18.マッサージ
「起きてるか?」
エイデンが私の部屋に顔を出したのは夜中の12時を少し過ぎた頃だった。
「これを渡したくて」
エイデンが手渡してくれた袋にはジャムが数瓶入っていた。
「どうしたの!? こんなにたくさん」
「昨日どれを買うか悩んでただろ。とりあえずレイナが好きそうなのを一通り買って来た」
もうエイデンったら。忙しいのにわざわざ私のために買って来てくれるなんて……こんなことされたら、もっと好きになっちゃうじゃない。
喜ぶ私を見てエイデンも満足そうに笑った。
「でもちょっと残念だな。この時間じゃ一緒に食べれないね」
「明日の朝一緒に食えばいい」
「朝は時間がとれるの?」
「あぁ。そのためにレオナルドに仕事を押し付けて来たからな」
あらら。またレオナルドの愚痴が増えそうね。でもやった。エイデンと一緒なんて嬉しい。
「そういえば、レオナルドにマッサージをしてやったんだって?」
どうやら今朝の足つぼマッサージの話をレオナルドから聞いたらしい。
「俺にはしてくれないのか?」
「えっ!? えーっと……」
エイデンにマッサージ!?
してあげたい気もするけど、エイデンの足にベタベタ触るのって、考えただけで心臓がバクバクしてきちゃう。
不思議よね。双子で同じ顔してるのに、レオナルドには何にも感じないのに、エイデンだとドキドキしちゃうなんて。
「……じゃ、じゃあ今度ゆっくり……」
「いや、今度じゃなくて今すぐだ」
そんな事言っても心の準備が……
マッサージをするかしないか、どうしようと悩んでいる私の目の前で、エイデンが突然シャツのボタンを外し始めた。
へっ!?
呆気にとられている間に、エイデンの上半身からシャツがなくなった。
うわぁ、いい身体!!
引き締まった筋肉に思わずヨダレが……じゃなくって……
「エイデンってば、何で服脱いじゃってんの?」
「マッサージするのにシャツは邪魔だろ?」
逞しい身体を私に見せつけるように、ニヤリと笑ったエイデンが憎らしい。
「せっかくだから、背中と腰のマッサージをしてもらおうか。ミアから聞いたぞ。得意なんだろ?」
「そ、そんなの無理だよ」
こうやって見てるだけで心臓爆発寸前なのに、エイデンの裸に触るなんて……
ダメ。考えただけで、鼻血が出ちゃいそう。これじゃマッサージ終了までに出血多量で私が死んでしまう。
「くくくっ」
小さな笑いを堪えるような音が聞こえる。
「エ、エイデン?」
堪えられなくなったのか、エイデンがははははっと声をあげて笑った。
「もう!! からかったのね?」
口を尖らせてむくれながら、笑いがおさまらないエイデンに非難の目をむけた。
「悪かったよ。レイナがレオナルドと仲いいもんだから、つい意地悪しちまった」
口では謝ってるのに、エイデンってばまだ笑ってる。もう知らない。
ぷいっとそっぽを向いた私を引き寄せると、エイデンはそのまま横抱きに抱えた。
「俺が悪かったから、そんなに怒るなよ」
うわぉ。エイデン、シャツ着てシャツ〜!!
上半身裸のまま抱かれてしまったら、もう怒るどこるじゃない。
静かにパニック状態の私に気づいているのかいないのか、エイデンは私をそっとベッドの上におろした。
「レイナにマッサージしてもらうのもいいが、俺はどちらかというとする方が好きだな」
ベッドに寝かされ、半裸のままのエイデンに見下ろされる。体が密着していないとはいえ、この体勢は無理。爆発する!!
「なぁ、レイナ……してやろうか?」
色っぽく囁かないで!!
「だ、大丈夫。私、疲れてないから」
慌てて体を起こすと、エイデンは真面目な顔をして私の首筋を撫でた。エイデンに触られた所から、ゾクゾクとした快感が体を駆け抜ける。
「本当にしてほしくない?」
「マ、マッサージなんてされたら、私ドキドキしすぎて死んじゃう」
「なんだそれ?」
エイデンがおかしそうな笑い声をあげた。
もしかすると、またからかわれていたのかもしれないけど、もう怒る気力なんてない。どちらかというと怒りよりホッとする気持ちの方が強かった。
本当にあのままマッサージされたら、私はどうなっていたか分からない。ほぅっと大きく息をついた瞬間……
ちゅっ。エイデンが私の首筋にキスをした。
「!!」
不意をつかれ、思わずキスされた首を押さえる。
「おいレイナ。あんまり俺に嫉妬させるな」
「嫉妬!?」
嫉妬なんてさせた事あったかしら?
うーん。全く身に覚えがないですけど。
「レオナルドにマッサージしたのが気に入らない」
なぁんだ。その事か……
「マッサージって言っても、ただの足つぼマッサージだし」
「それでも、気に入らないものは気に入らない。レイナに触れていいのも、レイナが触れていいのもこの俺だけだ」
「なぁに、それ……」
大袈裟だと笑った私を、エイデンが強く抱きしめた。
「レイナは俺の……俺だけのものだ」
きつく抱きしめられていてエイデンの顔は見えない。ただ耳に息がかかるほど近くで囁かれる言葉には、少しだけ必死さが感じられた。何だか胸が締め付けられるように苦しい。
「……ごめんね……もう他の人にはしないわ」
私を抱きしめるエイデンを精一杯の力で抱きしめ返した。




