3日前 大きな成長
今日の朝食は焼き鮭にご飯と味噌汁、昨日の売れ残りである刺身だ。それを大急ぎで掻き込んでいく。
「飯ぐらい落ち着いて食えねぇのか!」
「お父さんの言うとおりよ、大地」
「どう食おうが俺の勝手だろ」
「ゲームが楽しいのはわかるけど……。そういえば、宿題は進んでるの?」
俺の箸が止まる、今週は《RMMO》に夢中で宿題には手をつけていなかった。
「宿題もせずにゲームとはいい身分だな大地」
「そうよ、宿題はきちんとやりなさい」
「うるせー」
遅れた分の宿題を進めて本日二度目のログイン、時刻は15時20分になっていた。
「待たせた」
近くにいたララビィに声をかける。
バサバサと沢山の音、俺の声に反応して数羽のソウゲンカラスが飛び立って行った。
あたりを見回すがやはりマヨイイヌの死体は残っていなかった。
1匹でいるマヨイイヌを狙い接近、ひと撫でして跳びかかって噛み付いてくるのを待つ。噛み付いてきたら左腕を横にして口に突っ込み、右手で地面に押さえつける。
しかし、また邪魔が入った。今回は3匹の追加だ。こうなったら一度全滅させたほうが早い。
「ララビィ、突撃」
ララビィは好きに戦わせて、俺は噛み付いた奴からダガーで滅多刺しにしていく。
それぞれ2匹ずつ倒し、全滅させた頃には俺のHPは2割を切っていた。
マヨイイヌの死体を一ヵ所集め解体していく。何となく忌避感があるが殺して放置するのは良くない。
皮を剥いで足と頭と尻尾を落とし、全て背負い袋にいれる。
皮と尻尾と肉は依頼用に、頭と足も何かに使えるかもしれないからとっておく。
更に2匹のマヨイイヌを解体し、最後の1匹に取り掛かったところで変化があった。
何となくだがどう解体すればいいのかがわかるのだ。今までは出来なかった頭や足の部分の皮剥ぎが出来るようになり、牙や爪も分けられた。肉にいたっては部位ごとの分割まで出来そうだった、……しなかったが。
関係ありそうなのは解体のスキルだ。ステータスで確認してみる。
名前:ダイチ
ジョブ:〈魔物使い〉3(2)〈酪農家〉7(2) 〈料理人〉1
能力値:筋力・・・8(1)
体力・・・8(1)
器用・・・8(1)
敏捷・・・4
魔力・・・3
精神・・・7(1)
スキル:使役2(NEW) △解体10(2)
称 号:駆け出し
装 備:ビギナーダガー
アイアンスケイルメイル
厚手の服
アイアンアームガード
鉄の脚甲
所持品:背負い袋(剥ぎ取りナイフ 革の水筒 オオウサギの足30 オオウサギ
の頭30 マヨイイヌの毛皮4 マヨイイヌの尻尾4 マヨイイヌの肉4
マヨイイヌの足4 マヨイイヌの頭4 マヨイイヌの牙42 マヨイイヌ
の爪18)
所持金:7430B
解体が10を越え、スキルの前に三角形が突いている。あと、新しく使役のスキルが増えている。
使役はララビィが仲間になったことでスキルを得たんだろう。
解体の三角形は解体が成長したからだろうか、ほかに理由が思いつかない。
三角形に触ると新しくウィンドウが現れ、ウィンドウに表示されているのは分割(肉)だ。肉を部位ごとに分割できるようになったのはこれのおかげか。
その場に座り込みララビィを抱いてHPの回復を待つ。
……モフモフ……モフモフ。あぁ~、やわらかいなぁ~。
しばらくララビィをモフモフして心も癒されたところでマヨイイヌ探しを再開する。
時刻は現在17時09分、あれから2度挑戦したがいずれも失敗。倒したマヨイイヌは10匹だ。
今日は次が最後のチャンスになるだろう。なんとかマヨイイヌを仲間にしたい。いい方法はないだろうか。
「ララビィはどう思う?」
そこらへんの草を食べているララビィに聞いてみる。ララビィはこちらに反応することなく食事を続けた。……まあ、答えが返ってくるとは思ってないが。
ゲームでも餌を食べるんだなと観察して見るが、草は減っていない。多分動作だけで実際は食べていないんだろう。これは料理を作っても食べてくれないかもしれない。
……そうだ、餌だ。マヨイイヌに餌を与えてみよう。
まずは背負い袋からオオウサギの足を取り出す。皮を剥いで爪を取る、取った皮と爪は背負い袋へ。これでオオウサギの足肉の完成である。
早速近くのマヨイイヌに差し出すがマヨイイヌはなかなか寄って来ない。肉を持ったまま5分程待っていると、ゆっくりと寄ってきて肉に噛み付いた。食べたことになったのか肉が手の中から消える。
肉を食べたマヨイイヌはその場に立ったままこちらを見ている。たりないのかな?
