第16話 アランとセンリとユニークボス
第七位階上位
次の目標は、アラン。
本日カナデは強力な捕食能力を用いて、ソロでの食い倒れ旅を敢行しているので、アランは1人だ。
彼がいる場所は、人のいない湖の迷宮。
流石の僕と言えども、食生活は普通なので、おたまじゃくしやカエルを食べた事は無い。
おたまじゃくしは殆どが内臓で食い出が無いと聞くが、泥を抜いて臭みを消すと存外食べれる味らしい。
ポターヌスは一抱えもある巨大なおたまじゃくしなので、まともに調理しようとすれば食べられる部分も多い事だろう。
背後霊となって見守るが、水の魔法をポンポン撃ってくるとは言え所詮はおたまじゃくし。陸に近寄ってくればアランの斧が振り下ろされ、真っ二つになって死に絶える。
勿論、湖の迷宮にはおたまじゃくし以外の魔物もいる。
円形の迷宮の内側はおたまじゃくしとカエルの楽園だが、外側にはちゃんと淡水魚や水生昆虫等が生息しているのだ。
ここで僕は、湖の迷宮にちょっとした問題が発生している事に気付いた。
空を見上げる。
敵は、湖の中心側から此方へ向かって飛んできていた。
カリクレクス LV113
——巨大なタガメだ。
レベルがやたらと高いのは、おそらく僕がこの迷宮の主的存在であるカエルさんを駆逐していたせい。
レベルを上げたタガメがおたまじゃくしを捕食し始め、遂にはおたまじゃくしやカエル達を殲滅出来るレベルまで至ったからだろう。
肉体のスペックとレベルから考えて、この迷宮の裏ボスであるカエル女王も捕食されたか。
流石のアランでも、これには勝てないだろう。
と言う訳で、アランをツンツンする。
「? んおっ!? ……ユキか、おどろかさないでくれよ」
「そんな事より、アラン、アラン。アレ」
僕がお空を指差すと、アランは何の疑いもなくその先を見上げた。
「……なー、んだ……アレは」
明らかに此方を狙って飛来する巨大昆虫に、アランは言葉を失った。
狂戦士の斧は強力だが、精々属性金属を少し鍛えた程度の代物。
レベル100代には通用するものの、適正は100以下までだ。
アランの技量と敵の硬さを考えると……一応歯が立たないと言う事は無い。
ここに援護として補助魔法を掛ければ……一撃くらえばほぼおしまいなのに変わりはないが、勝率はググッと上がる。
と言う訳で、僕はプレイヤーの家具・オーナメント類として作った小さな鐘を取り出し、カーンと打ち鳴らした。
音に演奏魔法による補助を乗せて。
空を見上げていたアランは、その音ではっと動き出す。
「……いやっ、カーンて」
此方を振り返ったアランに対し、僕は親指を立てて微笑んだ。
補助魔法を掛けられた事に気付いたアランは、引きつった笑みを浮かべ、ヤケクソ気味に声を上げる。
「……くっそ、やってやる! レベル見えないけど!」
「頑張ってねー」
アランなら勝てるだろう。多分。
……それにしても、環境が大きく変化したタイミングでは昆虫系の魔物が台頭してくるパターンが多い様だね。
おそらく、昆虫達の方がより本能に忠実で、生存と進化への渇望が大きいのだろう。
◇
さて、次は、珍しく1人で山の迷宮を突き進むセンリ。
レベル50ともなれば、そのスタミナは無尽蔵。
一撃必殺の刃が閃き、襲い掛かる狼やらゴブリンやら鹿に熊にと、草を払う様に切り捨てる。
センリに渡した武器、闇骨剣は、斬れ味、強度、共に非常に高い水準の刀だが、どうも基本的な性質がセンリに合っていない。
闇骨剣の主な力は、斬った対象をアンデット化させると言う物だが、それを一切使っていないのだ。
この他にも、魂魄へ直接ダメージを与える為傷が治り辛くなると言う特異性があるのだが、それらの本来の戦い方は、アンデット化させた対象に魂魄攻撃の特性を付与すると言う物。
