達よ!」
全く、親子そろって似ているなぁと思いながら由美が言うと、翔子の父は安心したように顔を上げた。
「ほ、本当かい!?よかった・・・」
「とにかくみんな気にして無いし、大丈夫ですよ」
圭太が言うと、翔子の父は「そうか・・・よかった・・・」と小さく呟いた。その表情は安堵に包まれていた。
それから軽く話した後、由美達は翔子の父と別れて病院玄関の外で待機していた。しかし・・・
「遅い・・・」
真子が腕時計を見て言った。待ち始めてからすでに30分が経過。真夏日の昼間に立たされるのはキツい。しかし、涼しい受付の前で待っていると病人怪我人、そして老人の通行の邪魔になってしまうので仕方無しに外で待っているのだ。
「でもさぁ姉貴。こう暑い日差しの下にいると、今年も夏が来たなぁ・・・って、なんか嬉しくならない?」
「ならない。まぁ冬よりはマシだが・・・」
「ちなみにあたいは夏が大好きだ」
「いや、お前には聞いてねーし・・・」
赤城姉妹と玲花のにぎやかな(?)会話が展開され始めた時、漸く病院玄関から3人の姿が現れた。
「あ、ようやく来たわ」
「ゴメンねー、おねーちゃんがなかなか起きてくれなくってー」
美春ではなく、千尋が苦笑しながら頭を下げた。一方寝ていた張本人はと言えば・・・
「暑い・・・ふぁ・・・」
「み、美春さん!?」
「あ、姐様っ!!」
意味不明な擬音を残してぶっ倒れそうになった美春を圭太と玲花が支える。
「あぁ・・・けーちゃん、れいにゃん・・・私、もうダメぇ・・・」
「暑いの苦手なんですか?」
圭太がたずねると、美春は弱々しく首を横に振った。
「あっくんからメールが来てねぇ・・・『どーにもならん』って・・・写真付きで・・・」
手にぶら下げていたケータイ(事故のせいか少し傷つき)を見せた。皆が覗き込んだ画面の中にはぐちゃぐちゃになった鉄の塊・・・もとい美春のGT380のフロント周りが・・・
「うわぁ・・・フォークがくの字に・・・」
紗耶香が深刻そうに呟いた。
「フレームはなんとかなる・・・いや、なんとかするって書いてあるけど・・・当分治らないんだって・・・ぁ・・・空に大きな穴が・・・」
「ちょ、姐様!しっかりして!!」
「まだ休養が必要だな・・・早く家に返して寝かせた方がいい」
真子が冷静に判断を下した。
「そうですね・・・あ、じゃあ私タクシーを捕まえてきます」
翔子が病院玄関前にあるタクシー乗り場に走る。皆もついていくと、早速黒塗りのタクシーを捕まえた。
「じゃあおねーちゃんはタクシーで私が送るから、あとはよろしくぅ」
「えぇ、美春ちゃんお大事にね?」
「はゅひひひひひ・・・」
美春の奇声を残して、2人を乗せたタクシーは走り去っていった。残された7人はそれを見送ると駐輪場に足を向けた。
「それじゃあ私達も今日は解散しましょう?私も疲れちゃったわ」
ゼファーのキーを振り回しながら由美が言った。
「私も明日から試験があるし・・・その方が良さそうだな」
「あーあ、オレ達ももうすぐしたら期末試験だ・・・はぁ」
「大丈夫だよ凛お姉ちゃん、前みたいに頑張れば」
赤城姉妹が励まし合いながら歩く。
「僕達も来週から期末だよ。由美、今回も大丈夫そう?」
「・・・えぇ、もちろん大丈、夫。」
「はぁ・・・」
そういえば最近ろくに勉強した姿を見ていなかった。圭太はため息をついた。
「翔子ちゃんの学校は?」
「私はもう今週から試験ですね。はぁ、しばらくバイクには乗れません・・・」
「みんなテスト期間だね」
翔子のいつもどおりの反応を聞いて、圭太は少し安心したように言った。
みんな暗い表情・・・とまでいかなくても、静かな雰囲気の中、1人ニコニコしている人物が・・・
「テストかぁ・・・あたいには関係の無い言葉ねぇ」
「あれ?玲花さんの高校はテスト終わったんですか?」
紗耶香が羨ましそうに言うと、玲花は人差し指を立ててチッチッチと言った。
「あたいは学校に行っていないのさ!中学卒業してから社会人なんだ」
「中卒って奴?」
