第14話 照れもしないユキが元凶
第四位階中位
待つ事数分。
気配を感じてスマホから顔を上げると、ちょうどミサキが角を曲がってやって来る所だった。
白をベースに臙脂色の花が舞う柄の浴衣を着て、同じデザインの巾着を持ったミサキは、いつもと違って髪を下ろしており……大人びた印象を受ける。
……馬子にも衣装ってこう言う事か? いや失礼か。
「あ、あのっ、タク……ま、待たせちゃった、かな?」
「いや? 掲示板見てたからな、大して待ってねぇさ」
「そ、そう……タクはほんとにゲーム好きよね……」
そう言ってミサキは微笑んだ。
服装のせいか髪型のせいか、その笑みも何処か大人びて見える。
……こう言う時はあれだろ、褒めれば良いんだ。ユキが言ってた。
「浴衣、似合ってるぞ。可愛いよ」
そう言いながら笑い掛け……これはそう。本当に無意識と言うか、最近ちび達と触れ合う機会が多かったのと、ユキ程じゃないがミサキの背が少し低かった事で、頭を撫でそうになった。
同い年の女子の頭を撫でるとか、子供扱いすると怒る子もいるらしい、咄嗟に手を逸らし、ミサキの髪を一房軽く持ち上げる。
——そして失態を悟った。
ミサキが顔を真っ赤にした事で。
「なっ、なななっ……!?」
「おっと、すまん」
髪は女の命とか言ってたしな、勝手に触れたのはマジで悪かった。
悪いと思ったら直ぐ謝る。これ大事な。
まぁ、何が悪いのかは今一分からんが、そんな時は顔を見せない様にしろとユキに言われている。
本気で理解して謝る顔をしていないと駄目なんだそうだ。
ミサキに背を向けて、下駄を履く。
何でも、着物には草履で浴衣には下駄が一般的とからしい。
今俺は浴衣だから、巫女のおば……お姉さん方も下駄を準備してくれていたんだろう。
……っうか、謝って直ぐに離れたのは駄目だったか? いや、ミサキも直ぐに並んだしOKだったか。
「……ミサキは境内は初めてだったか?」
「え? う、うん。と言うか、お祭り自体あんまり行った事無くて……」
「そっか」
うーん、ミサキって結構ぼっち体質だよなぁ。この前のフードコートも初めてとか言ってたし。
ま、初めてならやっぱり最高に楽しませてやらねぇとなっ!
「そんじゃあミサキ。今日できっと、祭り、好きになるぜ」
そう言って俺は手を差し伸べ、おずおずと伸ばされたミサキの手を掴んで、立ち上がらせた。
そのまま手を引いて玄関から出た所で、気付いた。ミサキの顔が赤くなっている事に。
な、なんでだ? ……手? そ、そうか……くそ、俺も学ばねぇな。
子供扱いされると怒るから頭撫でるのを回避したのに、手を引っ張ったりしたらそれこそ怒るだろうよ。
そうと理解したら、引かれるままだったミサキから直ぐに手を離した。
「ぁ……」
ミサキが小さな声を上げた気がしたが、訝しんで顔を見ると、何でも無い! と大きな声を出して歩き出した。
まぁ、良いか。
カランコロンと音を立て、ミサキの後を追いかける。
◇◆◇
お祭り。
同い年くらいの子達が綺麗な着物を着て、楽しそうに遊んでいるのを何度か見た事がある。
昔は全然素直になれなかったから、興味の無い振りをしてたけど……どうしてかな? 今は新しい事を見る度に、楽しそうでやりたいと思える様になった。
でも、祭り、やっぱ駄目ね。楽しいは楽しいけど……人が多いし、なにもかもちょっと値段が……焼きそば1パック600円とか、自分で作れば200円も掛からないし。
……でもでも……なんか、楽しい。
……やっぱり…………た、タクが隣にいるから、かな……。
タクはどう思ってるんだろう? そう思ってチラッと視線を上げると……いなかった。
「え? な、はぐれ……あれ?」
ちょっと慌てて周りを見ると、タクは少し後ろの櫓の前にいた。
近づいて見ると、どうも名札の所を見ているらしい。
掛かってる札は2枚。
セイトって言う確か、リア充っぽい人と……青い札。名前が書いて無いけど……うーん?
「チッ」
その音は喧騒に紛れて消え去る前に、私に届いた。
人波を避けながら早足で歩き出したタク。
いつもと殆ど変わらないのに、その表情は何処か怒っている様で、それでいて……。
なんでかは分からない。
ただ、今手を伸ばさないと、置いていかれてしまう様な、そんな気がした。
歩き去ろうとするタクの手を捕まえて——
「ま、待って」
——視線が合う。
やっぱり、その瞳は何処か寂しげだった。
でも、直ぐにいつものタクに戻った。
「……すまん。早かったか?」
「……ううん。人が多いからさ……はぐれない様にって」
「……そう、だな」
タクは私の手をぎゅっと握った。
なんで怒ったのか、何でちょっと寂しそうだったのか分かんないけど……今は大丈夫そう……良かった。
「なぁ、ミサキ。射的、やろうぜ」
ニッと楽しそうに笑うタクを見て、私はそう思った。
◇◆◇
掛けられたセイトとユキの札。
きっと今、ユキはセイトの好感度稼ぎをしてるんだろう。
薄暗い櫓の上で、2人っきりで。
それがユキのやり方だ。邪魔は出来ない。
「チッ」
何故か無性に腹が立つ。
そう、ユキだ。
そうやって、色んな奴を仲間にして……それが鈴守の家訓だってのは分かるがよ……別に守んなくても良いだろ。俺達がいるのに。
ノイズが走る様に、反論の言葉が浮かぶ。
ユキは、鈴守は合理的だ。仲間を増やす事は何もおかしな事じゃない。何よりセイトの奴は割と強い。
——あぁ、でも
駄目だ、考えるなっ。何処かで誰かがそう叫ぶ声が聞こえた気がした。
——でもよぉ
また、またかよっ。と誰かが怒鳴り付ける。
——俺達は
またそうやってっ。
——そんなに
甘えるの——
——役立たず——
「——ま、待って」
「っ!」
視線が合う。
俺の手を掴んだミサキは、どうしてかとても苦しそうで、それなのに心配するかの様に俺の目を見詰めて来た。
そんなミサキを見ていると、原因のよく分からない苛立ちが薄れていった。
完全になくなった訳じゃあ無いが……そう、今はミサキを案内してるんだった。
「……すまん、早かったか?」
どうも冷静じゃなかった。
案内するって言ったのは俺なのにな。
ミサキは少し困った様に微笑んだ。
「……ううん、人が多いから、さ……はぐれない様にって」
ミサキは控えめに俺の手を握る。
はぐれない様に、か。まぁ、そこまでは混んで無いが……理に適ってはいる。
と言うか……何つーか、心配掛けた感じだな。
「……そう、だな」
謝る意味、ちゃんと案内する意図も込めて、ミサキの手を強く握る。
そういやミサキは可愛い物が好きとかユキが言ってたな……。
それとなく周りを見回すと、目に入ったのは射的屋。そこに置かれた小人熊のぬいぐるみ。
好きな物をプレゼントするのは好感度稼ぎに良いらしいし、詫びの為にもあれを取るとするか。
「なぁ、ミサキ。射的、やろうぜ?」
ラッキーな事にあれは簡単に取れる奴だ。
俺は勝利を確信し、ニヤッと悪い笑みを浮かべてミサキに問い掛けた。





