1日前 2度の危機
今日のログインは15時、遅くなったのは明日の分の宿題を終わらせたからだ。
まずは木にナイフを使って登り、刺さったままのダガーを回収する。
南の草原の魔物は全て仲間にしたので今日は狩場を東か西に変えたい。ただ、昨日から巣を追いかけたせいでここが何処かわからない。目印になりそうなものは遠くにうっすらと見える森らしき影くらいだ。あの影が森であっているならあっちが北になる。
とりあえず森らしき影に向かって歩き出そうとしたらカーがぴーぴー泣き出した。上を向いてくちばしを開けていることからお腹が空いたようだ。
背負い袋から昨日使ったマヨイイヌの肉とまだ残っていたオオウサギの足を取り出す。マヨイイヌの肉は小さく切り分けてカーに、オオウサギの足は解体してレイドッグにあげる。
ララビィはそこらへんの草を好き勝手に食べていた。
満足した眠ったカーをララビィに乗せて、森らしき影を目指して出発する。しばらく歩くと急に草が膝に届く長さになり少し歩きづらくなった。
気にせずに進むと緑色の肌をした腰くらいの背丈の人型の魔物が現れる。ボロボロの服をまとい右手には剣を持っている。
始めてみる魔物ということは南の草原から出たみたいだ。他にも新しい魔物がいるかもしれない。
新しいフィールドに期待を抱いていると、人型の魔物がこっちへ向かってきた。近づく手間が省けたと思いこっちからも近づいていく。
2mくらいのところまで近づいたあたりで魔物が急に速度を上げ剣を振りかぶってきた。こっちはまだ何もしていない。
慌ててダガーを腰から抜いて剣を受け止める。ギィンと鈍い音があたりに響く。
その音が合図となったのか草むらから3匹の同種の魔物が俺達を囲むように飛び出した。
「ララビィ、カーを安全な場所に置いてから手伝え! レイドッグは俺の後ろに敵を寄せるな!」
ララビィとレイドッグに指示を出す。俺も目の前の魔物をどうにかしないと。
魔物の持っている武器を確認する。所々かけている刃は鈍く、とても切れそうにない。
そう判断し再度振りかぶった剣を左腕で受ける。受けた腕は痛いがこらえて、隙だらけの胴体に右手に持ったダガーを突き刺す。
魔物が剣を振り上げては腕に振り下ろすのを繰り返し始める。俺も突き刺したダガーを捻りながら体の奥に進めていく。徐々に振り下ろす剣の威力が落ちていき、倒せると考えた俺の肩を後ろから誰かが殴った。
確認しなくても残りの魔物だというのはわかる。やはりレイドッグ1匹では抑えきれないようだ。
正面の魔物が力尽きたのか剣を落として倒れこんでくる。潰されるのはマズイのでダガーを抜いて横に回避、しかし回避中の俺の膝横に激痛が走る。あまりの痛さに俺は膝を押さえて地面を転がる。
目に入ったのはボロボロの斧だった。その斧が回避中に運悪く俺の膝の外側に当たった様だ。斧はそのまま上に登っていき空高く振り上げられると俺の顔に向かって下りてきた。
咄嗟に両腕を顔の前に持ってくる、視界を塞ぐ時に映る魔物の顔が薄気味の悪い笑みを浮かべていた。
ドンッ!!
それは、腕に斧が振り下ろされた音ではなかった。カーを置いて戻ってきたララビィが斧を持った魔物をタックルで吹き飛ばした音だった。
助かったが……もしかしてララビィの方が俺より強いんじゃないだろうか。確認してみるか。
「ララビィは目の前の敵を倒せ! レイドッグも片方に集中して攻撃! 終わったら俺を手伝え!」
レイドッグが地面に抑えていた1匹を開放、残った魔物をひっかき始める。
俺は向かってきた魔物が武器を振り下ろす前に距離を詰め両腕を掴んで地面へと転がる。暴れる魔物の足が腹に当たるのが気になるが痛くはないので放置。後はあいつらがこっちに来るまで観戦だ。
レイドッグは地面に魔物を押さえつけたまま喉を何度も引っ掻いて攻撃。魔物も抵抗しようと暴れているがレイドッグは気にもしていない。魔物が動かなくなるのも時間の問題だ。
ララビィの方は魔物が起き上がろうとしたところをタックルで吹っ飛ばしていた。吹っ飛ばされた魔物は木に背中を打ち付けて止まる。その一撃で力尽きたのか魔物は木をすべる様に座り込みうごかなくなった。
再度レイドッグの方を見ると、既に力尽きたようで微動だにしない魔物。レイドッグは魔物をそのままにこちらへと走り始める。
ララビィが先に近寄ってきたが俺が邪魔で攻撃できない。魔物は少し遅れてきたレイドッグが喉に噛み付いてそのまま倒した。
ボロボロの俺と無傷のララビィとレイドッグ、こいつらのほうが俺より強いのは間違いなさそうだ。俺の傍でお座りの体勢をしている2匹を撫でながら次から俺がフォローに周ろうと決める。
「ぴー! ぴー!」
……カーのことを忘れていた。鳴き声は聞こえるが草むらのためどこに居るのかわからないの。
「ララビィ、カーを連れて来てくれ」
走り出したララビィを少し待つと口にカーのリボンの結び目をくわえて戻ってきた。
「ぴー! ぴー!」
ララビィから受け取るもカーが鳴くのをやめない、どうしたんだ?
