34.アダムとのお茶会
昨日エイデンからアダムと二人きりになるなとキツく言われたにも関わらず、なぜだかアダムと二人でお茶会をすることが決まったのは30分前のことだ。
仕方なく準備をして言われた場所に来てみると、なぜか庭の美しい場所ではなく城に近い端の部分にテーブルと椅子が用意されていた。
「せっかくマリーゴールドとサルビアが綺麗に咲いてるのよ。何もこんな端じゃなくってもいいのに」
「申し訳ありません、レイナ様。エイデン様からこちらに用意するようにと言われてまして……」
城の壁を眺めながらのお茶会なんて、アダムに申し訳ない。
「いや。これはこれでなかなか面白いよ」
興味深そうにキョロキョロと当たりを見回していたアダムが、城の上階の方を見てニヤリと笑った気がした。
「急に呼び出して悪かったね」
「いえ……でも、レオナルド様も一緒の方が良かったんじゃありませんか?」
「お邪魔虫はいらないよ。やっと二人きりになれたんだからね」
ど、どうしよう……
なんて言葉を返したらいいのか分からない。
とりあえず側にビビアン、庭の少し奥にマルコの姿を確認してなんとか気持ちを落ち着かせる。大丈夫、本当に二人きりってわけじゃない。
「君の事は噂に聞いていたからね。ずっと会いたいと思っていたんだ」
そう言いながら、アダムが私の手を軽く握った。
嘘でしょ!!
さすがエイデンが心配するくらいの女たらしだけある。あんまりにも自然に触られてしまった。
慌てて手をひっこめる私を見つめながらアダムがふっと口元を緩める。
「君はとっても可愛いね」
何だろう……?
可愛いって言われたのに全然嬉しくない。それどころか鳥肌が立つようなゾワゾワ感がある。
「エイデンと仲はいいの?」
「はい。とても仲良しですよ」
「それはよかった。心配してたんだよ。君がエイデンの元婚約者と会ったっていう話を耳にしたから」
大国会議の晩餐会の話をレオナルドから聞いたのだろうか?
「エイデンも酷い男だよね。元婚約者がいる場所に君を連れて行くんなんて」
「仕方ないですよ。エイデンはクリスティーナ様がいらっしゃるのを知らなかったんですから」
「……へぇ。君はとっても優しいんだね」
アダムが体を前のめりにしながら手をのばす。その手が私の髪の毛に触れた。
「好きになってしまいそうだと言ったら……君は困るかい?」
「困ると言うより迷惑です!!」
アダムは私の返事に驚いた顔をして、髪の毛に触れていた手を離した。
「迷惑か……」
アダムが小さく呟いた。気まずい空気が二人の間を流れていく。
どうしよう……今更フォローなんてできないし……
アダムがグイグイ距離をつめてくるのが嫌で、つい本音を言ってしまった。さすがにまずかったかなっと、頭の中は軽くパニック状態だ。
コトン
「こちらはアダム様からお土産にいただいたパイになります」
さすがビビアン。絶妙なタイミングで切り分けたパイのお皿を私達の前へと並べた。
アップルパイかしら?
表面のツヤツヤがとてもいい感じだ。
「気に入ってもらえればいいんだけど」
アダムに見つめられながら、パイを一口……
「んんーっ」
あまりの美味しさに、思わず頬に手がいってしまう。これはただのアップルパイじゃない。中にスイートポテトまで入っている。甘酸っぱいりんごと、甘くて滑らかなさつまいもが絶妙のバランスだ。
「気に入ってもらえたかな?」
「はい。すっごく美味しいです」
クククっ。
突然アダムがおかしそうに笑い始めた。
「あ、あの……アダム様?」
今のやりとりの、どこに笑うところがあったのかしら?
「いや、すまないね。さっきまでは明らかに作り笑顔だったのに、パイを食べたとたんに満面の笑みになるもんだからおかしくって……」
あらら。一生懸命作り笑いをしてたのはバレバレだったみたいね。パイを食べたとたんに思わず顔が緩むなんて、何だか恥ずかしい。
「結構ショックだよ。二人きりなのに、私に夢中にならずパイに夢中になる女性なんて今までいなかったからね」
ショックと言っている割に、アダムの口調は明るい。
たしかにキレイな顔立ちだもん。夢中になる女性は多いだろうな。
肩まである軽くウェーブのかかったのダークブロンドの髪は後ろで束ねているせいか、顔にかかるおくりげが何だか妙に艶っぽい。
でもだからって、私はそう簡単に夢中になったりしないもんね。
「ごめんなさい。私、イケメンに耐性があるので」
へっ? とアダムが一瞬キョトンとした顔をする。その顔がさっきまでの色気を醸し出すものとは違い、子供のようで思わずクスリと笑ってしまった。
「私はエイデンとレオナルド様を毎日見ているんですよ。いくらアダム様がかっこよくても、そんな簡単にのぼせ上がったりしませんから」
「残念だな。君を奪われた時のエイデンが、どんな顔をするのか見たかったのに」
アダムは楽しそうな声をあげて笑った。
「……エイデンのこと、お嫌いなんですか?」
「ああ。嫌いだね」
こうもはっきり嫌いだと言われてしまっては、何と返事をしていいのか分からない。困っている私を見てアダムはニヤリと笑った。
「私はね、自分より男前とモテる男は皆嫌いなんだ。だからエイデンの事は大嫌いだよ」
なぁんだ。
エイデンを嫌いな理由が大したことなくてほっとした。
「エイデンって……やっぱりモテるんですか?」
私達のカップに新たに紅茶が注がれていく。
湯気のたつカップを持ち上げながら、「そりゃあね」とアダムが答えた。
「ルックスだけでもかなりなもんなのに、あの若さでこのフレイムジールの王なんだから。皆が夢中になるのも当然だよね」
イタズラっ子のようなニヤニヤ顔で、アダムが私の顔を覗きこんだ。
「心配になったかい?」
「大丈夫です。エイデンのこと信じてますから」
もちろん全く心配がないわけじゃない。でもエイデンはいつも私を真っ直ぐに愛してくれている。だから私もエイデンを信じなくちゃ。
「それは残念。私の付け入る隙はなさそうだね」
「はい。全くありませんよ」
二人で顔を見合わせ、声を出して笑った。
「さぁ、そろそろ戻ろうか。君の婚約者を怒らせて火をつけられたら大変だ」
そう言いながらアダムが立ち上がった。
「今日は付き合ってくれてありがとう。とても楽しかったよ」
「こちらこそありがとうございました」
アダムの差し出した手を握ると、握り返された手をぐいっと引き寄せられる。
えっ?
見上げると、アダムの顔が真上にあった。
「ア、アダム王子?」
「いいこと教えてあげよう」
アダムが私にだけ聞こえるよう、私の耳元で囁いた。
「お茶会がこの場所なのはね、エイデンが君の事を心配で心配でたまらないからなんだよ……」
「それはどういう……」
ちゅっ。
意味が分からず首を傾げた私のおでこにアダムが軽くキスをした。
ちょ、ちょっと……油断も隙もない……
おでこを抑え、呆然とする私を見てアダムは声を出して笑いながら去って行った。