「聞こえは悪いけどね」
凛の質問に笑って答えた。
「確かに将来を考えたら高校くらいは出た方が良いかも知れない・・・でもあたい思った!!今から働いて、好きな単車を買って好きなようにイジって好きなように乗り回して好きなように青春を謳歌する・・・!!未来に向かって『守り』じゃなくて『攻めて』生きていく方がカッコいいんだよ!!」
歩ゆみを続けながら両手を広げて語る。
「そしてこれが!!あたいの青春!!」
駐輪場目の前に来て、自分の愛車であるホンダのCB400Tを指さした。
「このマービングの斜切り感、風防、絞りハン・・・!!全てにおいてあたいの青春!!」
日章旗カラーのホークⅡを前に、1人テンションの高い玲花。一方周りの反応はと言えば・・・
「派手だなぁ・・・さすがゾッキー」
「ある意味、これがホークのあるべき姿なのかも知れませんね」
車体全体を見回して凛と翔子は笑った。豪快な物が好きな凛とホンダ党でありどんなジャンルにも理解がある翔子には受けが良かったらしい。終始笑顔で感想を述べた。一方・・・
「三段と言い絞りと言い・・・走りには向かない改造・・・」
どうやら真子にはあまり良く映らなかったようだ。終始首を横に傾げている。
「何言ってんのさ、目立ったモン勝ちだよ世の中!速さなんか二の次!」
「ホークだって速いバイクのハズ・・・もったいない」
「な、なんだと!?あたいのバブⅡに不満が!?」
「コラコラ、止めなさいよ2人とも」
見兼ねた由美が止めに入る。
確かに2人は両極端だ。真子は走りを求めるスタイル。玲花は乗りにくくても派手なスタイル・・・個人差はあれど、ここまで趣味が違うと確かに様々な意見が出るのも仕方が無い。
「じゃああんたのマッハはどれ!?」
「あれよ」
真子が指さした先には、ホワイトにグリーンのレインボーライン。セパレートハンドルにバックステップ、純正改ダブルディスクにBEETキャストホイールが映える。テールカウルもFX用でシャープなラインを整形した、真子の自慢の愛車400SSマッハⅡだ。
「低い姿勢で操り、BEETチャンバーから吐き出す白煙は後続車を包み込み、ストレートをフル加速する・・・この陶酔感が素敵な私の自慢のマッハ。ちなみに・・・」
「うわ、姿勢低っ。これじゃあ葉っぱにしがみついたバッタみたいな姿勢じゃなきゃ走らないな」
「な!?」
得意になって語っていた真子の言葉を遮って玲花が言った。
「それに、この赤いマッハのイモチャンはカッコいいけど、このチャンバーはなんかレーサーみたいで嫌だなぁ・・・霧島先輩みたいなショットガンならまだしも・・・」
「ほぅ・・・!?言わせておけば・・・!そのブリキのオモチャみたいな汚い塗装のバイク乗りには言われたくない。むしろオモチャでしょうそれ?」
「あぁ!?なんか文句あんのか!?」
「文句しか無い」
「なんだとぉ!」
「コラコラ2人とも!止めなさいよ!」
さすがにまずいと思い、由美が間に入った。圭太や翔子達もまぁまぁと言いながら2人を宥める。
「止めてよ2人とも・・・ケンカはダメだって」
「そ、それにバイクは人それぞれですし・・・」
「そうだよ真子姉さん、人は人、私達は私達でしょ?」
真子の肩を押さえながら紗耶香も説得した。2人はしばらく睨み合うと、そのままそっぽを向いてしまった。
「とりあえず今日は解散しようよ、しばらくはみんなテスト期間だから次の機会はまた後で決めよう」
「そうだな圭太君・・・すまないな、取り乱してしまって」
真子が頭を下げた。
「じゃあそういう感じで、また何かあったら連絡するわね?」
「わかりました。それでは、私はお父さんに会ってから帰りますから」
「えぇ、それじゃあ翔子ちゃん!またね!!」
「はい!」
笑顔でお辞儀をすると、翔子は病院に掛けていった。
「それじゃあ私達も出ましょう?」
「そだな、今日はさすがに勉強しねーとなぁ・・・」
由美の言葉を合図に、みんなが愛車をそれぞれひっぱりだした。
カシュッ・・・!!
