第57話 神域
第八位階下位
極めて高純度な光と聖属性が満ちるその空間は、物音一つ無い静謐に覆われていた。
そこそこに長く広い通路は光で満たされ、その最奥部には同じような扉が見える。
だが、その前に立ち塞がる影、いや光が六つ。
光の六枚翼 LV800MAX
宙を舞う光のシルエットたちは、一様に抜刀しこちらを見下ろしている。
ざっくり見たところ……彼女等は夢想精霊だと分かった。
光の六枚翼と言えば、この天界の信仰においては熾天使たちの事だ。
熾天使たちは実体を持つが、その一方で天使たちの目に触れる事は殆ど無く、ただ聖神の忠実なる僕として、その存在だけが示唆されている。
その為、熾天使たち自身に信仰が宿るだけで無く、聖神信仰が流れ込むこの場所に、従僕である光の六枚翼と言う形で顕現するに至ったのだろう。
光のシルエットたちがそれぞれの熾天使たちの形をしており、ほんのり僅かに対応する属性を保有しているのは、熾天使たち自身の信仰も含んでいた為だ。
そんな光の六枚翼たちは、光と聖の属性を高い純度で保有する、光聖精霊である。
自我は信仰によって形成されるアニマであり、その性質、または理は、聖神の忠実なる僕と言う物。
即ち……聖神の命令には絶対服従と言う神格を持つ、光聖属性の結晶体と言える。
つまりとても良い拾い物と言う事だ。
出来れば無傷で鹵獲したいところ。
そして、その方法は案外簡単な物だ。
こちらに敵意を向ける光の六枚翼たちに、ニコリと微笑む。
前へ歩みつつ、僕は翼を広げた。
——簡単な話だ。
彼女等は、聖神に絶対服従。
聖神のデータは、周囲にいっぱいある。
——読み取って真似すれば良いのである。
十二枚の白翼に、頭上に浮かぶ三つの光輪。
随分派手な装いだが、それはともかく前に進む。
すると光の六枚翼たちは、光の武器を消して跪き、首を垂れた。
僕はその前を悠々と進む。
何も映さない彼女等の瞳から、ポタリポタリと、涙が零れ落ちた。
「……」
彼女等が一体どれほど、帰還を待ち望んでいたのかが良く分かる。
ニセイシンでゴメンネ。
そんな事を頭の片隅で思いつつも、考えるのはその利用方法だ。
対応する熾天使たちに投入して強化素材にしても良いし、ほんのり属性と個性をカットして別の天使たちを熾天使にする進化素材にしても良い。
そのまま運用はまぁ、自我が薄すぎるのでやらない。
ニセイシンを普通に通してしまう対応力の無さを改善するには、さっさと合体させてしまった方が良いのだ。
なに、その意志が継げると言うのなら、何の問題もあるまい。
そんな訳で第二の門に触れて、それを押し開ける。
見えて来たのは、先と比べてやや狭くなったが、それでも十分に広い通路。
遠くには門が見える。神域の大きさ的におそらく最後の門だ。
そしてその前には、影もとい光が一人。
神の翼 LV840MAX
熾天使アシュリアのシルエットだ。
こちらも僕を見るや、涙を零しながら跪いて首を垂れる。
アシュリア自身の信仰など欠片も含んではいないだろうが、形がアシュリアなのは熾天使たちの信仰の影響だろう。
涙を流しているのも、熾天使たちの影響だ。
まぁ、所詮は何も知らない誰かの考えた虚像の顕現と言った所。
アシュリアはきっと泣かない。悲しくとも受け止め、戦い続けるだろうからね。
「……」
涙を流すアシュリアでない物は、さて誰にあげようか。
シャルロッテはもう本物を取り込んで強化しているし、聖神関係だと光神アウラには合わないし、天界関係者にちょうど良い器がいない。
ゼロから制作するか、バラバラにしてしまうか……まぁ、戦利品の整理は手に入れてからじっくり考えれば良いか。
ルンルン気分で最後の門に触れて、それを押し開いた。
——光が満ちる。
そのまま神域の如く、強大な力に溢れたそこへ踏み込む。
背後でゴゴゴッと扉が閉まった。
見えたのは、円形の大広間。
積み重なる円形の舞台。
そして神座。
腰掛けるのは、金髪碧眼の美女。
聖神 LV880MAX
彼女は虚な目で僕を見ると、何度か瞬きした後、大きく瞳を見開いた。
口元が歪み、その宝石の様な瞳から、大粒の涙が溢れ落ちた次の瞬間——
——瞳が金色に変わった。
表情がストンと消え失せる。
光纏う十二翼と三重光輪を顕現させ、聖神は僕を見下ろした。
『……我こそは天を覆う光、遍く大地を照らし、全ての闇を葬る者なり』
それは大気を揺るがせ、広間中に伝播した。
聖神は右手を突き出し、僕を指差す。
『汝、蒙昧にして矮小なる娘よ——』
その指先に、空間が歪む程の莫大な光が収束し——
『——頭が高い、首を垂れよ』
——放たれた。




