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思い出しちゃダメ!? 溺愛してくる俺様王の事がどうしても思い出せません  作者: 紅花うさぎ


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35.爆発  

 突然ふらりとやって来たアダムが、これまた突然帰って行った翌日、城はいつもの静かな朝を迎えていた。レオナルドの友達とはいえ、アダムは大国の王子。皆気を使っていたのだろう。城で働く人達に疲労の色が見える。


 それは私付きの侍女のビビアンとミアにもいえることで、二人ともアダムが帰った時にはあからさまにホッとしていた。


「でもよかったですね。アダム王子がレイナ様を本気で口説いていたら、今頃フレイムジールとノースローザンヌは戦争になっていたかもしれません」


 ビビアンったら。そんな事になるわけないじゃない。エイデンには及ばないとはいえ、アダムだってかなりの美形なのよ。そんな美形王子がわざわざ私なんかを本気で口説くなんて有り得ない。


 まぁ二人でお茶をする時にはちょっと緊張しちゃったけど。いい感じで乗り切れたんじゃないかしら。


 っていうか、今の私にはアダムより何よりエイデンの誕生日プレゼントよ!! 


「ねぇ二人とも、エイデンへのプレゼントの事で相談があるんだけど……」


 二人にこうやって相談するのは何度目かしら? 二人の顔にはまだ悩んでるの? 的な呆れが見える。


 どうせ二人とも、「エイデン様はレイナ様からのプレゼントでしたら何でも嬉しいのではありませんか?」って言うんだろうな。でもね、エイデンは何でも喜んでくれるだろうからこそ、きちんと考えてプレゼントを渡したいのよ。


「色々考えてみたんだけど……マッサージ券とかってどうかしら?」


「マッサージ券ですか?」

 

 いまいちピンとこないのか、ビビアンが首を傾げた。


「そう、マッサージ券。一枚につき一回マッサージしますよって感じの券を作って渡そうかと思ってるの」


 何か買ってプレゼントすることも考えたんだけど、私のお金って全部エイデンからもらったものなのよね。エイデンのお金でエイデンにプレゼントっていうのも変な話だし、何よりエイデンは何でも持っている。


 去年はグラスを作ってプレゼントしたって聞いたから、今年も何か作れないかと思って考えたんだけど、作れるものが思いつかない。だいたい私はあんまり器用じゃないのよね。


 私の得意な事、得意な事……で思いついたのがマッサージだったというわけだ。


「小さい頃母の誕生日に作って渡してた事を思い出して作ってみようかと思ったんだけど……やっぱり子供みたいでおかしいかしら?」


「そんな事ありません!! マッサージ、最高です。エイデン様がお喜びになること間違いなしです」


 まさかこんなにもビビアンが食い気味に賛成してくれるなんて思いもしなかった。


「ミアもマッサージ券でいいと思う? ん? ミア?」


 念のためミアの意見も聞きたかったけれど、ミアはバルコニーの方に顔を向けたままひどく険しい顔をしている。


「ミア、どうしたの?」


「……なんかバルコニーに人影があった気がしたんだけど……」


 ミアが「気のせいよね」っと言いながら、一応バルコニーの確認に行こうとした時だった。


 ガッシャーン


 ガラスが割れる音と共に、激しい爆風が部屋に入り込んでくる。


 な、何これ? 爆弾か何かなの?

 ミアは? ミアは無事かしら?


 一瞬にして白い煙に包まれてしまった部屋の中ではミアの姿は確認できない。


「レイナ様、こちらへ!!」


 ビビアンの声がして、ぐいっと手を引かれた。廊下に出てもビビアンは止まることなく私をひっぱり走っていく。


「ビビアン、待って!! まだミアが……」


「ミアはきっと大丈夫です」


「でも……」


 立ち止まろうとする私を、ビビアンは無理矢理に走らせようと手をひいた。


「ミアも私もレイナ様をお守りするためにいるのですから。レイナ様にはこのまま逃げていただかないと困ります。このままエイデン様のいらっしゃる執務室まで行けば……」


 その瞬間、私達の目の前の廊下が爆発した。


 う、嘘でしょ……


「レイナ様、こちらです。こちらから参りましょう」


 呆然とする私の手を掴み、ビビアンが再び走り出した。が、執務室へ向かう廊下はまたしても目の前で爆破されてしまった。


 一体何が起こっているのか分からない。爆発騒ぎで城の警備をしている騎士達も集まって来ているが、ビビアンはその騎士達からも逃げるように走っていく。


 これだけ爆発が起こっているということは、警備にあたっている騎士達の中にも爆弾魔がいるかもしれないと考えているらしく、とにかく一刻も早く私をエイデンの元に連れて行きたいようだ。


 けれどこの爆発騒ぎの犯人には私達の動きが分かっているかのように、進む廊下が次々と爆破されていく。


「レイナ様、外です。外からエイデン様をお呼びしましょう」


 はぁはぁと息を切らせながらビビアンが私を連れて来たのは、昨日私がアダムとお茶を飲んだあの庭園の微妙な場所だった。


「こ、ここからエイデン様をお呼びすれば……」

 

