第13話 喧騒は遠く、光は瞬いて
第七位階上位
四月一日妹の万能統合能力。蘇生の力を持つメイリン・ガダンとその娘。死神のミルクリスちゃんとこのみ。
人形使いアーシア。雷霆ムンディス。超念力のハルソン。絶対支配のゼナード。
限界突破の力を使うユウイチ。治癒と白狼化の術を持つリエ。忍者のアコ。魔眼使い。言霊使い。炎精。他。
欲望の赴くままに改造を加えた。
殆どは覚醒転生者クラスだが、一部は神代転生者レベルまで到達している。
レベルが低く、精神も未だ熟練とは言えないが、それは彼等自身が積み上げて行く物。
各浮遊都市の整備も終わったし、住民の蘇生と最低限の再教育も完了した。
早速、彼等にはマレビト招致に向けた試運転をして貰おう。
◇
人工の火が闇を払う。
行き交う人々は皆笑顔で祭りを楽しみ、遥か空で輝く月が、それを優しく見守っている。
あと四半時もすれば、鈴巫女が舞いを始める時間だ。
今日の担当はアヤ。巫女はチアキとシキナ。
アナザーの方は黒霧に任せているし、それが始まるまでの時間は境内の様子を見て回る事にした……訳だが、流石に本殿と言う事もあり、人波がやや多めであった。
これでも市の祭りや奥響の川沿いでやってる花火大会とかで分散されているのだが、全国から人が来ると言うのは伊達では無い。
山一個の半分を使っているからこその許容量であると言えよう。
用意された椅子や机もほぼ全てが埋まっており、とてもじゃないが休める所はない。まったく幼児に優しくない世界である。
だが、鈴守の関係者には休憩の為の裏技があるのだっ。
そう、今は使われていない複数の櫓である。
関係者以外立ち入り禁止で……カード・キーで開く無駄にハイカラな物見櫓なのだ。
多分……サトリじゃないだろうし、マナカの趣味だろう。まぁ、サトリは不思議な事を良くするので、これもその一環である可能性はあるが。
と言う訳で、桃ラムネ片手に近場のハイカラ櫓へ向かう。
スライド式のドアがある入り口の右上には、小さな突起が10個程並んでいる。
其処には、セイトの札が掛けられていた。
僕もポシェットから真っ青な札を取り出し、背伸びして掛ける。
カード・キーを取り出して中に入った。
セイトがいるとしたら、多分一番上だろう。
特に理由も無いが、気配を殺し、足音を立てずに階段を登る。
巫女達が掃除をしたので埃一つ無いが、櫓は普段物置として使われている。
一番上は休憩用のスペースとして使われる為、基本的には土足厳禁。休憩スペースの前で靴を脱ぐ事になっている。
果たして、休憩スペースには、仄かな明かりに照らされたセイトがいた。
設置されたベンチに腰掛けて此方に背を向けており、剣と仮面は入り口付近に置かれている。
僕はコソコソとサンダルを脱ぎ、ついでに剣を拾ってセイトへ接近する。
そっと覗き込んだ彼の瞳は、鈴音市の夜景を見下ろしている様で、その実それを通して何処か遠い所を見ている様に見えた。
差し当たって僕は間合いを取って剣を振りかぶり、殺気を全開にする。
何かを感じたのかセイトは肩をぴくっと震わせて、ゆっくりと此方へ振り返る。
僕は何となくタクの声真似をして剣を振り下ろした。
「——油断したな」
「っ!?」
ズバッ! と、やっちゃったりはしない。首に触れる程度で寸止めだ。
目を見開いたセイトは、僕を見て目を白黒させた。
「……ユキさん……なら出来るのか」
コクリと頷きそんな事を言うセイト。声真似の事を言っているのだろう。
僕は剣をセイトの手元に立て掛けつつ、その横にヒョイっと腰掛ける。
「油断大敵ってね、ナイフくらいは常備しといた方が良いよ?」
首を僅かに傾け、ウインクする。
セイトは困った様に微笑むと、同じ様にウインクを返して一言。
「はは、精進します」
「うむ」
僕は1つ、大きく頷くと、片目を閉じたまま言葉を返す。
「そんな君に言葉を送ろう。知行合一だ」
「うーん、聞いた事がないなぁ……四字熟語ですか?」
「うん。君にとっては愚問だろうが、戒めの言葉としてしっかり心に刻むと良いよ。意味は……知っていても行動出来ないと無意味だ。と言う事だね」
「……そう、だね……座右の銘にするよ。ありがとう、ユキさん」
ニコリと微笑む彼からは、不満の感情は感じない。何かしら響く物があったのだろう。
彼は僕を尊敬している節があるから、常人ならほんの少しムッとする様な言葉も素直に受け取れる様だ。
この言葉は、きっと真面目な彼の助けになるだろう。
だからもうちょっと、言葉を重ねる。
「義を見てせざるは勇なきなり」
其処で言葉を止めると、セイトは櫓からほんの僅かに覗く空を見上げた。
これが多分、セイトが己に課した言葉なのだろう。
彼は遠い星々を見つめ、過去、自分が信じて来た事を思い返している。
そう、これはガス抜きと言う奴だ。同時に好感度稼ぎでもある。
「……セイトは義勇を備えた良い護鈴だ」
断言する様にそう言う。
正義と勇気を備えた、素晴らしい僕の身内だと。
過去を思い出す様に細められていたセイトの瞳は大きく開かれ、今、満点の星空を見上げた。
「……」
「……」
彼は無言だが、決して無視をした訳でも、聞こえなかった訳でも無い。
何故なら、一度だけ口を小さく開き、その後言葉の紡ぎ方を忘れてしまったかの様に閉じられたからだ。
だから、僕は敢えて何の気も無い振りをして、桃ラムネを一口飲み、傍らに置いた。
カランッとガラスとガラスがぶつかる軽快な音が鳴り、それを合図にした様に、セイトはゆっくりと視線を下ろし、俯いた。
そのまま僅か数秒押し黙り、口を開く。
「……僕には勿体ない言葉だよ」
其処でセイトは言葉を区切り、僕の方へ視線を向ける。
どうやら彼は僕がセイトの方をじっと見ているとは思っていなかった様で、僕と視線を合わせると怯んだ様に視線を彷徨わせた。
しかしそれも一瞬の事。
強い意思を感じさせる瞳で、僕としっかり視線を合わせて来た。
そして彼は、ゆっくり口を開く。
「……でも、ありがとう」
ニコッと微笑んだセイトに、僕もニコリと微笑み返し——
「うむ。精進したまえ」
——と、最後の言葉を送ったのだった。





