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ハーレムへの選択肢  作者: ひなた
クラスメート
109/223

 これは遊ばれるわけだ。そう思うほどに、彼女は疑いを持っていないようであった。

 何に対しても、何より自分の魅力に対して。どうしよう。


 ①はっきりと ②やんわりと ③言わない


 ーここは①を選びますー


 本当に松尾さんの言葉を全て信じているようだ。

 否定をしたとしても、俺よりも信頼している松尾さんの言葉を信じてしまうに違いない。

 本人が良いのかもしれないけれど、見ていて、どうにも良くないことだと思えてしまう。このクラス内だけでなくて、これからも続くのだとしたら……。

 余計なお世話だろうけれど、祭さんに良くないと思うから。

「ファンじゃ、ないんですよ。彼らは祭さんのファンではないのです。きっとだれも、だれも、祭さん目当てではないのです」

 まだ、意味がわからないといった顔をしている。

 どうしてここまで言ってもわかってくれないんだよ。

 これ以上はっきりとなんて、言ってしまいたくないのだし、もう言わせないでほしい。察してほしい。

 そんなピュアな表情でいないでほしい。どうしよう。


 ①怒鳴る ②丁寧に説明する ③走り去る


 ーここは②を選ぶとしましょうかー


 丁寧に丁寧に説明をしていけば、祭さんもわかってくれるだろうか。

「あたし目当てじゃないって、あたしのライブなのにか?」

「そうですよ。祭さんのライブなのにです。確実に祭さんのライブに来ることが、わかりきっている人が、そういう人気者がいたとは思いませんか?」

 全てを言ったようなものなのに、どうして首を傾げる。

 なぜ首を傾げる!

「松尾さんのファンクラブの存在をご存知ですか。そういうのに疎い俺ですら知っている、他校の生徒までが入っていると噂の、松尾さんの公式ファンクラブを」

 言っているのに、どうにもわかってくれない。

 もしかしたら、本気で松尾さんのファンクラブのみんなが、祭さんのことが好きなのだろうと思っているのかもしれない。

 どう言ったなら、そこまで信じさせることが出来るのだろう。

 どう育ったなら、そこまで信じることが出来るのだろう。

 そしてどう説明したら良いのだろうか。どうしよう。


 ①傷付けても良い ②丁寧に ③諦める


 ーここで①なのだそうですねー


 もういっそ、傷付けてしまうくらいで良いのかもしれない。

 ネガティブに考えて、全てにおいて不安になって疑っているコノちゃんは、これまで何度も傷付いてきたせい。

 ならば傷付けてしまうくらいで、むしろ良いのかもしれない。

 祭さんはあまりに素直なのだから。

 この後、松尾さんに遊ばれ続けるのだとしても、そのまま飽きられてしまうのだとしても、ここまで素直じゃいけないと思う。

 俺は彼女の何というわけでもないけれど。

「だってあのライブへ行ったならば、必ず松尾さんに会えるのです。そうしたら、松尾さんのファンの人々が、来るに決まっているではありませんか。ほら、ね、だれ一人として着いて来もしないでしょう?」

 どこまで言っても良いものか。

 女の子を泣かせてしまうようなことがあったら、俺のメンタルだって駄目だろうし、祭さんのそんなところを見せられたら、……困るし。

 ラインを探りながらだったのだが、彼女は思ったよりも気付いてくれない。

 図太いとかじゃなくて、信じていることを疑いもしないのだろう。

 なのだから、傷付けてしまうことさえ覚悟で俺は言った。

「どういうことだ。あたしが大好きだから、あたしに近付けないんだってクリスは言ってた。だけど、お前ぇは選ばれし存在だから、あたしの特別にもなれるし、あたしにも近付けるんだとかなんとか」

 どうしたら言葉が通じ合うのだろう。

 彼女も俺の言葉がわからないようだが、俺も彼女の言葉さっぱりわからない。違う言語を使っているのかな。

 選ばれし存在って理解に苦しい。どうしよう。


 ①説明する ②説明を求める ③助けを


 ーここは③を選んでしまいましょうかー


 俺と祭さんだけでは会話が成り立っていない気がする。

 その間を繋いでくれるとしたら、それは松尾さんしかいないのだろう。

 しかし彼女を呼んだら、遊び半分に場を搔き乱される可能性もあるから怖い。

 また、自称主役である祭さんを連れ出す分には問題なかろうが、実質主役である松尾さんを連れ出すのは周りが許さないだろう。

 今更になって諦めて、祭さんを教室に戻すわけにもいかないし。

 俺だって戻るわけにもいかないし、とはいえ帰宅もしづらい。

「だれか、こちらに来ては頂けませんか。祭さんと一緒に話が出来ますよ」

 勇気を出して教室へ行き、軽く声を掛ける。

 当然、だれもそんなことを聞いてはいない。聞こえてはいるのだろうけれど、反応してくれる人さえいない。

 これを聞いても祭さんはわからないのだろうか。

 そう思って振り向けば、少し怒っているような表情だった。

 いや、違う。

 俺の言わんとしていることが、やっと伝わったと見て良いのだろう。

 だとしたらこの表情は、傷付いた表情だということ……?

「そんじゃつまり、クリスがあたしに嘘を吐いていたんだって、そういう意味かよ。そう言いたいのかよ」

 俯いた彼女の声は、震えていた。

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