第10話 夢を唄いて現を歩む
第七位階上位
光が収まり、気付くと僕は神になっていた。
夢現神の再来である。
多少精神力が回復している様に思うが、その実単に星珠を取り込んだ事で強大な演算補助が付き、消耗が減っただけだ。
金の神の絶大な補助が無い現状は魔力総量で見れば以前の3分の1、戦闘力はざっと6分の1と言った所か。
……金の力が強過ぎるだけであって僕が弱い訳では無い。
見た目も……ウエディングドレス的なアレより幾らかグレードダウンして、単なるワンピースの様になっている。
体の変化を確認する僕を見て、アリーチェはニコニコと微笑んだ。
「ふふ、ユキちゃん可愛いねー」
「アリーチェも可愛いよ」
「えへへ、ありがとー♪」
そんなやりとりをしつつ、邪魔なアイテムをインベントリに回収。
虹を纏う心器の剣を召喚した。
アリーチェは虹の大剣を掲げ、僕は虹の剣を構える。
これが最後の戦いになるだろう。
◇
万色を纏い振り下ろされた剣撃は、世界を侵食し改変する虹の奔流となって襲い来る。
僕はそれを大きく回り込む様にして回避した。
アリーチェの力は、絶大な創造力と空間支配による創世の力だ。
幾ら今の僕が神の領域に一歩踏み込んでいるとは言え、巻き込まれれば大ダメージは必至。
如何に今の僕がアリーチェより格上とは言え、アリーチェの斬撃が通った空間、即ちアリーチェの支配領域に入れば、その力関係は逆転しかねない。
幸いにして、僕には心強い味方がいる。
防御特化の亀龍ベルツェリーアと、敵に死を与える事においては他の追随を許さない死属性のシュフォール。
そして、アリーチェの創造力に対抗出来る、キッドと真・プチニコラだ。
その内、真・プチニコラは全ての星珠と僕を接続しつつ、アリーチェの支配に抗うと言う大事な役割を担っているので、攻勢に出れるのはキッド達だけとなっている。
僕は虹を纏う蒼銀の剣に死の力を纏わせて、アリーチェを両断する様に振るう。それと同時に、念動力と掛け合わせた虹の魔力弾を4発打ち込む。
放たれた斬撃は、振り向き様に振るわれた逆袈裟により吹き飛ばされたが、魔力弾は1発当たった。
他3発は、逆袈裟の余波と拳と幻想の尾によって弾かれた。
弾けた虹の魔力弾は、濃い僕の属性魔力を振り撒き、アリーチェの五感を妨げる。
そこへ急速接近した僕は——3人に分身した。
「はっ!」
「ふふん♪」
左手側から飛び込んだ偽僕が剣を振り下ろす。
アリーチェは五感を阻害されながらもそれを大剣で易々と迎撃。剣を偽僕ごと切り裂いた。
続け様に背後から近付いた偽僕を叩き潰す。
次の瞬間——僕は鋭く斬り込んだ。
目の前にいる僕に向け、アリーチェは即座に剣を振るおうとするも、それが動かない事に気付いて目を見開く。
「ふっ!」
「っ!」
大きな隙を突いて振り下ろされた僕の斬撃を、流石は神級の存在か、アリーチェは片手を犠牲に防いだ。
追撃に拳を打ち込んでから、今度こそちゃんと振り抜かれたアリーチェの大剣を避け、大きく距離を取る。
落ちた腕は、再利用される前に消しとばしておいた。
……ヴァルゴの鉄壁結界を流用した阻害結界も、限定的な創世の力を行使できるアリーチェを前にしては秒と持たないらしい。
幾度かの交錯を得て分かったが、アリーチェの武術の腕は最初と比べて二段階程上がっている。
アデルとジャヴァウォックを回収したからと言うだけではなく、おそらくだが……アリーチェは支配下にある全ての『原典』の力を行使出来る筈だ。
戦いが長引けば、連戦で弱っている僕が不利。
アリーチェやキッド達には悪いが、魔力総量と質の差で強引に叩き潰す。
◇
創世の力を持つアリーチェを相手に有利に立ち回るにはどうすれば良いのか。
答えは簡単だ。
相手の土俵を潰して抵抗を許さずに滅多斬りにすれば良い。
距離を離せば、創造力によってアリーチェの攻撃は強くなり、僕の攻撃は弱くなる。
万色に満たされたこの世界は、アリーチェの支配する世界だ。
そこでまともに戦おうとすれば、アリーチェが有利なのは必定と言える。
それなら、やる事は一つだ。
接近し、魔力を放出し、限定的に僕の支配空間を作って、アリーチェを滅多斬りにするのだ。
多段に目眩しを行い接近した僕は、一瞬でもアリーチェの動きを止められるヴァルゴの鉄壁結界を張るや、強引に大気に満ちたアリーチェのマナを吸収、分解して僕のマナを放った。
アリーチェは当然それに対抗するが、支配領域から切り離され、魔力総量と質で劣っている為、このままではジリ貧。
その場から脱出すべく、大剣にマナを練り込むも、当然僕はそれを妨害する。
ベルツェリーアの力を込めた鉄壁結界を多数展開してアリーチェの動きを封じ、念動力でアリーチェにマナを注入しつつ抑え込み、創造力による脱出を創造力で妨害する。
そのまま、剣を持つ腕を切り飛ばし、逆手に持ち替えて心臓に突き込んだ。
本当なら痛みを最小に一撃で消しとばしてあげたいけど、その分の魔力を動かすには僕の演算力が足りない。
剣を通じて体内へ死の魔力を注入し、主にアリーチェの胴体から下を構成している魂魄に死を与える。
それに続いて、僕は先のジャヴァウォックの様に、鋭い犬歯でアリーチェの首筋へ喰らい付いた。
牙を突き立て、死の力を流し込む。
果たして——僕の額にアリーチェの唇が触れた。
「……?」
何の攻撃でも無いそれを訝しむ僕に、アリーチェはふにゃりと笑う。
「……また遊んでね♪」
《【神話クエスト】『虹の乙女』をクリアしました》
微笑みながら虹の粒子となって消え行くアリーチェ。
やはり魔力総量や質の差が大きかったか、全力の抑え込みに対して抵抗は不可能と判断した様だ。
……僕の消耗に配慮したのかも知れない。
アリーチェが消えてしまう前に、僕は首筋から離れ、そっと額にキスをした。
「……またね、アリス」
「!? ……うん、またね、ユキ」
少女の笑みを最後に、世界は虹色に包まれる。





