第37話 ユキ、故障する
第七位階上位
魔覚にシフトした。
広がるのは灰色の世界。
より強い力を持つ者のみが色付いて見える世界。
僕はしばし、それに見惚れていた。
世界は灰色の筈だった。
それは世界を虹色に染めていた。
——白い円盤。
ただの光源装置だと思っていたそれは、内部に無数の、そして大量の神気を蓄えた、何らかの神器の様であった。
漏れ出る僅かな神気が、この大広間を虹色に染め上げているのだ。
これ程までに強大なエネルギーを感じ取れていなかったなんて、己の無能が恥ずかしいくらいである。
……と言うか、ベルツェリーアがニヤニヤしてたのはこれか。禁酒刑に処してやる……のは可哀想だからちょっとだけ苛めるに留めてあげよう。
おそらく、僕が神気の色をはっきりと感じ取れている理由は、魔覚の中でも飛び抜けて何かを見る感覚、もとい瞳が優れているからだろう。
円盤から視線を下ろし、次に見たのは4つの玉座。
そこには、4人の人形が座していた。
物質体は存在しないので、魂魄だけがそこにあるのだろうけど……戦っている4人のゴーレム達にもちゃんと魂魄があるので、肉体を遠隔操作している訳では無い。
はっきり言って原因不明だ。
或いは連戦の可能性も無きにしも非ず。
また、その人形の魂魄には、3色の大きな存在がくっ付いているのも見て取れる。
僕の目の前にいる少女の魂魄には、水色、深緑、黒の3色に幾らか蒼銀やピンクが混じっているのに対し、人形にくっ付いている色は赤と紫にかなり薄い水色、勿忘草色だけだ。
これを見るに、多分次に此方側から来た人は火、毒、氷の使徒と戦う事になるとかそう言う感じなのだろう。
つまり連戦は無い。筈。
ここまで観測した所で、そろそろ思考速度を落とすとしよう。
大事なのは神気の流れを読み取る事。
集中力を下げつつ神気を感じ取るのは……骨が折れる作業になりそうだ。
◇
ベルツェリーア、キット、シュフォールの三重防壁により、少女の攻撃は僕に届かない。
神核に匹敵する膨大なエネルギーを前にしては、流石のオリジン・ゴーレムと言えども易々と突破する事は叶わないのだ。
3人に守られつつ僕は神気と向かい合う。
円盤から漏れ出る神気。
敵が偶に放つ攻撃性の神気。
加護で操作する僕の保有神気。
ベルツェリーアは言っていた。
僕は未だ慣れていないだけだと。
感じる事は出来る。操作する事も出来る。なれば後は練習あるのみ。
神と言うのは神気を操る事が出来る者の事を言うのだろう。
つまり、僕が幼神と呼ばれるのは、神気を操作出来るが不慣れだからだと考えられる。
最初から、僕は神気を操れたのだ。
感覚は掴んだ。
大気中には微量の神気があり、大気中を彷徨う種精霊にはそれより濃い神気があり、床や壁等の質量が大きい物にはより多く神気が宿っている。
オドを操るのと同じ様に、僕の紺碧を操作し、オドでマナを操るのと同じ様に、紺碧で大気中の神気を搔き集める。
神気による物質の生成は、今の僕には難しい。
であればやる事は1つ。
集めた神気を僕の右手へ——
◇
「——はっぁぁぁああっ!!」
拳を振り抜いた。
刹那、激痛が走り右手が粉々に弾け飛ぶ。
同時に、放たれた攻撃性を持つ神気の塊が、大きく拡散しながら少女に迫る。
魔覚が解けたからか僕にはそれが良く見えないが、何かしらの異常を感じ取ったらしい少女は、おそらく神気を宿していると思わしき3属性の防壁を張り、回避行動をとった。
次の瞬間——パリパリパリッとガラスが砕ける様な音が鳴り、小柄な少女の胴体が半分程弾け飛んだ。
そんな光景を、朦朧とする意識の中見送り、少女が倒れ、僕の放った神気がフィールド制限の壁にヒビを入れた様な気がした後、意識が飛んだ。
◇
白が冷たい瞳で見下ろす。
——あぁ、なんと愚かなのでしょう。碌に扱えもしない力を己が手に宿すとは……彼女の右手は二度と元には戻らないでしょう。
赤が呆れた様に肩を竦めた。
——なんであんたはそうも悲観的なんだ。ただの手だぞ? 直ぐに生えてくるだろうよ。
青が慈しむ様に目を細める。
——そうですわね。瞳に宿さなかったのが幸いでしたわ。あれだけは唯一無二ですもの。
緑が腕を組み微笑む。
——目を回してますわー。可愛らしい。食べちゃいたいですわー。
黄が険のある声で呟いた。
——……黄金の力を感じる。この状況下で神々で争うのは無意味。手を出すな。
黒は震えながら告げる。
——我、知ってるぞ。……金の神、な、十二位階らしい。
沈黙する六色の人型を、道化は嘲笑う。
——ハーハッハッハッ!! ……我輩より百倍以上強いぞ。 アレは最早原初の万色にも匹敵するだろうよ! 知らんが、なっ!
青は愛おしげに口ずさむ。
——彼女が彼の愛し子だと言うのなら、何も心配は要りませんわね。
黒はぼそりと呟いた。
——……義姉いっぱいいるものな。
道化は高らかに嗤う。
『さぁっ! 次のショーは間も無く開演だぞっ、さ・ゆ・き・ちゃん♡』
◇
「ふわぁっ!?」
「きゃんっ」
何か嫌な奴に仲間が増えた様な悪夢を見た気がして飛び起きると、何か柔らかい物に顔が包まれた。
女性の小さい悲鳴が聞こえ、半ばパニックでそれを押し上げる。
「ひぅぅ」
「やんっ……だ、駄目ぇ……そんな強くしたらぁ……」
「ちょっとシキナ、どいてやー」
大きくて柔らかい物が退けられ、褐色が覗く壁が現れた事で、床にパタリと倒れこみ、放心。
「…………」
「あれ? ユキさん? おーい……」
「……ユキちゃん? ユキちゃーん?」
…………。




