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思い出しちゃダメ!? 溺愛してくる俺様王の事がどうしても思い出せません  作者: 紅花うさぎ


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65.迎え

「レイナ様、お客様がいらっしゃいました」


「やぁ、レイナ。久しぶりだねぇ」

 ビビアンに連れられてやって来た人物を見て驚いた。


「アダム様がわざわざ来てくださったんですか?」


「手紙では分かりにくい事もあるからね。私が来た方が色々とスムーズな事もあるだろう」


 そう言ってアダムはハンカチで額の汗を拭った。本格的な夏まであと少し。気温は日に日に高くなっている。


「ありがとう」


 ビビアンが運んできた冷たいレモネードを一気に半分飲んだ後で、アダムはふぅっと息を吐いた。


「マルコはアダムに預かってもらうことにしました」


 レオナルドからそう聞いたのは、まだ春の気持ちのよい風が吹いていた頃だ。でもまさかアダム自身がわざわざマルコを迎えに来るなんて思ってもみなかった。


 レオナルドはアダムはとても面倒見がいいから、マルコのこともきっとよくしてくれると言ってたけど、本当みたいだ。


「私に会いたかった」だの、「今日も可愛いね」とか言ってるのは相変わらず軽いとしか思えないけど、きっと根はとても優しい人なんだろう。


「そうそう、レイナにお土産があるんだ」


 お土産って何かしら? って、えっ!? 


 ワクワクしながらアダムの侍女が運んで来た台車を見て目を疑った。


「こ、これ、私にですか?」


「そうだよ。全部レイナへのお土産だよ」


 ええー!!


 アダムの侍女が部屋に運び込んだ台車は計3台。次から次へと箱が山積みされていく。


 お土産は嬉しいけど、これはちょっと多すぎじゃない? 部屋の大部分がアダムが運び入れた箱で埋まってしまった。


「レイナに似合う物をと思って、色々用意したんだよ」


「アダム様……まさかそれ下着ですか?」


「まさか!? ビキニに決まってるじゃないか」


 ビキニ!? 何それ? どう見ても下着なんだけど……


 アダムがお土産の一番上の箱を開けて取り出したのは、白地に赤い小花模様のヒラヒラつきすぎな、どうみても下着にしか見えない物だった。


「そっか。レイナはビキニを知らないのかぁ。ビキニっていうのはね、水着の一種なんだけど……もしかして水着も知らないのかな?」


 私が水着という言葉にピンときてないのを悟ったアダムはビビアンとミアを見たが、二人とも私と同じくさっぱり分かっていない。


 どうやら水着というのは、暑い時プールという大きな風呂で泳ぐ際着るものらしい。さすが水の一族が治めるノースローザンヌ。国民も水遊びが大好きなようだ。


「せっかくだし、ちょっと着て見せてよ」


「ムリムリ、絶対ムリです」


 こんな布地の少ないもの、人前で着れるはずがない。いくら下着じゃないと言われても、下着にしか見えないもん。


「そう言わず着てみてよ。絶対に似合うから。ビビアン達もそう思うだろ?」


 よかった。アダムの城でお世話になってからアダムの評価爆上がりのビビアンとミアも、さすがに今回はアダムに賛同しないようだ。


 っと、蹴破らんばかりの勢いでドアが開いた。


「エ、エイデン!! びっくりするじゃない」

 

 もう、ノックくらいしてよ。って何回も言ってるんだけどね。エイデンが飛び込んでくる時の、バタンという大きな音は心臓に悪い。


「アダム王子……出迎えもせず申し訳ありませんでした」


 全速力で走ってきたのか、エイデンの息はあがっている。息を整えゆっくりと部屋に入って来たエイデンが、アダムが手にしているビキニを見て眉を顰めた。


「アダム王子、これは一体?」


「これはレイナへのお土産だよ。夏だしビキニにしてみたんだ。ほら、可愛いだろう?」


 アダムがエイデンに向かってビキニを見せた瞬間ビキニから炎が!! 驚いたアダムが焦って手を離した時にはもう、ビキニは灰へと変わっていた。


 今のってエイデンの力だよね?


「エイデン王、なんて事してくれたんだい」


 あぁ、まずい。アダムが怒ってる。

 でもエイデンは全く気にしていないかのような態度で軽く頭を下げた。


「すいません。驚いた拍子で、無意識に炎の力が出てしまいました。それよりアダム王子、ここはレイナの私室なので……」


 さりげなく違う部屋に移動しろと匂わせるエイデンに、アダムはしれっと「今日はいいよね? お土産を一緒に開けたいから」っと答えた。


「申し訳ありません。妻の部屋に入られるのは、私が不快なので移動していただけますか?」


 うそっ!! 妻!? 今エイデン妻って言ったよね?