ガサガサ
ララビィの後ろの草むらが揺れる。警戒して待っていると姿を現したのは大きなトカゲだった。大トカゲは緩慢な動きで草むらから出るとなぜか俺の方にやって来る。その動きが何となく可愛かったので撫でようと手を伸ばすと、今までの動きからは考えられない速度で尻尾を俺の胸目掛けて振ってきた。
俺は後ろへと吹っ飛ばされ、背中を打って咽かえる。頭を起こしてトカゲを見るとゆっくりとした動作で尻尾を戻していた。
「ゲホッ、ゲホッ……ララビィ、レイドッグ……あいつを倒せ」
俺の指示でララビィとレイドッグがトカゲに攻撃するが、ララビィのタックルを受けてもビクともしないし、 レイドッグの爪ははじかれている。すごく頑丈な奴のようだ。
2匹の攻撃を歯牙にもかけず俺を目指して歩き始めるトカゲ。先ほどの攻撃をもう一度食らえば死に戻りは確実だ。
苦しさと先ほどの膝へのダメージで立ち上がれない俺は少しでも追いつかれないようにと地面を這って移動した。
トカゲから離れようと無我夢中で地面を這う俺の足に硬い何かが触れる。見ればトカゲの前足が俺の脚を抑えていた。
先ほどの痛みと苦しさを思い出して体が震え出す。
「誰かこいつを止めてくれー!!」
「ぴー!!」
俺の叫びに答えてくれたのはカーだった。
カーは俺の手から飛び出すとトカゲの右目をくちばしで突いたのだ。
さすがに目は柔らかいらしくカーの攻撃に首を大きく左右に振る。そのせいで顔に取り付いたままのカーが投げ出されてしまった。
「カー!!」
俺は足に力を入れて立ち上がりトカゲに跳びかかると、トカゲの頭を手で押さえて腰から抜いたダガーを右目の斜め下から突き上げるように刺した。暴れだすトカゲの力についダガーを離してしまい俺の体も投げ出される。
すぐに体を起こしてトカゲに追撃を加えようとするも、トカゲの暴れる方がすさまじく近寄れない。トカゲはしばらく暴れ続けて死んでいった。
カーを助けないとと思った俺はカーの飛ばされたあたりを確認するが既に地面に落ちたのかカーの姿は見当たらない。
「ララビィ!! レイドッグ!! カーを探せ!!」
くそっ!! 俺がびびらなければカーが無理をすることなんてなかったのに!! 無事でいてくれ!!
「ワンッ!!」
どうやらレイドッグがカーを見つけたらしい。声のしたほうを見るとレイドックがカーをくわえていた。
「2匹とも戻って来い」
レイドッグからカーを受け取り容態を確認するが目立った傷もなく元気そうだ。よかった、。
安心したせいか膝の痛みがより強くなって戻ってきた。その激痛は今日はもう立ち上がれそうにないなと悶絶しながら思うほどだ。
痛みが少し引くのをまって時刻を確認した。時刻は17時過ぎ、まだ1時間以上余裕があるが解体したら今日はログアウトしてしまおう。
「ララビィ、レイドッグ倒した敵の武器を集めてくれ」
人型の魔物はさすがに解体したくないから2匹に武器の回収だけ任せて、俺はトカゲを解体していく。腹の皮が柔らかかったのでダガーは腹から入れていつものように肉と皮を分けていく。分けた肉を今度は尻尾・腰上・脚・体に分割した。すべて解体して手に入ったのは、爪・牙・皮・各種肉・背骨・頭だ。すべてベビーリザードのとついていたのでそれがトカゲの種族名のようだ。
武器は剣が2本、槍が1本、斧が1つでそれぞれソウゲンゴブリンの名を冠していた。
解体も終わりすべて背負い袋にしまったのでログアウトの操作をしようとして3匹にお礼を言ってないことを思い出した。
「今日は、その……ありがとう。お前らがいなかったら死んでいた、と思う」
相手が人ではないからだろうか、素直にお礼を言うことが出来た。3匹とも特に反応はないがきちんと伝わってるような気がする。
気恥ずかしさで顔が熱くなるのを隠したくて急いでログアウトした。
3人目になる《RMMO》 小さきエンジニアの大きな発明 始まりました。
この3人が主人公となりますのでよかったら一緒にお読みください。