第8話 vs.幻想竜・ジャヴァウォック 二
第七位階上位
ジャヴァウォックが攻撃時に遅滞を解除する理由として、考えられる事は3つ。
1つは、自分の周囲だけ時間遅滞を解除する様にしている場合。
この場合、自分は近接攻撃しか出来ず、尚且つ敵に近付くと敵も自動的に時間遅滞が解除されてしまう為、確率としては高い。
ただし……僕だったら自分の周囲と言わず、自分とその動く先のちょっとだけを解除して敵を斬り捨てるので、アリーチェのジャヴァウォックがそれを出来ないとは思えない。
事実として、接近して剣を振り上げた状態でも、即応されてカウンターがくれば、即座に解除範囲を絞って脱出している。
2つ目は、ジャヴァウォックが時間遅滞を解除せずに動いている場合。
こっちは、移動時に精霊化もとい幽霊化し、時間遅滞の高密度魔力内をそれより遥かに密度が高い魂魄だけになって移動する状態だ。
僕的に言えば、魔覚による魂魄操作で体を動かすと言う物。
勿論コレは消耗が激しく、その状態で何かしらの活動をしようとすると、移動の比ではない消耗が発生する。
無理して攻撃する事は出来るだろうが、進んでやりたい事では無いだろう。
最後は、全て演技である場合。
態々空間遅滞を解除して攻撃するのは、そう言う分かりやすい弱点がありますよーみたいなアピールで、敢えてそれで倒しやすい様にシナリオ通り動いている。
もしくはそれが弱点だと思わせて置いて、いざそこを突いたら致命的な反撃を受ける罠。
前者なら全く問題ないが、後者だった場合、モロに魂魄への直接攻撃を受ける事になるので……試したくはない。
一発くらいなら耐えられるかもしれないが……時刻は既に深夜3時を回っている。
今の消耗率で深刻なダメージを負って眠りに着いた場合、一度寝たら明日の昼くらいまでは起きないだろう。
そうなっては、朝の桃を食べ損ねてしまうのだ。
……それだけは、回避せねばならない。
と言うか、それ以前に僕が昼間まで熟睡してるとしれたら、誰に襲われるかも分からないし、人によっては心配されて気付いたら病院のベットなんて事もあり得る。
と言う訳で、攻撃時の隙を狙って超接近戦を仕掛ける様な攻撃は控えなければならない。
コレが仮に用意された弱点であったとしても、僕はソレを無視する。
さてさて、ではこの状況を打開するには?
方法は2つ。
空間内に満ちたジャヴァウォックの属性魔力を全て除外し、時間遅滞そのものを無くすか、或いは魔覚による魂魄操作で遅滞空間内を自力移動出来る様にするかだ。
そして実は……後者一択だったりする。
前者を実行しようとする場合、夢郷特有の変質しやすい空間の影響を受け、僕の不得手な創造力によって守られているジャヴァウォック属性魔力と相対する事になる。
これを打ち破るには、アリーチェのジャヴァウォックの創造力を超越した創造力のパワーでぶん殴られないといけない訳で……その実現は実質不可能。
いやまぁ、実際の所完全に不可能ではない。
創造力は想像力の延長だ。
それは夢想の領域にある力なので……夢の世界で自由に活動出来るしゅーたんならば、多分ある程度対抗出来る筈だ。
更に言うと、夢の力の根源は多種多様な生命体達の意思の集約なので、此方も数を集めて想像力を集約し、創造力として僕の援護をさせると言う手もある。
しゅーたんを旗頭に、未だ眠っているおおよそ500万弱の魂魄を黒霧に誘導させ、ジャヴァウォックを超える創造力を発生させてコントロールする事は、決して不可能な事では無い。いやどうだろ? しゅーたんコントロール出来るかな? ……全然予測出来ない。
それをしない理由は……しゅーたんと黒霧の消耗が激しくなると予想出来るからだ。
黒霧は、トップクラスの配下の子達がおねむな現状、守りの要なので、あまり消耗させたく無い。
しゅーたんに関して言えば、彼女は未だ子供だ。そして今は寝てる時間である。
と言う訳で、僕が取るべき行動は、自力で動いて自力で倒す、魔覚攻撃に他ならない。
差し当たって、禁忌の聖杯から全魔力を吸収。
極彩豪雨を用いて、ジャヴァウォック近辺以外の城内部全領域に僕属性魔力を多分に含んだ王級魔法を雨霰と発動させた。