「おや? 君達はまだ結婚していないんだから、妻というのはおかしくないかい?」


「結婚するのは決まっているのでおかしくなんてありませんよ」


 あぁ……やだなぁ、このピリピリした感じ。

 

 敵意を隠そうとしないエイデンを見て、口元を緩ませたアダムが何かを言おうとした時……


「アダム!! ここにいたんですね」


 嬉しそうな笑みを浮かべ、レオナルドが部屋に入ってきた。ジョアンナとアランまで一緒だ。


 あーん。もぅぐちゃぐちゃだわ。

 このメンバーで集まって、穏やかに会話ができる予感がしない。


「レオナルド、久しぶりだね。ジョアンナ様も相変わらずお綺麗で」


「あーらアダム。あなたも相変わらず素敵よ」


 いつものように軽い感じで挨拶を交わすアダムとジョアンナの間にアランがさっと入り込んだ。


「はじめまして。ジュアンナ様の未来の夫、アランです」


「だからあなたと結婚なんかしないって何回も言ってるでしょ!!」


 これまたいつも通り、お決まりのやりとりだ。


 結局私の部屋にこの大人数は狭すぎるということで、全員揃って移動することになった。やって来たのは窓が大きく開放的な応接室。今まさにカイル達によって、アダムをもてなす準備が整えられていた。


「フレイムジールに来るのは久しぶりだけど、また賑やかになったみたいだね」


 アダムはアランの事を見ながら言った。


「でも残念だな。恋人がいるのでは、もうジョアンナ様を口説けないのかぁ」


「あら? いくらでも口説いてもらって構わないわよ。アランは恋人なんかじゃないんだし……」


 冗談っぽく言い合うアダムとジョアンナに対して、アランは泣きそうな顔をしている。


「騒がしくて申し訳ありません」

 

「いやいや。楽しいですよ」


 頭を下げるエイデンに向かって、アダムは楽しそうな笑顔を返した。

 

 マルコを預かってもらうようお願いしたのはエイデンなのに、わざわざアダムがマルコを引き受けに来たので相当慌てたみたいだ。


「特に予定がなかったから来たんだよ。それに……」

 とアダムがチラリと私を見た。

「レイナにも会いたかったしね」


 ははっ……

 エイデンの視線が怖くて乾いた笑いしか出てこない。


「その節は妻が大変お世話になりました」


 エイデンったら、また妻って言ったわ。エイデンが妻と言う言葉を強調するもんだから、慣れない言葉に胸がときめいてしまう。


「いやいや。レイナみたいな可愛い子ならいつだって大歓迎だよ。そうだ。マルコのついでに、レイナももらって帰っちゃおうかな」


 アダムってば、絶対楽しんでるでしょ。


 私にちょっかいを出すことで、アダムがエイデンの反応を見て楽しんでいるのは明らかだ。隣のエイデンから、何だか負のオーラが漂ってくる。


 ちょっとレオナルド様、何とかしてよ!!


 助けを求めてレオナルドを見るけど、ダメだこりゃ。レオナルドはジョアンナと二人して、アダムからのお土産だというケーキに夢中で話なんて聞いちゃいない。もう、頼りにならないんだから。


 ふぅ……

 私の横でエイデンが小さく息をつくのが聞こえた。


「そう言えばお兄様はご結婚されたんですよね」

 おめでとうございます、と満面の笑みを浮かべてエイデンが言った。


「お兄様の結婚相手、アンジェリーナという方はとてもお綺麗な方らしいですね」


 ちょっとエイデン!? それは意地悪なんじゃ……


 アンジェリーナがアダムの元婚約者だった話は、ジョアンナがノースローザンヌから帰ってきた時にしてたはず。だからエイデンもアダムがまだアンジェリーナの事を好きだって知ってるはずなのに……


「ありがとう」


 アダムはエイデンの意地悪に気づいているのかいないのか……平気な顔で答えた。


「もう少し先だけど、子供が生まれるんだ。まいったよ……私がオジサンになるんなんてね」


 やっぱりアダム王子は強いなぁ。

 憂いを含みながらも、嬉しそうに目を細めるアダムを見ていると切なくなってくる。


「……アダム王子、飲みましょう!!」


 エイデンがカイルにシャンパンを持って来るよう命じた。きっとエイデンも、さっきのアダムの顔を見て何か感じることがあったんだろう。エイデンの表情も柔らかくなった気がする。


 何にせよ、二人が仲良くするのは嬉しいことね。


 またいつもの胡散臭いくらいのニッコリ笑顔に戻ってしまったアダムを見ながら、私もシャンパンで乾杯をした。

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