第43話 白虹の夢
第七位階上位
「おっとと……」
突然浮遊力が失われ、勢いを殺しつつ地面へ着地する。
世界は白をベースに七色を飾った不思議な色に満たされていた。
辺りを見渡す。
遠くが見通せている様に見えるしそう感じるが、同時に近い場所しか見えていない様にも感じる。
足元は見える。僕の手足は何の陰りも無く見る事が出来る。
しかし、直ぐそこが出口となっている筈の振り返った先には、白虹の世界が何処までも広がっていた。
そも、夢の世界は特定地点に踏み込めば一瞬で世界そのものが変わる様な曖昧な世界だ。
だがそれでも一定の秩序は存在する。
例えば木と街灯、家と大樹、山と城。
何かがあって、何かに変わる。
創造力によって変質しやすい物質で構成されているのが、夢の世界の特徴であると推測している。
ところが、この場所はそれらとはまた違っている。
何かがあって、何かに変わる。
夢の世界では世界の隔たりがあっても、その先に何かがあると言う事実だけは認識出来た。
しかしこの場所は、振り返った先にはある筈の夢の世界の気配が無く、靄の先へ僕の瞳を向けても……何も感じ取れない。
あるのは、近いと思えば近くにあり、遠いと思えば遠くにある白虹の色だけ。
キョロキョロと辺りを見渡すも、本当に何もない。
でも……。
「……何も無いのに、何かある……?」
気配が無いのに気配がある。何も無いのに何かある。奇妙で不可思議な感覚。
……頭がバグりそう。
取り敢えず一旦戻ろう。
◇
一旦戻ろう。
そう思って来た方向へ歩いたが、行けども行けども白虹の世界が終わらない。
3歩でやばい所に入ってしまったと理解した。
歩きながら魔力操作を行い、周辺と自己の確認を行なった所……どうもこの世界、一歩毎どころか原子レベル、素粒子レベル、それよりも更に小さな領域で、全てが異世界になっている……っぽい。
観測出来ないので何とも言えないのだが……分かりやすく言えば、無数の創造力で満ちている世界だ。
無数の意思から発生した無限数の夢の吹き溜まり。
それがこの場所なのだろう。
そんな他者の意思で満ちた世界で、僕が無事に存在出来ている理由は簡単だ。
夢の粒子とも言える白虹の意思を僕の意思が上回っており、尚且つそれに自己防衛的に演算して対抗しているからだろう。
何も無いのに何かある謎の感覚は、何かがあり過ぎて僕が認識し切れていない為に起きている現象であり、確実に存在する何かに僕が対抗しているから起きている現象なのだ。
頭バグりそうなのは今も尚無限の夢と戦っているからだ……!
じゃあどうするのかと言うと……単純な魔力操作では先ず如何にもならない。
夢の粒子は一粒一粒は大した物では無く、一粒が人一人の演算力を持つ訳では無い。言わば意思の欠片、いや意思の屑と言っても過言では無い代物だ。
ただ、魔力の手を伸ばせば忽ちに無数の意思片によって僕属性の魔力が変質してしまうだけで。
つまり、この場所では自己を維持するので精一杯なのだ。
考えられる対処法は一つ。
己が犯されない様に意思を保護しつつ夢の粒子を受け入れ、それを矛と鎧にして夢の粒子に対抗する。
必要な力は、夢の粒子の中から己に最も適した粒子を見つけ出す選別力。
それを吸収する同調力。
その上で己を維持する我の強さ。
幸い、最後の一個に関しては自信満々であり、同調力にはそれなりに自信がある。後は気合いで選別するのみだ。
ただ……これって……夢の粒子は一粒一粒が小さい為御し易いが、その実意思の塊なので信仰とも言い換えられる。
夢の粒子を操る事は、神性を操る事と同義ではなかろうか?
……ともあれ、脱出の目処はたった。後は……。
「……ふぁ…………」
僕が目を回してぶっ倒れる前に脱出出来るかどうかだ。
◇
僕と相性の良い神性はそこそこ多いので、如何にか軌道に乗って来た。
銀とか蒼とか鈴とか桃とか、拘ってられないのでごった煮状態ながらも、何となく青っぽくなって来た所で、ソレは唐突に現れた。
——すっごくおっきなピンクの兎。
いつの間にか僕の隣に現れたソレは、ぷーぷー言った後、その鼻先で僕をグイグイ押して来た。
「な、なになにこれ」
何故か懐かれているっぽい。
余裕が無いので何がどうなってるのか全然分からない。
ただ、甘える様にグイグイ押し付けて来るので、取り敢えず撫でておく。
しばらく撫でると、大兎は満足した様にぷーと鳴き、パッと消滅した。
一体何だったのか。今ので僕は更に余裕が無くなってしまった。
しかし、兎は思わぬ置き土産を残して行った。
兎が纏っていた夢の粒子である。
兎が纏っていた夢の粒子は僕と相性が良い物ばかりだったのだ。
おそらく、兎の好意、即ち愛属性が夢属性と混じり合って、僕が受容しやすくなっているのだと思われる。
兎、何者?
「ふぁ……」
取り敢えず、ラッキーだったと思っておく。
凄く眠くなって来たが、これで暫くは大丈夫だろう。
そう安堵した所で、背後から声が聞こえた。
「ママ……?」