これにより、ジャヴァウォックの動きを制限し、尚且つ僕属性魔力を振りまく事でジャヴァウォック属性魔力を中和する。
更に、ジャヴァウォックを覆う様に、終焉の極光による覇級魔法を全て展開する。
背後では凡ゆる物を焼き尽くす爆炎が、正面には全てを切り刻む風球が、左右には万象を飲み込む渦潮と入ったが最後圧縮され無数の刃が突き刺さる土砂が現れる。
その頭上には、黒の球体と僕が加工した光の輪っかが現れた。
退路はない。
隙間はあってもジャヴァウォックでは通り抜けられないし、仮に脱したとしても王級魔法の海に飛び込めばただでは済まない。
これに更に、群星銃による無数の小竜撃弾を撃ち込んだ。
これで、例え時間遅滞を起こしても、迫りくる全てを分解するのや空間を埋める王級魔法から逃れるのは困難だろう。
そして僕は、最後の追撃、もとい最初で最後の一撃を叩き込むべく、意識を魔覚にシフトした。
◇
——刹那、灰氷の剣は飛来した。
空間支配による切断の力を纏った灰氷剣は、ヴァルゴの鉄壁ガードをまるで紙を破るが如く易々と貫き、僕に迫る。
僕は魂魄を操作し、灰氷剣をその左手で払い除けた。
次の瞬間、気付くと、ジャヴァウォックが僕の左手を握っていた。
——体を脱ぎ捨てたのか。
どうやら、肉体での脱出が出来ないと判断したらしいジャヴァウォックは、自らの魂魄を剣に宿し、隙間を狙って投擲した様だ。
空間を埋め尽くす王級魔法で多少は魔力を削れただろうが、それでも高質の空間属性に守られていた為、総合的な消耗は精々2割くらいと言った所か。
ジャヴァウォックは、僕の左手を掴んだまま魂魄の尾を操作し、僕へ攻撃する。
僕はそれを蹴って払い、追撃の蹴りは握られた左手を支点に力を貰って、ついでにジャヴァウォックの足を逸らしつつ受け流す。
すると、今度は爪を揃えて貫手を放って来たので、素早く払い除け、それと同時に腕を掴んで、鳩尾目掛けて膝を叩き込——
『——っ!?』
ガクリと、全身から力が抜けた。
いや、違う。これは、魂魄を操作する演算力を奪われたのか。
左手を通して攻勢魔力が流し込まれている。
——そりゃそうだ。魂魄同士が既に接しているのだから。本来であれば直接戦闘の形を取る必要は無い。
ただ、そちらの方がより魂魄にダメージを与え易いと言うだけで、触れ合っている場所から直接魂魄へ攻撃を送り込む事は可能だ。
魂魄同士のぶつかり合いは、意志の刃が鋭い方が勝つ。
生じさせられた隙を、ジャヴァウォックは見逃さず、長い尾を僕の腰に回して自分と固定し、手足を絡めてしがみ付いて来た。
——そしてジャヴァウォックは牙を剥く。
ギラリと尖る鋭い犬歯には、絶大な空間切断の力が宿っていた。
ジャヴァウォックは僕の喉元を噛みちぎらんと勢い良く接近し——
『——ふっ!』
『ぎぅ!?』
——僕はそれを頭突きで迎撃した。
更に追撃で、攻勢魔力を全身から流し込んだ。
ここで勝負を決めるべくその全てを操って、全力での侵食を開始する。
これは不味いと悟ったか、離れようとするジャヴァウォックを逃さず捕まえ、ついでにもう一発頭突きをしておく。
『んっ!』
『ぎゅ!??』
痛みに顔を顰めたジャヴァウォック。
彼女は暫く抜け出そうともがき、時に攻勢魔力を一点集中する事で僕の魂魄に部分的な負荷を掛けて拘束から脱し様として来た。
しかし、流石にここまで接触していれば、未熟な僕でも相手の思惑は分かる物で、その殆どを未然に防ぐ事が出来た。
何度か角で頬の魂魄を削られたり、尾で背中を抉られたりしたが、その程度は問題無いので、やられるがままに放っておいた。
ジャヴァウォックは徐々にその魂魄を僕に攻め落とされ、力ない抵抗を続け、そして最後に小さく口を開き、僕の首筋にはむりとした所で力尽きた。
キラキラと光の粒になって、ジャヴァウォックが消滅していく。
《【運命クエスト】『奈落の世界の住人達』をクリアしました》
ちょっとひやっとした所もあったが、星珠を消耗させる事なく勝つ事が出来た。
……その分僕の消耗が半端じゃないけどね。
ともあれ、これでクエストはクリア。
後は寝る前に王都周辺に危険が無いかの確認だけして、明日に備えて直ぐに寝よう。