背負い袋からあるだけのオオウサギの足を出して解体、出来たものからマヨイイヌの方に投げてやる。
飛んでくる肉をキャッチしては食べ、キャッチしては食べを繰り返すマヨイイヌ。オオウサギの足が減っていき残り8本でウィンドウが現れた。内容はわかっている、名前をつけてくださいだ。
少し考えレイドッグと名づけた。マヨイイヌを英訳したストレイドッグから取った名前だ。
「ワンッ!」
気に入ってくれたのかレイドッグが吠えた。
名 前:レイドッグ
種 族:マヨイイヌ1
スキル:戦闘1 集団戦1
装 備:
スキルに戦闘だけじゃなくて集団戦がある。マヨイイヌは複数で襲いかかって来るから持っていても変じゃない。
どうせだからララビィと比べてみよう。
名 前:ララビィ
種 族:オオウサギ5(4)
スキル:戦闘8(7)
装 備:
ララビィも大分成長していた。
そういえば魔物たちのスキルも増えたり、成長して三角がついたりするんだろうか?もしそうなら楽しみだな。
2匹のステータスは見たので今度は実際に戦ってみることにした。獲物はマヨイイヌだ。時間は17時50分とギリギリだが何とかなるはず。
3匹ほどで固まって伏せているマヨイイヌにダガーで攻撃する。3匹全部がこちらを向いて立ち上がった。
「ララビィは攻撃、レイドッグは俺の援護だ!」
「ワンッ!」
ララビィは奥にいたマヨイイヌへと向かっていく。俺は噛み付きを待つ体勢、レイドッグは俺の左に構えた。
直に跳びかかってくる2匹のマヨイイヌ、右が噛み付き左が引っ掻きだ。ダガーを持った右腕に噛み付かせると面倒なので噛み付きは避けひっかきはアームガードで防ぐ。
前後から挟まれる形になったがとりあえず前の奴に意識を集中する。
前のマヨイイヌが跳びかかってくる、今度は噛み付きだ。なれた動きで左腕を突っ込むと後ろからの衝撃に備える。が、後ろからの攻撃はなかった。
左腕に噛み付いたマヨイイヌをダガーで何度か刺す。動かなくなり左腕からはがれたのでもう1匹に対処しようと振り返る。
すると、2匹のマヨイイヌがもつれ合っていた。よく見ると片方は首筋に噛み付いて引き倒そうとしており、もう片方は俺をにらんで引き剥がそうとしている。多分引き倒そうとしているのがレイドッグで、俺の後ろを守ってくれていたようだ。
2匹に近づき念のため引き剥がそうとしているマヨイイヌの口の前に左腕を差し出す。マヨイイヌが左腕に噛み付いたのでレイドッグではないと判断してダガーを刺す。動かなくなったので最終確認としてレイドッグを撫でてみる。……ちょっとごわごわだが撫で心地はわるくないな。
いやいやそうじゃない、抵抗する様子がないのでこのマヨイイヌはレイドッグだ。
それじゃあ残ったマヨイイヌを片付けようと今度はララビィの方を見る。丁度ララビィのタックルでマヨイイヌが吹っ飛んだところだった。
マヨイイヌから視線を外さずにララビィに駆け寄る。……マヨイイヌが起き上がらないな。
一応警戒しながらマヨイイヌに近づき生死を確認、既にマヨイイヌは死んでいた。
ララビィが1体1でマヨイイヌに勝てるようになっていたとは、ステータスで成長は確認したがこれほどとは思ってなかった。
予想外の勝利にララビィを撫でてあげる。……は~、ふかふかだ~。
3匹のマヨイイヌの解体作業を済ませる、時刻は18時43分。予定を少し過ぎてしまったが19時までに店に行けばいいので問題はない。
「ララビィ、レイドッグ、また明日だ」
「ワンッ!」
レイドッグに対しララビィは鳴かないため動きがないと反応してくれていないようで寂しい。まあ、仕方ないことだが、何か使えるスキルとかないんだろうか。
少しだけもやもやとしたものを胸にログアウトした。
20150125・・・装備が変わってなかったのを修正