ギャワァァァァァァア・・・!!!!パンパンパンパン・・・!!
「うん、チョーク引いて一発・・・マッハは今日も快ちょ・・・」
ガシュッ!!
ブバァァァアアア・・・!!!ダッダッダッダッ・・・!!
「この音!!やっぱバブⅡは最強ね!」
真子の言葉をタイミングを見計らってその爆音で遮る玲花。チラリと真子を見てニヤリと笑った。
真子、カチン。
「あー、なんかやかましい汚い音が聞こえるわね。その黄色い鉄パイプ、換えたらマシになるんじゃないか?」
「・・・ヤル気?」
「私のマッハに勝てるとでも・・・?」
「・・・」
「・・・」
暫し沈黙。そして・・・
「やってやんわよこのバッタ虫!!」
「ふん、話にならないけど、今日は特別にあなたにオイルを食べさせてあげるわ・・・!!」
カチャ・・・!
グギャワァアアアアアアア!!!!
カチャ・・・!
バァァァァァァァアアアア!!!!
2台の旧車は、そのまま駐車場から飛び出すと走り去ってしまった。
残された4人はポカーンとした顔で見つめていた。
「ねぇ圭太・・・あの2人は仲良くやれるかしら・・・」
「どうかなぁ・・・」
「オレはどっちの単車も良いと思うんだけどなぁ」
「あぅあぅ・・・」
本日の教訓、十人十色。
後書き限定小話!!
『千尋の大冒険!?』
「・・・・・・」
拝啓、おにーちゃん。辺りは人、人、人・・・周りを囲む高くそびえ立つビル・・・駅にはホームがいくつも並んでて、出口を探すまで大変でした。たどり着いたのは排気ガスとゴミと人の匂いが密集するコンクリートジャングル、新宿です!
「・・・」
あ、紹介が遅れました。私、霧島千尋。これでも立派な中学3年生。今日はワケあって初めて新宿に来たよ。しかも1人で、その理由とは・・・
昨日、おにーちゃんが1人黙々とおねーちゃんのバイクを治してあげてる時。
「おぉ千尋。ちょいと頼みがあるんだがな」
「うん、なぁに?」
「美春のサンパチのタンク、今板金中だべ?で、また色塗り直すんだがよ。塗料がねーんだよ」
おにーちゃんがさも困ったように言った。
「店でも買えるんだがな、高いんだわ。だから、安く手に入れるためにちょい協力してくんねーか?」
お、おにーちゃんに初めて頼みごとされちゃった!やった!嬉しくなった私はうんって言ったら、おにーちゃんはポケットから紙を出した。
「問屋でも安く仕入れるのは出来るが、業者向けの店があってよ。洋介ん家の名前使えばかなり安く買えるんだ。で、もう用意は出来てんだが取りに行く暇がねー・・・行ってくんねーか?」
なぁんだ!ただのお使いだ!楽勝だよ!
