70.幸せを願って
「やっぱりレイナにはこういうフリフリした可愛らしいドレスがよく似合いますね」
ウェディングドレス姿になった私を見てレオナルドが嬉しそうに笑った。
「これなら絶対エイデンも喜ぶはずですよ」
あはは。自分で言うのもなんだけど、たしかに今日の私は可愛らしい。ふんわりスカート部分にはフリフリとリボンがたくさんついててめちゃくちゃ素敵だし、やっぱりこのドレスにしてよかったぁ。
「レイナのドレスは俺が決める!!」
エイデンはそう言ってなかなか譲らなかったが、それじゃつまらない。結婚の儀も披露パーティーもエイデンとカイルが仕切るのだから、ドレスくらいは自分で決めたい。揉めに揉めて何とかエイデンのオッケーをもぎ取ったのだ。
本当はビビアンとミアとじっくり決める予定が、レオナルドとジョアンナが黙っていられるはずはない。しっかり口出し、ダメ出しされながら選んだのがこのドレスだ。
まだエイデンにドレス姿は見せてないし、どんなドレスを着るのかも伝えてはいない。あードキドキする。エイデンがどんな反応をするか、楽しみなような不安なような……
「きっと今頃エイデンはレイナのドレス姿が見たくてうずうずしてるだろうね」
そう言ってレオナルドが笑った。
「レイナ様、とってもお綺麗ですよ」
瞳を潤ませたビビアンと鏡の中で目があった。その横ではミアも目頭を押さえている。
「二人にはいっぱい心配かけたよね……いつも一緒にいてくれてありがとう」
いつも姉のように見守ってくれている二人の涙に、私まで胸がいっぱいで熱いものが込み上げてくる。
「レイナ、泣いたらだめよ。せっかく綺麗にしたんだから」
私の目元をそっと押さえるミアの瞳からポロポロと涙が溢れおちた。本当に私の側にビビアンとミアがいてくれて幸せだ。
「私のボディラインを際立たせるには絶対にマーメイドラインって思ってたけど、プリンセスラインも捨てがたいわね」
私達が涙を浮かべるその後ろでは、いつものごとくジョアンナ達が話に花を咲かせている。
「プリンセスラインですか……いいと思いますが、あんまり可愛いすぎるのは似合わないんじゃないでしょうか」
「レオナルド!! それどういう意味よ? 私に可愛らしいドレスは似合わないって言いたいの?」
「そういうわけではないですが……」
言い淀むレオナルドの横から、
「僕達の結婚式ではこれくらいの丈のドレスが着て欲しいです」
とアランが口をはさみ、膝上15センチくらいの所に手で線を引いた。
「バッカじゃない?」
ジョアンナが冷めた瞳をアランに向けた。
「誰がそんなミニ丈着るもんですか」
「えー」
アランが残念そうに口を窄ませた。
「だいたい好きな女に太ももを晒せって言う男なんている? 普通は隠せって言うもんじゃないの?」
「だってジョアンナ様の足はスラリと長くて美しいから。皆に見てもらいたいじゃないですか」
「まぁたしかに、私の足は綺麗だけど……」
アランの無邪気な笑顔にジョアンナがほんのりと頰を染めた。なんだかんだ、ジョアンナも幸せそうだ。
「レイナ……」
名前を呼ばれ振り向くと、レオナルドが私を見つめていた。いつにない真剣な表情に思わずドキっとしてしまう。
「レイナ、本当にありがとう」
レオナルドにお礼を言われることなんてあったかしら?
