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思い出しちゃダメ!? 溺愛してくる俺様王の事がどうしても思い出せません  作者: 紅花うさぎ


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16.誕生日

 ケホっ。


 喉がイガイガと乾く感じがして咳が出る。私の咳を気にしたビビアンが急いで窓を閉めた。


「レイナ様大丈夫ですか? 風邪をひかれたのではないといいんですが」


「風邪じゃなくて、なんだか喉が乾燥してるみたい」


「この時期のフレイムジールはとても乾燥しますからね」


 ビビアンが入れてくれた温かいお茶を飲み、やっと喉が落ちついた。


 あーあ。今日が私の誕生日だってこと、結局エイデンに言えなかったなぁ。


 窓の外に広がる冬の空を見ながら、一年なんてあっという間だということを実感する。 


 最近のエイデンは本当に忙しそうで、顔を合わせることもほとんどない。こんな事なら誕生日だからってワガママいって、今日くらい一緒に過ごしてもらえばよかったかなぁ。でも自分から今日が誕生日って言うのは、お祝いしてって催促してるみたいに聞こえそうで嫌なのよね。


「ねぇビビアン? エイデンの今日の予定知ってる?」


「今日は朝から視察だったはずですよ」


 じゃあ今日も忙しくて会えそうもないわね。

 今更後悔しても遅いけど、今日エイデンに会えないのはとっても寂しい。


「最近はレオナルド様もカイル様も、皆様忙しいみたいですね」


 これまで毎日部屋に来ていたレオナルドがめっきり現れないもんだから、ビビアンは少し寂しそうだ。


「カイルが忙しいおかげで、私は妃修行しろってうるさく言われなくて助かっちゃった」


「レイナ様ってば。カイル様がいなくても、お妃修行は頑張ってくださいませ」


「分かってるわ。でもカイルってば細かいことばかり言うから、つい反発したくなっちゃうのよね」


「その気持ちは分かりますけど」


 噂をすれば影がさす……

 ビビアンと二人で笑っていると、突然カイルが部屋へやってきた。


「おはようございます、レイナ様。お妃修行の方は順調ですか?」


「も、もちろん順調よ。任せといて」


 胸をはる私に、カイルはやや疑いの眼差しをむけた。まさかビビアンとの会話、聞かれてたわけじゃないわよね?


「ならいいんですが……それはそうと、今日はレイナ様にやっていただきたいことがあります」


 カイルは机の上に服や靴などを置いた。なんだか見覚えがあるなと思ったら、それは私がこの城に来るまで着ていたものだった。


「レイナ様には、今からこちらに着替えていただきます」


「これに!?」


 着替えるのは構わないけど、メイド時代の服だから、質素だしかなりボロいのよね。しかもかなり薄くて寒いし。

 

「はい。本日レイナ様には、私の代わりに陛下の視察に付き合っていただきます」


 正体を隠しての視察なため、変装が必要なのだとカイルは言った。


 エイデンと一緒にお出かけできる!?

 さっきまで沈んでいた気分が一気に高揚した。


「それにしても……そのみすぼらしい服装に全く違和感がないですね」


 着替え終えた私を見てカイルが気の毒そうな表情を浮かべた。


「これでは誰が見ても未来の王妃には見えませんよ」


 そりゃそうよ。

 そんな簡単に高貴な雰囲気なんて出せませんから。


 でも今はそんな事全く気にならない。嬉しすぎて小走りで城門まで行くと、すでにエイデンが私を待っていた。


 きゃー。エイデンの変装姿、めちゃくちゃカッコいい。普段のかっちりとした姿ももちろん素敵だけど、初めて見るラフな服装に何だかドキドキしてしまう。特徴的な髪の毛を隠すためなのだろう。被っているニット帽姿はなかなかおしゃれだ。


 しかも何あの眼鏡!! 

 眼鏡をかけたエイデンは知的な感じに見えて、いつも以上に大人っぽくてセクシーだ。


「どうかしたか?」

 

「あっ……眼鏡かけてるの、初めて見るなって思って……」


 どうしよ。かっこよすぎて緊張しちゃう。


「あ、これか? 一応顔ばれしないようにかけてみたんだが。レイナが気になるなら外しとくか」


「ダメ!! 外さないで」


 エイデンが眼鏡を外しポケットへ入れようとするのを見て慌てて止めちゃったけど、思った以上に大きな声が出て自分でもびっくりだ。


「め、眼鏡はかけたままがいいな」

 

