第34話 vs.使徒
第七位階上位
手前が広く奥が狭まった、台形の大広間。
そこにいた水神の使徒は……そんなに強くなかった。
——いや勿論強い。
その性質は精霊とほぼ同じ物で、その戦闘力は精霊帝を少し上回る程。
即ち、その戦闘力は大体ハイネシアさんと同じくらい。
——つまりはそういう事。
レイーニャが無詠唱で放った大雷は使徒に殆どダメージを与えられなかった。
ルカナが放った氷結の魔法も、使徒を凍らせる事は出来なかった。
サンディアが珍しくも小賢しく血を撒いて水の主導権を握ろうとしたが、サンディアの強力な血は使徒の魔力を僅かにしか減じる事が出来なかった。
おそらく、この3人が水神の使徒と戦えば、苦戦に次ぐ苦戦で良い戦いになっただろう。
そう——格が違ったのだ。
——メロットは。
3人が攻撃し、無数の魔法や剣戟が迸るのを他所に、メロットは玉座に深く腰掛け、目を瞑った。
そのまま寝る姿勢に入る彼女を、僕は横目でじーっと見つめた。
ついでに少しずつ接近した。
じーっとと言うか、じとーっとと言うべき曇りなき眼でメロットを見つめ、じわじわと接近する僕に、メロットは気付いていないふりを続けた。
頰がくっ付いた所で、ようやく彼女は重い腰を上げた。
半目に開いた桃色の瞳を僕の目と合わせると、気怠げに重い溜息をつく。
次の瞬間——桃色の瞳が大きく開かれた。
刹那、暴れ狂っていた使徒の動きが停止する。
そうかと思えば、引き絞られる様に使徒の体がねじ曲がり、ブチブチッと上下に分断された。
そのまま続けて4つに、8つに、16に、32に、次々と使徒は切り分けられて行く。
雀の涙程になった所で、メロットは指示を出した。
——『サン、血』
何を言ったのかいまいち要領を掴めない様な指示に、サンディアはスチャっと敬礼し、自らの心臓に剣を突き立てた。
抜き放つと同時に噴出した大量の血液は、空気中で蛇の様に寄り集まり、使徒の欠片を次々と飲み込む。
メロットは使徒の体の3分の1程をサンディアの周りに残すと、続けてレイーニャとルカナの周りに其々半分の使徒の体を持っていき、更なる指示を出した。
——『ルカ、飲む』『アホなのっ!?』『ル、飲め』
そんなやりとりがあって、メロットの光る瞳に凄まれたルカナは渋々使徒の体を一粒毎に啜り始めた。
……一見するとアホみたいだが、これがルカナの魔力支配能力強化にはもってこいの修行方法だ。ルカナは途中で気付いたが段々一度に飲む水の総量が増えていた。
続けて、若干怯えてる様にも見えるレイーニャに、メロットは指示を出す。
——『にゃ、ビリビリ』『にゃじゃにゃいにゃっ!?』
雄叫びをあげつつ雷は撃つレイーニャの事、僕は好きだよ。
迸る雷撃は、分解されて抵抗力の下がった使徒の体を撃ち抜き……数個だけを滅ぼした。
どうやら、メロットが態と分解された使徒を近くに寄せた事でレイーニャの雷撃が分散してしまったのが原因の様だ。
そして、真面目なレイーニャはメロットの言わんとする事に即座に気付き、雷撃を圧縮して完全に支配する訓練を始めた。
そんなこんなで、水神の使徒は3人の奮闘により、間もなく滅び去る事と相成った。
他の3ヶ所には火、風、土の使徒が出たらしいが、火はディルヴァ、風はアルフ君、土はウルルがほぼ完封する形で仕留めたらしい。
ドロップ品は無し。渋い。
◇
使徒を倒し、次の大門をくぐった。
先と同じ、しかし少し狭目の大広間にいたのは、森神の使徒。
樹木の人型である森神の使徒は、その身に樹木の鎧を纏い、無数の配下を生成して立ちはだかった。
振るわれる触腕は見た目以上の高質量で、ルカナやレイーニャではとてもじゃないが受け止められない。
多少傷付けても、膨大な生命力であっという間に回復してしまう。
そんな森神の使徒は、降りしきる雷と爆炎、舞い踊る剣と血の饗宴に沈む事となった。
ざっと見た感じ……サンディアが大気中の水分を操ったり、サンディアの血が掛かった所が燃えやすくなったりと……彼女は何も考えてない顔してその実練度が高い。
……思えば、サンディアは蝙蝠だった時から僕の血を与えて亜種に進化していたので……案外強いのかもしれない。
ともあれ、樹木の力を持つ森神の使徒はサンディアの血に敗れ、他のチームも其々、闇、光、砂の使徒を打ち倒した。
良いペースなので、このままどんどん行こうか。
◇
次の大広間にいたのは、死神の使徒。
その特性は死神の様な物だ。と言うか、死神と既に戦ってる身でコレに負ける理由が無い。
と言う訳で、僕は変わらず適度な補助に徹し、4人に戦わせてみた。
結論から言うと、この4人は闇や死に耐性があるので、死神の使徒は然程時間を掛けずに討伐された。
これなら1対1で精々苦戦、2対1で時間は掛かっても勝ち、3対1で余裕くらいだろう。4対1なら圧勝出来て当然だ。
各所では、聖神、氷神、雷神の使徒と戦っているが、特に苦戦していると言う事もない様なので、一足先に進む事とする。




