魔女と化け猫のお茶会
「成る程ね。それは朗報だわ」
八雲邸から繋がる大図書館。そこでは一週間ぶりの会合が開かれていた。雰囲気は双方至って和やか。二人の前には紅茶の他に和洋様々な御茶請けがこれでもかと並べられていた。
「それにしても主観抜きでも平和なものね、霊夢が巫女に就く前の幻想郷は。幻想郷縁起によれば代替わりまであと四年弱。史実的にも何も起きていない訳だけれど?」
パチュリー・ノーレッジがクッキーに手を付け、一口齧った。
「ま、弾幕ごっこが無い所為で目立たないってのも有るのだろうけど」
「そうなんですよ~。この前も神楽さんに殺されるかと思って」
八雲橙もマカロンに手を伸ばすと、皿の上で半分に割ってから一つずつ口に入れていった。
「山猫一匹の妖気にすら反応する様だと、おちおち散歩にも出られないわね」
「パチュリーさんここから出る気無いじゃないですか。それに私、山猫じゃないですし」
そう言いながら八雲橙は左耳に付けたイヤリングをとんとんと叩きながら誇らし気に笑った。
「あら物知り。ついでに色々教えてくれたりしないかしら? 博麗の巫女がどこから湧いてきて、幻想郷にとってどんな役割を持っているのか」
「それが私も詳しくは知らないんですよ。或る日紫様だけで数日外出されたかと思うと、帰って来た時にはもう次世代の巫女見習いの子が居て。そういえば、巫女の子が亡くなる時も大体紫様が看取ってますね。役割も同じ。特別な事が有ったとしたら、それは紫様しか知り得ないんですよ」
八雲橙は少し拗ねた様にそっぽを向きながら、クッキーを丸々一つ口に放り込んだ。
「それにしても、その事が何か今回の異変と関係するんですか?」
紅茶を一口飲み、ほうっと息を吐いて、そうしてパチュリー・ノーレッジは口を開いた。呆れたと言いた気な表情をして。
「直接的ではないわ。けど、あの八雲紫がこんな大掛かりな事をしてまで異変解決に、霊夢の魂の保護に乗り出すのは明らかに異常なのよ。霊夢の死後、弾幕ごっこが廃れていった事も含めてね。けど、今の話でなんとなく分かったわ。あの妖怪は博麗の巫女無しには安定的に存在できない。自分の結界じゃなくて博麗大結界に術式を仕込んだのも理由有っての事でしょうね。大袈裟に言えば憑代なんて……」
魔女はふと、目の前に座る客人の顔を見て、語るのを止めた。そして乾いた口を潤す為に紅茶を一口口に含んだ。
茫然。或いは驚嘆か。
八雲橙はパチュリー・ノーレッジの話の速度に付いて行けていなかった。まるで八雲紫が悪人であるかの様な話の展開に頷けないでいた。
「ああ、ごめんなさい。本当はこんな込み入った話をするつもりじゃなかったのよ。ただのお茶会。ね?」
謝る素振りなど無く。高圧的に。
「博麗神楽の話をもっと教えてくれないかしら? 幻想郷縁起には史実を客観的にしか記されていないから。名も覚えられないまま消えていく彼女の事に実はちょっと興味が湧いたの」
「それでしたら――」と八雲橙は表情を入れ替えて、まるで友人の話をするかの様に嬉々として語り出した。




