第37話 vs.永生機神・ティルナノグ 二
第七位階上位
ノリノリで踊るティルナノグ。
終わりの見えない回避不可の弾幕。
そんなティルナノグ戦場に、それはいつのまにか現れていた。
「……? ……っ!? こ、これは……!! ユキっ!!」
「ん?」
ルカナの大声に振り返ると、ルカナは何故か豚を抱えていた。
それも、ただの豚では無い。
ピンク色でニコニコと微笑んでいて背中に天使らしき翼が付いている何処か愛嬌のある豚だ。
「……うん?」
「ユキ! こ、これっ!」
「うん、豚?」
ちょっとまって、ルカナは何に興奮してるの?
一見すると、ニコニコ笑っている不気味な豚もどきでしか無い。
いや、そもそもルカナはこれを何処から持って来た?
インベントリに入ってるんだったらポンッと出してもおかしくないけど。
この慌てようじゃそう言う訳でも無いだろう。
つまり……この豚は僕が気付かない内に発生したのか?
ルカナは興奮したまま豚を突き出し——
「——アデュッ、アデュナトンの眷属よっ!」
フライングポーク LV1MAX 状態:不滅
アデュナ——ポーク……!? この名前を付けたのは一体誰だ。飛ぶ豚肉だなんて……いや、そもそも突っ込みどころがかなり多いぞ。
取り敢えず、事情を知ってそうなルカナに聞くのが良い筈だ。
「……ルカナ、アデュナトンって何?」
いや、意味は分かる。
アデュナトンは、あり得ない事や物を表現する言葉だ。
つまり……あり得ない生物って言う事かな?
興奮するルカナを横目に、勝手に考察していると、果たしてルカナの口から伝えられたのは、予想の範囲内の言葉だった。
「——夢想神よ!!」
——神。
レベル1から成長しない魂。
不滅と言う明らかに異常な特性。
魂を操る能力を持つ何らかの超越存在が関わっているのは自明の理だった。
◇
興奮するルカナを宥め賺し、そうしてる間にも、どう言う原理か発生し続けるポーク達を観察、落ち着きを取り戻したルカナから聴取した情報を統合する。
先ず、豚達は魔法攻撃が一切効かない。
ティルナノグや僕の配下達の魔法攻撃は、豚達に当たると魔法の形をしたまま吸収される。
豚達は何の痛痒さも感じていない様で、各々思い思いに過ごしている。
原理的には……魂魄がほぼ完全に空っぽで、魂への攻勢意思が宿る魔力現象を完全に吸収出来る訳だ。
物理現象が伴う魔法攻撃は防げない様である。
——豚達は物理攻撃で普通に死ぬ。
ただし……死んだその直ぐ横で即座に復活する。
彼等は一応極僅かながら経験値をくれる様だが、直ぐに魂まで完璧に再構成されて復活するのだ……死体はそのままに。
そして、彼等は……ルカナ曰く、魔界よりも遥か下の混沌に生息する謎の生き物なのだとか。
その情報は安くて直ぐに買えたらしいとか何とか。混沌への行き方は不明とか何とか。
ルカナの興奮ポイントは、神の眷属と言う点だ。
尚、奴らへのテイムは当然の様に失敗した。
死体はただの豚肉なので、オートコレクトで自動的に回収されるがままにしている。
しかしまぁ……魔法完全無効にして死んでも即復活とか……レベル1で戦闘能力、意欲が皆無じゃ無かったら相当な脅威だ。
……レベル1で強い制限が掛けられているから即復活出来るのだろうがね。
僕の推察だと……彼等は夢想神・アデュナトンの耳目として活動している物だと考えられる。
そうじゃ無かったら……餌? ……ポークと言うくらいだからその可能性もある。
と言うか、レベル1にしては美味しそうな、そそる気配を放つ豚肉である。
……生物の生存戦略的に考えると猛毒とか入ってそうだが……特にそんな魔法構造は無い。
僕がそうこう考察している間にも、豚は増える増える。
見た感じだと、その分ティルナノグの保有魔力が減少しているので、豚の発生原因はティルナノグなのだろうが……目的が不明だ。
豚の他にも、ちょうどティルナノグの結界がある場所の手前に、虹色の沼から突き出る様にして出現している巨大な樹木がある。
樹木には、林檎や葡萄等、種類を問わず無数の果実が隣り合って成り、豚同様に魔法攻撃を吸収している。
世界樹の梢 品質S レア度7 耐久力S
備考:世界を内包する大樹の梢。下部の梢。
此方は、豚とは違う原理で魔力を吸収している。
どうやら、相当に高純度な魔力のみを吸収する力を持っている様で、大気中の魔力にはピクリとも反応を示さない。
ティルナノグの放つ魔法をどんどん飲み干し、果実をモリモリ成らしている。
ここまで色々とティルナノグ戦を観察して来たが……ざっと見た感じ、此方側が何もアクションを起こさないでいると、ティルナノグはこのまま3日間くらいは踊り狂える仕様だ。
流石に3日間も休みなく戦うとなると、プレイヤーには先ず不可能。
豚と樹木は、おそらくティルナノグの魔力再利用能力を妨害する為に作られた枷であると推測出来る。
これらの存在と、豚の増殖スピードから考察して、ティルナノグの継戦時間はおおよそ24時間まで減少する。
挑戦者側が何処までティルナノグの魔力再利用を妨害出来るか、いつまで猛攻を耐えられるかが、この勝負の趨勢を決する要素なのだ。
つまり、魔力を物質に変換する力を持つ者が、この戦場で一番活躍出来ると言う事である。





