最終話.あなたと一緒なら
パイプオルガンの音が鳴り響く中をゆっくりと進んでいく。ただまっすぐ歩くだけなのに、こんなに大勢人が注目していると思ったら緊張して緊張して……足が震えてしまう。
ただでさえいつもよりヒールが細くて高いから歩きにくい上に、豪華なレースでできたベールのせいで前がよく見えない。これじゃあ少しでも気をぬくと、途端によろけてしまいそうだ。
ふぅっ。
よかった。何とかエイデンの隣まで無事たどり着くことができた。
「レイナ……」
私を迎えるエイデンを見て、思わず息がとまりそうになった。
なんて素敵なの……
ここまで歩くのに夢中で全く気がつかなかったけど、エイデンもこの場にふさわしい正装に着替えていた。
ああーん。やっぱりエイデンには黒がよく似合う。こんなにかっこいエイデンが私の旦那様になるなんて……いまでもやっぱり夢みたい。
「レイナ、どうかしたか?」
いきなり固まってしまった私に、エイデンがこそっと耳打ちした。
「緊張してるのか?」
緊張はもちろんしてるわ。足がガクガクするほど緊張してる。でも私が固まったのは緊張したせいじゃない。
「エイデンがあんまりかっこよくて、見惚れてたの」
他の人には聞こえないほど小さな声でエイデンに囁きかえした。
「本当にレイナは悪い奴だな」
エイデンが嬉しそうに微笑んだ。
「こんな時にそんな嬉しい事を言われたら、儀式の手順なんて全てぶっとばして今すぐキスしたくなるじゃないか」
「もうエイデンったら」
そんな事言われたら、私だってキスしてほしくなっちゃうじゃない。
でも今日はフレイムジール王であるエイデンの結婚式ということで、他国の王族とか国内の偉い人やらいっぱいいるのよね。キスなんてしてる場合じゃない。とにかく無事にこの結婚の儀をやりとげなければ。
カイル鬼教官の指導の元、何度も予習してきたおかげもあり儀式は順調にすすんだ。残りは誓いの口付けだけだ。
軽く膝を曲げ頭の位置をさげた。エイデンが私のベールを持ち上げる。視界がクリアになり、エイデンの顔も参列者の顔もよく見える。
エイデンが私にキスをすると、参列者が立ち上がって祝福の拍手をくれた。
「これで俺達は晴れて夫婦だな」
「末永くよろしくお願いします。旦那様」
手を握り見つめ合う私達を鳴り止まない拍手が包む。
「エイデン?」
思わず自分の目を疑った。エイデンの頰を一筋の涙が静かに滑り落ちていく。
「エイデン、どうしたの?」
「俺は一体……なぜ泣いてるんだ?」
エイデン自身にも涙の意味が分からないようで、目尻に触れ流れる涙に戸惑っているようだ。
「大丈夫?」
白い手袋をはめたまま、エイデンの頰を伝う涙に触れた。こんな風にエイデンの涙を見るとは思ってもいなかった私も狼狽えてしまう。
「幸せだな……」
エイデンの頬に触れている私の手をきつく握り、エイデンが言った。
「本当に……本当にこんな幸せがこの世にあるんだな……」
「エイデン……」
本当に幸せそうな微笑みを浮かべるエイデンに、私も微笑みかえす。
「レイナ、愛してるよ……」
「エイデン……私も愛してるわ」
コツン
エイデンが自分の額と私の額をくっつけた。
エイデンと出会ってから楽しいことも、悲しいことも色々あったわよね。きっとこれからもまだまだたくさんの出来事が起こるでしょうね。
でも大丈夫。きっとエイデンと一緒なら何だってできちゃうわ。
エイデンの手が私の頰に触れた。
瞳の端に、嬉しそうに笑うお祖父様とレオナルド、仲睦まじく手を握るジョアンナとアランがうつる。その後ろには涙を浮かべるビビアンとミア、クリスティーナとアイリンもいる。
予定にないエイデンの動きに慌てる進行役の後ろでは、カイルがメガネを外して涙を拭っていた。
本当ね。本当に幸せだわ。
エイデンの手が私の背中にまわされる。優しく引き寄せられ、深い愛情を感じるキスを受けた。
エイデン……私を見つけてくれてありがとう。
もっともっと一緒に幸せになろうね。
これから訪れる明るい未来を思い浮かべながら、私のありったけの愛を込めたキスを返した。
これにて本編完結です。
お読みいただきありがとうございました。




