第32話 vs.涅槃機神・ニルバーナ
第七位階中位
偽の月が輝く湖の迷宮。
既に周辺のカエル軍団は殲滅済みで、辺りに響くのは精々只のカエルや虫の鳴き声のみ。
静かな湖には枯れない水生植物の花が咲き乱れ、緩やかな水の流れが迷宮の境界を越えて外の世界へと消えてゆく。
季節も分からぬ湖の迷宮は、湖故か吹く風は涼しく、比較的住み良い環境であった。
決戦場は、湖の迷宮の中心。
対象は、大きな台座に横たわる涅槃仏。ニルバーナ。
万が一の逃走経路として、見守り役は迷宮の出入り口がある南方に配置する。
大地を隆起させて会場を作り、観客は申し訳程度の結界で保護をした。
アトランティス戦同様にメロットが椅子を作り、観戦の準備が整った所で——
——いざ、開戦である。
◇
「ハニー、私、強くなったわ!」
「ちょっと! あたしのユキを誘惑しないでよ!」
「くふぅ……ねーちゃん……ふへへ……」
「はぁ、はぁ、はぁ……し、至福っ、至福の時間です……!」
姦しい4人。
その内、僕の左右にいる桃花と白雪の膝の上には、うーたんとめーたんが乗っている。
これが4人と2人の妥協位置である。
精神年齢の低い3人には成長が期待できるし、ミュリアには自重を……期待してたが無理だったねうん。
他のちびっ子は、ぐーたんが仁王立ちするレーベの横で真似をしてニルバーナを見上げており、あーたんは何故か吸血鬼達の方で行儀見習いをしており、しゅーたんはメロットに懐いてぐったりしていた。
幾らレベルだけは適正とは言え、こんな子供達を機神戦に送り出すのは些か早いので、後日改めて獄峰並み且つ比較的安全な迷宮か何かで訓練させよう。
一頻り確認を済ませた所で、今回の戦士達がニルバーナの起動圏内に入った。
ニルバーナの体が白く明滅する。
金属像の中に眠っていた膨大な力が目覚め、器を満たす極大の力が威圧となって迸る。
次の瞬間——閃光が弾けた。
現れたのは、ニルバーナを半球状に覆う巨大な結界。
今、攻撃が開始された。
◇
仮に、そう……スコップで柔らかい土を掘る事は出来ても、柔らかい土でスコップを破壊する事は出来ない。
そこに存在するモノは、言ってしまえば質の差だ。
自己再生する金属の壁をスポンジで擦り続けても、壁を破る事は出来ない。
結界の恐ろしさは、意図的に魔力の質を超高濃度へ高める事が出来る点だろう。
質を破るのは決して量では無く、同じ質なのである。
ニルバーナの結界は、ニルバーナの周囲に浮かんでいる宝珠の様な物2個分を消費しており、単純な魔力質の高さもさる事ながら、その形状が真球に近いせいか威力の何割かを受け流している。
そして、良く見てみるとその結界は、複数の属性が決して隣り合わせにならない様に交互に配列されていた。
超高度な技術である。
これでは、弱点属性をついても決定的な一穴を穿つ事が出来ず、結界に存在する魔力を完全に削りきるか、或いは無属性の膨大な魔力の塊で無理矢理突破するしかない。
ただし、広範囲結界の明確な弱点。徹底的な一箇所への集中攻撃には多少弱い。と言うのはニルバーナの結界も例外では無い。
残存魔力がゼロになっても一箇所へ攻撃を続ければ、決定的な一穴をより早く穿てるのだ。
大事なのは、属性攻撃魔法を使う事と、攻撃の質をダメージが与えられるレベルで維持する事。
幸いな事に、結界は全ての属性を持つ為、あらゆる属性に耐性があると同時に弱点もある。
属性攻撃を続けていれば、やがては削りきる事が出来る筈だ。
戦士達の中でも特に活躍しているのが、複数属性を操れるザッハーク君。
彼には、邪竜王・ザッハークの討伐報酬である三頭竜の御霊や、邪神竜・アジ・ダハーカ討伐報酬の三頭竜の命石、無情なる六邪眼を与えてあるので、活躍するのもある意味当然と言える。
アジ・ダハーカの魔石は、格的には天帝竜の角やスルトの橈骨並みなので、加工はまた後日である。
魔法攻撃が雨霰と降り注ぎ、極彩色の閃光が迸り、闘気や仙気を宿す打撃斬撃刺突が結界の魔力を削り取る。
休む事無く攻撃の嵐を浴びせ続け、そして、遂にその時は訪れた。
——音は無かった。
ただ虚しく、そこにあった強固な壁は、白い粒子となって霧散した。
消えた壁の先には——
——2つ目の壁があった。