「こんな風に私が楽しく過ごせているのはレイナのおかげだよ」
「私は何もしていませんよ」
こんな風に毎日が楽しいのはレオナルドやジョアンナが明るくて賑やかだからだと思うけど。
「ぎこちない関係だった私とエイデンを近づけてくれたのは間違いなくレイナだよ」
私を見つめるレオナルドの瞳はとても優しく温かい。
「……そうね。私も久しぶりにここに帰ってレオナルドとエイデンが楽しそうにしているのを見て嬉しかったわ」
ジョアンナの眼差しも、レオナルドと同様にとても優しかった。
「エイデンはよく笑うようになったわよね。それに反応を返すし。今までは嫌味を言おうが何しようが、冷めた目で黙って見てただけだもの」
レオナルドが立ち上がり、私の真正面に立った。
「本当に全てレイナのおかげだよ。ありがとう。これからもエイデンのことを頼むよ」
「もう、レオナルド様ったら……」
そんな風にお礼なんて言わないでよ。そんなこと言われちゃったら私……目頭が熱くなってくる。
「泣いたら美人がだいなしだよ」
レオナルドが笑いながら私の頰の涙を優しく拭った。
「おいっ!! 何してやがる?」
急に聞きなれた声が聞こえて顔をあげた瞬間、ぐいっと体が引かれ思わずよろけてしまった。
「……エイデン?」
いつの間に現れたのか。エイデンがよろける私を支えるようにしながらレオナルドに厳しい視線を向けていた。
「何泣かせてるんだ?」
大変!! せっかくレオナルドがいいお兄さんって感じだったのに、ここで喧嘩なんかになっちゃったらどうしよう。
「エイデン、これは泣かされたわけじゃなくてね。感動したって言うか胸がいっぱいっていうか……とにかく、レオナルド様は悪くないの」
「レイナ、言っても無駄よ。エイデンはレイナに近づくものは誰であろうとムカつくんだから」
後ろから、からかうようなジョアンナの声が飛んでくる。
「本当にエイデンは独占欲の塊ですね」
レオナルドもなんだか楽しそうだ。そんなレオナルド達の態度が気に入らないのか、エイデンは余計にイライラしてきたみたいだ。
「何でお前らそんなに嬉しそうな顔してんだよ?」
「エイデンは可愛い私の弟だなって思ってるからですよ」
そう言ってレオナルドがエイデンの頭をポンポンと叩いた。
「何言ってるんだ?」
不愉快そうな顔をしてエイデンがレオナルドの手を払いのけた。それでもレオナルドは嬉しそうだ。そんな二人のやりとりが微笑ましくて、私まで嬉しい気持ちになってきた。
「レイナまで何笑ってるんだよ」
口を尖らせるエイデンもなんだかキュートだわ。
「そういやエイデン、準備しなくていいんですか?」
そうだ。よく見たらエイデンはまだ普段の格好のままじゃない。
「用が済んだらすぐに準備するさ」
っと、エイデンが私を見た。
「綺麗だな……」
不意に言われた言葉にドキッとしてしまう。
「あ、ありがとう」
うわぁ。そんなにじっくり見つめられたら、めちゃくちゃ照れ臭い。
「すごいな。こんなに綺麗なものは今までに見たことがない」
それは言い過ぎじゃないっと思うけど、エイデンが本気でそう思ってくれていることが目を見れば分かる。うっとりと私を見つめるとろけそうなエイデンの顔を見て、体が熱くなってくる。
「ねぇそこの二人。私達がいること忘れてなーい?」
なぜかジョアンナとアランが、嬉しくてたまらないような顔で私達を見ている。
「お熱い二人に、私とアランから結婚祝いがありまーす」
「結婚祝い?」
ジョアンナ達のやけにニヤニヤ顔を訝しがるようにエイデンが尋ねた。
「そうよ。結婚祝い」
ジョアンナとアランが目配せした。
「私達、このままこの城に住むことにしたから」
「えぇー?」「はぁ?」
二人そろってびっくりしちゃった。
「なんでそれが結婚祝いなんだよ?」
「嬉しいでしょ?」
「嬉しいわけあるか!!」
エイデンはそっけないけど、私は嬉しいわ。大喜びょ。
「もうお父様には了承済みよ」
「ちなみにお二人以外は皆知ってました」
アランの言葉にレオナルドが笑って頷いた。
「お祖父様もお喜びでしょうね」
「城を改修しなきゃなってブツクサ言ってたわ」
素直じゃないんだからとジョアンナが笑た。
「……前に言ったでしょ? エイデン、私はあんたの母親がわりのつもりでいるんだから。あんたが幸せになるのを側で見守りたいのよ」
ジョアンナに真っ直ぐ見つめられて、照れ臭いのかエイデンは顔を背けた。
「ジョアンナ様が母親なら、僕は父親ですね。お父さんって呼んでくれても構いませんよ」
うーん。アランが言うと、本気なのか冗談なのか分からない。
「皆エイデンの幸せを願ってるんですよ」
レオナルドが柔らかな表情を浮かべた。
「何を馬鹿なことを」
背けたままのエイデンの顔は真っ赤だった。きっと嬉しい気持ちと、恥ずかしい気持ちが混ざってるんだろうな。
「くそっ。間に合わねーから。準備してくる」
俯き赤い顔を隠すように部屋を出て行ったエイデンを見て、「逃げたな」っと、レオナルドとジョアンナが声を出して笑った。