「そりゃ構わないが……」

 エイデンが笑いながら再び眼鏡をかけた。


 あぁ、やっぱりかっこいい。正直眼鏡をかけた方がタイプかもしれない。


「やばいな。レイナがそんな顔するからキスしたくなってきた」


 エイデンが私を引き寄せようと伸ばした手を慌てて押し返した。


「こんなに人がたくさんいる所で何言ってるの!?」


 私達の周りには城門を守っている騎士とエイデンの護衛が何人もいる。もちろん皆、私達をジロジロ見てないけど、見られてるのは分かってるんだからキスなんてできません。


「人がいなきゃいいんなら、部屋に行くか?」


「行きません」


 きっぱりと言った私に、エイデンは声を出して笑った。


「今は我慢してやるから、帰ったら俺が満足するまで付き合えよ」


 私を覗きこんだエイデンの顔があまりにもかっこよくて……やっぱり今すぐキスしてー!! って言っちゃいそうになった自分が恥ずかしい。


 平常心よ、平常心!!

 エイデンの唇を意識しないよう他の事を考えながらやってきた街は想像以上に賑わっていた。


「すごい! 人がたくさんいるのね」


「レイナは街に来るのは初めてだったか?」


「こちら側に来るのは初めてよ。前に反対側にあるウィリアム様のガラス工房には行ったけど」


「ああ。そういやそうだったな。あっちは工房とかが多くある職人のエリアだ」


「それで今日はどこを視察するの?」


 色々興奮しすぎて、今日の目的地を聞くのをすっかり忘れていた。


「レイナはどこに行きたい?」


「へっ!?」


「今日は街全体の視察だからどこでもいいんだ。レイナが行きたい所を決めてくれ」


 えー。何それ。めちゃくちゃ嬉しいんだけど。こんな事ならビビアンとミアに相談して、最近何が流行っているのか聞いておけばよかった。


「そんな難しい顔すんな」


 エイデンが私の眉間の皺を人差し指で伸ばすように触れながら笑った。


「時間はたっぷりあるんだ。歩きながら気になった所は全部寄ればいい」


 街には気になるものがたくさんあった。ワゴン販売や道端の露店にショップ。気になる物を片っ端から見ていく。


「少し休むか?」


 はしゃぎ過ぎて疲れたのがバレちゃったかしら。噴水のある広場のベンチで、エイデンは温かい梅ジュースを買ってくれた。何だか懐かしい味のする梅ジュースはとても美味しくて、肌寒いこの季節にはぴったりだ。


「ふふっ」

 なんでもないのに、自然に口元から笑みがこぼれた。


「どうしたんだ?」


 梅ジュースを飲み干し、エイデンが不思議そうな顔で私を見た。


「とっても幸せだなって思ってたの」


 エイデンとこんな風に過ごせて、もう、本当に楽しい。なんだかデートみたいだし。


「でもいいの? 私のしたい事ばかりしてるけど、ちゃんと視察になってる?」


「あぁ。こうやって人々の中に混じってみて初めて分かることもあるからな。有意義な視察になってるぞ」


 ならよかった。


「みんな生き生きした顔してるね」


「ああ……」


 エイデンと二人、座ったまま行き交う人々を眺めた。街の活気や人々の笑顔から、この国が豊かで平和なのだということがよく分かる。


「さぁ、次はどこに行くかな?」


 エイデンは立ち上がりながら、私の頭をぽんっと叩いた。


「あっ。このお店入ってもいい?」


 私が気になったのはジャムの専門店だ。店は小さいけれど、棚には様々な種類のジャムが並べられている。


「レイナはジャムが好きだよな? 何か買って行くか?」


「いいの?」


 もちろんだという返事をもらい、棚に置かれたジャムを順番に見て行く。


 いちご、マーマーレード、桃にメロン……いやーん。これだけたくさんあると迷っちゃう。どれも美味しそうでなかなか決められない。


「どれとどれで悩んでんだ?」


 エイデンが棚の前から動かない私の横に立った。


「いちごと桃かな。あと林檎。あっ、このミルクも気になるな……」


「それなら全部買えばいいだろ」


 店員に注文しようとするエイデンを焦って止めた。


「ま、待って。すぐに決めるから。えーっと……桃!! 桃にするわ」


 包んでもらったジャムのビンを持って店の外に出た。


「エイデン、ありがとう。帰ったら早速食べちゃおっと」


「何で一つしか買わねーんだ」


 全部買えばよかったのにとエイデンは不満そうだ。


「全部って……ビンを持って歩くのは大変じゃない。それにこのジャム高級だもの。一つで充分よ」


「……他に何か欲しいものがあれば何でも言えよ」


 そのまま二人でショッピングを楽しんでいるうちに、あっと言う間に夕方になってしまった。沈みはじめた太陽を見ながらエイデンと二人、森の中を歩いて城へと戻る。


「エイデン今日はありがとう。とっても楽しかったわ」


 思いがけず幸せな誕生日になった事に満足しながら、エイデンの手をきゅっと握った。

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