 そう言うとビビアンは大きく息を吸い込み、エイデンの名前を数回叫んだ。


「何の騒ぎだ? ん? レイナか?」


 3階の窓からエイデンが身を乗り出したのを見た途端、ほっとして瞳が潤んできた。エイデンはまだこの爆発騒ぎに気付いていなかったのだろう。泣き出した私を見て、ひどく驚いたようだった。


「どうしたレイナ? すぐに行くから待ってろ」


 無言で何度も頷くと、エイデンは窓の奥に姿を消した。


「よかった。きっとすぐにいらっしゃいますよ……」


 けれど、残念ながら私の前に現れたのはエイデンではなかった。


「おい、いたぞ!!」

「いいか! 今度は失敗すんじゃねぇぞ」


 どこからどう見ても悪人にしか見えない男達が私を見てニヤリと笑った。これだけ体格のいい男達に囲まれてしまったら、もうあきらめるしかないんだろうか……


「レイナ様、逃げてー!!」

 男達に突進するビビアンの叫び声で我に返り走り出す。


 そうよ。諦めちゃだめ。もうすぐエイデンが来るんだし、それまで何としても捕まらずに逃げきらなきゃ。


 不意をつかれて驚いている男達の隙間をひょいひょいっと走りぬけ……られなかった。


「んーんー」

 離せぇぇぇ。


 後ろから口元をふさがれ体を引きずられる。ジタバタしてもまるで意味ないかのように男に担ぎあげられてしまった。


 いやだと思った瞬間、何か黒い物が目の端で動いた。私を担いだ男の体がグラリとゆれる。落ちそうになる私を受け止めたのは、全身黒ずくめ、目だけがかろうじて見えるレベルの怪しい人物だった。


 また悪そうなのが来たー!!


 黒ずくめの男は身構える私を立たせると、襲いかかってくる他の男達を倒していく。


「レイナ様、ここは私が抑えますので、早くエイデン様の所へ……」


 この真っ黒マスクマンが味方なのかは分からないけど、逃がしてくれるならありがたい。とにかく走り、たどり着いたのは庭の奥だった。さっきの男が防いでくれているからか、誰も追ってはきていない。


「はぁ。何なのよ、もぅ……」


 あの男達は私を狙っていたみたいだった。じゃあ部屋が爆発したのも、廊下が爆破されたのも、私を庭に誘き出すため?


 どうして私を……?

 どうしよう、このまま逃げる? でもどこへ? それともどこかに隠れた方がいいのかしら?


 必死で頭を回転させるけど、いい考えは全く思い浮かばない。


「……よかった。来てくれたんですね。違う場所に逃げられたらどうしようかと思ってました」


 だ、誰?


 突然木の影から現れた少女が可愛らしくにっこりと笑った。


「レイナ様、お久しぶりです……記憶がないというのは、本当みたいですね」


 金色の柔らかな髪の毛をたなびかせながら、少女が一歩近づいた。


 確かに私はこの子のことは全く知らない。だけど私の本能が彼女は危険だと告げている。


「あ、あなたは誰なの?」


「……」


 少女は人形のように愛らしい笑みを浮かべたまま何も答えなかった。少女が一歩、一歩と近づくのに合わせて、私も一歩ずつ後ずさる。


「うふふ。今回はもう逃げられませんよ」

 そう言った少女の手にキラリと光るものが見えた。


 も、もしかして、ナイフ?

 

 慌てて2歩後退りすると、トンっと背中に硬さを感じた。いつの間にか、塀に追い込まれていたらしい。逃げ場を失った私を見て、少女がふふっと可愛らしい笑い声をあげた。


「レイナ様、ごきげんよう」


 ナイフを前に構え、私に向かって走り寄る少女を見て息がとまる。


 もうダメだ……


「レイナー!」

 

 諦めて瞳を閉じた私の体を、誰かがものすごい力でがっちりと抱きしめた。驚いて目を開けた私が見たのは、私を抱きしめていたエイデンが、ゆっくりと倒れこんでいくところだった。


「エイデン!!」


 腕を伸ばして倒れ込む体を抱き抱えようとするも、私の力では支えきれず二人して芝生に倒れこんだ。


「私、私……」

 エイデンの血で赤く染まったナイフを見つめながら少女が呟く。

「……こんなはずじゃなかったのに……」

 少女の手からナイフが滑り落ちた。


「レイナ……間に合ってよかった」


 私の膝の上に頭を乗せるようにして横たわったまま、エイデンが私の頬に優しく触れる。その顔は刺されたばかりの人には思えないほど穏やかだった。


「エイデン」


 私の呼びかけにエイデンが力なく微笑んだ。その手に必死でしがみつく。


 どうしよう……エイデンの血がこんなに……

 涙が頬を伝ってエイデンの頬へと落ちた。


「泣くな。俺は大丈夫だから……」


 お願いエイデン、死なないで。

 誰か、誰か助けて……


 うっとエイデンの顔が苦しそうに歪んだ。エイデンの瞳が燃えるような赤色に変わる。その瞬間あたり一帯が炎に包まれた。


「レイナ……愛してるよ……」


「エイデン、私も愛してるわ」


 私に触れていたエイデンの手がだらんと力なく落ちた。その直前、エイデンが今までで一番幸せそうな顔をして笑った気がした。

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