第164話 闇の底へ
第五位階上位
槍道仙マハーカ・クラージュ。弓道仙カーナシア・フィエルテ。
この2人を刈り取る前に、やらねばならない事が出来た。
配下の子達が邪神の断片の居場所を発見したのだ。
精霊帝から話を聞いて、最初から大雑把な位置情報は知っていた様なので、そう時間も掛からず見つける事が出来たらしい。
ともあれ、見つけたからには対処をせねばならない。優先順位は他の比では無い。
邪神の断片が封じられていた場所は、今は帝国領となった元ハルク公国の南西にある小さな山の中。
5人の精霊帝と黒霧に山を監視させ、私は風の精霊王を解放しに行く。
精霊王を解放すれば周辺一帯に放出されていた生命力によるジャミングが無くなってしまうが、それに対し帝国がどの様なアクションを起こすかで帝国にいる筈の邪神の断片がどの程度の力を有しているか推し量れるだろう。
だがまぁ……邪神の断片を2体同時に相手するのは些か危険を伴う事が予測されるので……来たら来たで探す手間が省けてラッキー、来なかったら来なかったで楽に各個撃破出来てラッキーと思う事にする。
勿論、帝国軍が差し向けられたら美味しく頂くし、防備を固めたなら領地を端から喰い千切るまでの事。
お昼まではまだ時間があるが、手早く事を進めよう。
◇
《【伝説クエスト】『眠れる精霊の王:風』をクリアしました》
シルフ・エンペラー ラーベスタ・ピュリエット・アグリール・ハルツェロン LV?
「いやぁ、それにしても……目覚めて直ぐに君の様な美姫を視界に収める事が出来るなんて、おいらぁ幸せ者だねぇ」
「うむ、好きなだけ敬いたまえよ。ラーベスタ君」
神像から解放して現れた精霊王は、鮮やかな緑の髪に橄欖石の様な瞳を持つ青年だ。
クエスト報酬の精霊装を着込んだ姿は吟遊詩人のそれ。
確かに自由気ままを象徴とする風の精霊にはお似合いの衣装だろう。
そんな彼は——
「お、君も可愛いねぇ。おいらとお茶しない?」
「え? ちょっ!? 触らないでくださいっ」
「まぁまぁ、少しだけ、ね」
「や、やめっ、ユキさぁん!」
——人間や亜人の女の子が大好きらしい。
メナに触れる手つきは厭らしいし、あわよくばと言う下心が見え見えである……半ば演技みたいだけど。
「……ラーベスタ、愛でたいだけなら別の子を紹介するよ」
「さっすが、姫さんは分かってるねぇ!」
まぁ、女の子とは限らないが、と言うか幼児達のお守りを任せるかもと言うだけだが。
それに、ベスタも既に現状は教えてある。
にこやかに細められた瞳の奥に見える強い感情は、決して気分屋な軟派男のモノではない。
「……姫さんとかならおいら凄く嬉しいんだけどなぁ」
私の体を下から上までじとーっと見回して来る様は、精霊とは思えない程に軟派男が板についている。
既に情報としては知ってるだろうが、言葉でちゃんと教えておこうか。
「残念だけど僕の体は既に売約済みでね、別の——」
「——ば、売約済み……!?」
「——売 約 済 み !? ゴクリ」
「……ん? ……んん?」
……急にどうしたのだろうか?