「任せてよ!私だってたまには役にたつんだから!」
「そっか、さんきゅ。じゃあこれ塗料代な」
手渡されたお金を、私は預かった。私からしたらかなりの大金だ・・・
「後、これ美春から。少なくてすまないが、これで遊んできてくれってよ」
ツナギのポッケからポチ袋を取り出した。なんでお年玉用のポチ袋なんだろう?ていうか、ポチ袋のポチってなぁに?いろいろ疑問に思いながらポチ袋を開けた。
「ご、ごしぇんえん!?」
あまりの大金に噛んでしまった。普段私のお財布には、滅多に入らない樋口さん・・・だっけ?女の人が私を見てくる。
「ま、ヨロシクな。あ、ちなみに場所だけどよぉ」
驚く私を前に、おにーちゃんがお使い先の地名を言った。
「新宿から上野・・・かぁ」
そして、今。
ボーッとしてたらすぐに人にぶつかっちゃうくらいの人ごみの中、私は呟いた。
おにーちゃんが言うには、上野はそういう業者向けなお店とか安いお店が沢山あるみたい。それに、バイク街っていうバイク屋さんが並ぶ場所もあるんだって。自慢じゃないけど、私は新宿とか渋谷とか、そういう大都会に来たのは初めて。そんなこともあって、昨日は芸能人とかいるのかなぁ、都会ってなんでもあるんだろぉなぁって、はしゃいじゃって寝れなくて少し寝坊しちゃったのは内緒だよ?
とにかく、私はこの新宿から山手線っていうのに乗り換えなきゃいけない。
調べてみたら、山手線っていうのは終点が無くて、ずっとぐるぐる回ってる電車なんだって。私、ちゃんと下調べしてきたんだ、えへへ♪
「とにかく、ここからまた電車に乗らなきゃ・・・」
移動開始。それにしても人が沢山いるなぁ。前が全然見えない。
切符売り場で、券売機上にある表を見る。新宿と反対側にあるんだぁ・・・
切符を買って、改札を通る。さすがにこれは相模と一緒だね。
「えっと・・・山手線、山手線・・・あ、あった!!」
なんとか背伸びして、山手線のホーム発見♪
「あれ・・・でも、どっちだっけ?」
人が多すぎて2つある乗り場のどちらが上野に近いのかを忘れてしまった。止まって見ればどこ方面かわかるけど、人だらけで止まるに止まれない・・・
どうしよう・・・結局ぐるぐる回ってるんだから、どっちから乗っても一緒だよね?でも、早く帰っておにーちゃんに褒めてもらいたいし何よりこの人ごみから早く離れたいよぉ・・・。
いや、待てよ私・・・迷っても仕方が無い!私はおにーちゃんの妹!こんな所で迷ってられないよ!!こういう時は・・・
「流れに身を流す!」
人ごみに流されるがままに、私はそのまま階段を登った。そうだ、上なら余裕があるだろうから、そこで確認すればいいんだよ。私、もしかして頭いい?
でも、そんな私の目の前に予想外な展開が待ち受けてた!
「で、電車来てる!?」
右手に緑色の山手線がすでに到着してた。電車の中から出てくる人や乗り込む人で止まれない。しかも・・・
「反対側にも!?」
見たこと無い、黄色い電車が止まってた。そっちの電車にも人、人、人・・・
「あ・・・!!ち、違う!私は山手線に・・・!!」
ここに来て、流れに身を任せていたのがまさかの裏目に・・・!?私の乗りたい山手線から、黄色い電車に乗り込む人の流れに押し流されていく。
「わ!ぷっ、ちょっ・・・!」
ダメ、人の壁は津波みたいに私を黄色い電車に押し流す。流れに逆らおうとしてみても、サラリーマンのおじさん達には私が見えてないみたい。くそぅ、あとちょっと背が高ければ・・・!!
「あ!!」
人と人の間から向こうを見れば、山手線のドアが閉まって発車しはじめてる。でもそれ以上の問題は・・・
「わわわ!この電車じゃ無いの!!」
あーれー。
そのまま、私は黄色い電車に乗せられてしまった。
あーうー!この電車じゃ無いのに、なぜなぜなんでぇ?
こうして、私の旅は波乱の幕開けをしました。大丈夫かなぁ?
続く・・・