つまり、闇骨剣は軍勢タイプの武器なのだ。
センリのスタイルでは、闇骨剣の真価を殆ど発揮できないのである。
明日は皆の装備の再調整も行おう。
そうこうしてる内に、センリは各地の色付き魔物を手際良く殲滅し、山の迷宮のボス部屋に到着した。
山の迷宮のボスは、ワームだ。
細長い体には堅固な鱗。口腔には鋭い牙が無数に並び、獲物の気配を感じてポタリと垂れた唾液は、スライムの比じゃない強酸だ。
通常ならば、ワームは狭い坑道等に現れ、壁や天井を自由自在に掘り進んで襲い掛かってくる。
今回は特別に用意されたボス部屋であり、広い空間と硬い床や壁は、亜竜種であるワームをアスファルトの上でのたうつミミズに変える。
まぁ、その巨体と鱗と酸液から並大抵の人では敵わない強敵であるのは間違い無いが、環境によりその優位性が大きく損なわれているのも間違い無い。
対するセンリは、恐れるでもなく刀を腰に添えた。
「——Gooonn!!」
体の殆どが消化器官であるワームは、その長い体で何処か笛の音にも似た声を上げるや、センリへと襲い掛かって来た。
センリは飛び掛かりを一歩、斜め前に踏み出す事で回避し、同時に体勢を低くする。
——そして一撃、斬り上げた。
和澄の抜刀術の一つ『蒼流』だ。
今回は闇骨剣が抜身の刃しかないので、峰に手を添える事で鞘の代わりとした様である。
原理としては、刀を鞘から抜き放つ際にバネ作用を使い、刃の先端を鞘に押し当てる事で一瞬タメを作る。
そして、縮こまらせた体を伸ばし、迅斬の要領で腰から腕、手に掛けて勢いを増し、スナップを効かせて抜き放つ事で、素早い斬撃を可能とする技法。
主に上に伸ばされた手の肘から先端までが殺傷範囲で、具体的には心臓と頭を真っ二つにする技だ。
狭い場所で素早く敵を無力化する為の剣である。
使い方は、敵の動きを見切って躱してから斬る後の後『燕蒼流』か、敵が動く前に幻歩を用いて接近して斬る先の先『朧蒼流』だ。
これをやると鞘が壊れたり刃が潰れたりするので、真剣での練習は殆ど経験が無い筈だが、余裕で成功させるのは流石はチサトと言った所。
一抱えもあるワームの胴を半分切り裂き、追撃。
斬り上げられた刀を振り下ろす『流弧』。
伸びた体を引き戻し、迅斬と遠心力を多分に用い、屈み込む様に斬る『燕流弧』。
そこから、足、腰、手を使う迅斬の突き『弧葉絶』。
更に全身の筋肉を一気に使う『鋼身』を用い、ワームの勢いを利用して身体の半ばから尾の先までを一息に切り裂いた。
鋼身は鈍器で殴ったり敵の勢いを受け流す時に使う技で、斬って抜ける和澄や柳では使わない技術だ。
おそらく、マガネやアランと合流してから覚えたのだろう。
マガネは基本的に鋼身を使って盾で殴ったり衝突の勢いを地面に受け流しているし、アランは何をするにも鋼身の様な技術を使う。
……アランは鈴守所縁の家から分化した家の者なのかもしれない。
その後もセンリは、肉体を再生させて襲い掛かってくるワームを切り裂き、吐き出された酸液や魔法による投石を余裕で避ける。
終いにはワームの呼吸を見抜いて幻歩で接近、ワームをめった斬りにして勝利をもぎ取った。
何気に戦いの中で魔法発動の予兆を感知したり、幻歩では魔力をその場に残してワームの気配察知を惑わし、振るわれる刀には斬属性が宿っている。
デコイも斬属性も大したレベルでは無いので、おそらく直感的な物なのだろう。
しかし……チサトがここまで出来るとは……これはチサトより格上の筈のアヤとかタクとかにも期待が大き——
《【討伐クエスト】『水辺の大喰らい』をクリアしました》
む? ……アランがタガメを倒したのか。
《【討伐クエスト】『水辺の大喰らい』をクリアしました》
む? ……(大喰らい? カナデ——)ああ、アランがタガメを倒したのか。





