第56話 神聖の門
第八位階下位
戦いは順調に進んでいる。
熾天使人形は順当に討たれ、崩れた天使糖と合成光輪の回収は完了。
余力を残した三巨像さんとスパニエル、シークエルは気を利かせたようで、その他大勢の処理を終えたクラウリアと共に、ウルル、サンディア、メロットの外敵警戒担当と交代した。
まぁ、把握するべき戦場が減少したリブラリアもいるし、緊急対応役のルクスも控えているので、主神級でなくとも問題ないだろう。
……と言うか、想定されるレベルの敵が来たら、どのみち大した抵抗もできないので、僕が出るまで生き残れる耐性があれば良い。
主神級ならそこに僅かに抵抗を示す事もできるだろうが、大した差ではないので、何も問題はないのだ。
重要な保護とツユ払いの役目が終わった所で、熾天使たちの戦場も終結へと推移している。
熾天竜とガウルリアの戦いは、スペックの上ではガウルリアが勝っているが、基礎技術の差が出て劣勢。
イデアリアの登場で一時的に盛り返し、この戦いで竜玉の操作など確かな成長が見られるも、根性や一朝一夕で覆せる差では無く、敗北必至だ。
クルーエルとアレフリアの戦いは、スペックと剣技の上ではアレフリアが一枚上手だが、やはり基礎たる魔力操作技術の差は如何ともしがたく、追い込まれている。
ローネリアとルーイリアの戦いは、ルーイリアが繊細な魔力操作を得意としているからか、基礎技術こそ中々見れる物だが、残念ながらスペックはローネリアの方が上だし、凡ゆる技能がローネリアの方が高いだけでなく、種族柄光に強く闇を操れる堕天使を前に、防戦一方。
一応、技術者なので色んな魔法や武具で対抗していたが、まぁ……格上と言う物を想像できずに作った武具では、一回り以上格上と戦うのは些か厳しいので仕方ない。
そして見所の一つであるシスターとイデアリアの戦いは、やはりシスター優勢だった。
イデアリアは流石は金因の霊合者と言ったとこらか、スペックは勿論の事基礎技術や立ち回りも見事な物だったが、スペックで同格、技量でまぁまぁ上、装備が強靭なシスターを前にしてはどうしても劣り、じわじわと追い詰められている。
それでも喰らいつくのは、彼女たちの誓いの為であり、家族の為。
僅かにでも時間を稼げば、偉大な主が間に合うかもしれない。
もしくは、この小さな積み重ねによって、誰かが生き残ってくれるかもしれない。
そんな希望が、彼女たちが全てを賭して戦う理由だ。
天界の空を飛び回る激戦が終息しつつある中、ついにシャルロッテが動いた。
折りしも僕のダラダラ引き伸ばし解析が終わり掛けたこのタイミングで、シャルロッテはアメシリアの元へ緩やかに接近する。
後おまけに、暇していたウルルとサンディアとメロットも、何故かアメシリアのいるこの場所に向かっている。
……流石に圧倒的格上4体に囲まれるのは可哀想が過ぎるぞ。
そんな事を思いつつ推移を見守ると、遂に4人が門前へと現れた。
アメシリアは剣を構える。
「……ここより先は神域! 何人たりとも通れぬと——」
そこまで言った所で、4人は優美に膝を付いた。
現場指揮のシャルロッテが口を開く。
「……貴女の忠実なる僕、シャルロッテが、御身の前に参上仕りました」
……なんで分かるの。
不可知化状態である事を確認してから、改めてソレらを見下ろした。
……まぁ、考えてみれば、僕がいるとしたら太陽の近くかここのどちらか。
そして太陽はすぐ見える場所にあるが、この封印は解析が必要だし、その中にある物も解析が必要。
それに加えて、ここにいる4人は僕の因子を多めに吸っている。
僕がここにいると決め打ちで目を凝らせば、縁のフィルターを通して僕を発見できるのかもしれない。
仕方ないので、僕はため息を一つ付き、姿を現した。
「貴様等、何を——」
「はぁ」
「——ッッ!!?」
アメシリアが飛び退り、驚愕に目を見開きながら剣を向ける。
それに一瞥もくれてやらずに、膝をつく4人を見下ろした。
「皆ご苦労様」
「勿体なきお言葉です」
「そう」
じゃあなんで声掛けた。
まぁ、演出効果を狙っての事だろうが……シャルロッテ的には多分、異教を拝する信者たちに僕を見せびらかしたいような意図もあるだろう。
ウルルもメロットも自慢したい気持ちはあるのだろう。サンディアはノリだ。
他の熾天使たちは激戦の中で、突如出現した僕の気配に動揺したが、それどころでは無いので戦闘を続行。
イデアリアなんかはそれでも尚気になって仕方ないようで、頻りに此方へ気を向けている。
そして真横のアメシリアは、即座に剣を振り上げた。
閃光が走り——
◇◆◇
「ッ!?」
——振り下ろした斬撃は、半ばで止まった。
バカなッ!?
ルーに天界そのものを両断しかねないとまで言われて封じて来たその剣は、のこのこ現れた敵の首魁の、小さな指先で止められていた。
だが、違う、なんだ……それは……!?
指先に、光が満ちていた。
尋常ならざる、聖浄の光。
直感した——
——これは鍵だ。
あの日から、幾星霜。
数えきれない程、開かれる事を願い、一度も開かれる事がなかった、この門の。
少女の姿をした何かは、私に見向きもせず、光の剣を薄紙のように引き裂いて、門へと振り返った。
あぁ、きっと……門は開く。
「さて、皆は外で待っていてね」
「御意に」
少女の両手が門に触れ、それが然も当たり前のように門を押し開く。
「あ、あぁ……!」
何度、その光景を夢に見ただろう。
少女が門の先へ、歩みを進める。
「ま……」
手を伸ばした。
数歩の距離を前に、足が止まる。
——その先へ踏み入る資格が無いと言う自覚。
——激流となって溢れ出す神聖な気。
何より、それを遥かに凌ぐ神聖を纏う少女が向けた青い視線が、あまりにも優しく、穏やかで、慈愛に満ちていたから——
弱く、未熟な私たちでは、偉大な主の、あの子の、決意と覚悟を……止められなかった。
だけど、この少女なら、きっと——
——シルフィアーネ様を救ってくれる。
門は閉じられた。
足が震え、床に座り込む。
「はぁ……はぁ……」
高揚がある。でも、それ以上に安堵があった。
……例え、そう、例え……シルフィアーネがもう……いなかったのだとしても。
門が開かれたその瞬間に、私たちの一千年は報われたんだ。
「さぁ、我等が神がご帰還なさる前に、掃除を済ませてしまいましょう」
超常の怪物たちが立ち上がる。
4人誰もが、異質な程に強大な力を纏っている。
誰か1人が相手でも、生き残る未来が見えない。
それでも……欲ができた。
一千年間帰還を待ち続け、そして今、それが何らかの形で結実しようとしている。
——立ち上がる。
「……私は……答えを知りたい……!」
剣を構える。
例え、死を避けられないのだとしても、せめて一千年に及ぶ問いの、答えを——
少女の形をした神の巫女と思わしき女は、蒼の瞳に燐光を纏い——
「それは貴女の努力次第ですね」
——微笑んだ