「い、いえ、なんでもないです」
「ボソボソ《や、やっべー、姫さんマジ天然……おいらこんなにときめいたの初めてだ》いや、なんでもないデス」
何にときめいたのかは知らんが、何もおかしな事は言っていない筈……。
……まぁ、今は拙速が肝要だ。変態どもに構っていられる時間は無いのである。
「取り敢えずメナは迷宮探索に戻って、ベスタは私と一緒に邪神の断片を討伐しに向かって貰う」
「は、はい! ……邪神!?」
「りょ〜かいっ、今のおいらに加えて他の奴もいるんだろ? 断片くらいなら楽勝だよ!」
精霊帝クラスがアルケレーネさんも入れて6人いる、以前戦った断片と同格なら、3体同時に襲い掛かって来ても死者0で勝てるだろう。
だが、負の力は正の力と対消滅すると言う性質上どうしても消耗が激しいので、あまり軽視しない方がいい。
まぁベスタはこう見えてちゃんと精霊帝の器なので、それぐらいの事は言わずと知れている。
大方驚くメナを気づかっての発言だろう。
「午前中には終わらせて次に向かうから、メナも迷宮探索よろしくね」
「うんっ、頑張ります!」
◇
「黒霧、状況は?」
「帝国に動きなし。近傍に帝国軍、及び反転存在の影はありません」
「ふむ、報告ご苦労。1人は地上で監視を続けて、他はついて来るんだ」
「承知致しました。任務を続行します」
帝国に動きなし、となると、気付いていないか、気付いていない振りをしているのか。
もし気付いていないのだとすると、封印を解いて断片を解放すれば気付くかもしれない。
差し当たって戦闘前に各員の体調確認をする。
「精霊君達、調子はどう?」
「私はいつでもいけますよぉ〜」
「当然私もです。未来の娘に会うために、邪神を討ちます」
「ふはははは! 遂に邪神へ一矢報いる時が来たのだ! 搦め手など好かんっ、この手で打ち砕いてくれるわっ!!」
「おいらは姫さんの求めに応じるまでさ! 邪神退治でも他の事でも、ね」
「ユキ様の御心のままに、必ずや邪神を討ち、シャルロッテの悲願を達しましょう」
「ふふ、そもそも我を差し置いて邪悪なる神を名乗るなど不届き千万、愚か者に天誅を下してやろう……ところで皆、邪神じゃなくてその欠片だからね? 最後の戦いじゃないから、分かって——」
取り敢えず精霊の方は大丈夫だろう。
グリドアやアルケレーネさん以外は些か気合いが入り過ぎている様な気もするが、そう強い相手でもない筈なので問題ない。
次は選抜メンバーの子達。
「2鬼はどう?」
「俺は、戦い、楽しみ、だ、が……」
「な、何さねっ、赤の癖に私の心配なんてしてんじゃないのさ! あ、あれだろ? 前のデカイ蛇と同じ様なそれだろ? こ、怖くないし! 大丈夫だしっ!」
若干大丈夫じゃなさそうな気がするが、まぁ、十分対策をして掛かるので大丈夫だろう。
「弟子グループはどうかな?」
「弟子グループって、いやまぁグリエル先生の弟子だけど……俺とゼーレは近接そこまで強くないぞ」
「まぁ、わらわら出て来る弱いのならどうにか出来る。と思う」
「俺ぁ行けるぜ! このハンマーで全部粉砕してやる!」
「……守りは任せてくれ、鼠一匹通しはしない……つもりでやる」
「ふーむ……まぁ、私は全力で殴るだけだな! 前回は相討ちだったが、今回は勝つ!」
「えーと、この後はマハーカとカーニャを捕獲?するのよね、余力は残した方が良いのかしら?」
「そうだね、あくまで必要なのは邪神と相対する経験だし、戦う必要はあまり無いから」
ともあれ仙人達は問題無い。問題がありそうなのは……。
「ちびっ子達はどうかな? 行けそう?」
「戦いはしなくて良いとの事なので、問題はないかと」
「そ、そうですね。ちょっと怖いけど、戦わないなら大丈夫だと思います」
「押忍! 見るのも修行とグルガス先生が言ってました! 大丈夫です!」
「だむにゃむにゃ……すぴー……」
「ふにゅむ? しゅーたんも大丈夫だってっ!」
「そう、なら行こうか」
だしか言ってないぞ。
ともあれ、殆どの子達は大分邪神を甘く見ている様だし、トラウマにならないか心配だが、それもまた経験だ。しっかり見学して貰おう。
「それじゃあ皆、行こうか」
皆へ一声掛けると、暗闇の階段へ一歩踏み出した。





